第334話 お前! 口説き落しておけよ!
騎士の宿舎へやってきたレオルドだが、いきなり躓く事になる。肝心のジークフリートは巡回警備のため、不在だったのだ。
仕方なく、レオルドは街を歩き回り、ジークフリートを探し回る。別に宿舎で待っていても構わなかったのだが、それだと夜になるので、時間がもったいないとレオルドは探す事にしたのだ。
街を巡回警備している騎士を見つけては、ジークフリートの所在を聞いて回るレオルド。そして、ようやく、ジークフリートを発見した。
先輩の騎士達に囲まれながら、ジークフリートは街の安全を守る為に巡回を行っている。そのジークフリートは今、レオルドの視線の先で泣いている女の子に話しかけていた。
一見フラグが建ちそうな光景だが、フラグが建つ事はない。泣いている女の子は、迷子で両親を探していた。そこにジークフリートが駆け寄り、先輩の騎士達と一緒に親を探している最中だった。
レオルドは手助けをしようとしたが、すぐに親は見つかった。それも当然だろう。はぐれた子供が心配で、親はずっと捜していたのだから、騎士達が気付くのもすぐだった。
迷子の女の子は両親と再会して、ジークフリートにお礼を述べてから家へ帰る事になった。その光景を見ていたレオルドは、今がチャンスだと、ジークフリートに歩み寄り、声を掛ける。
「ジークフリート。今、いいか?」
「へ?」
声を掛けられたジークフリートは後ろを振り返る。すると、そこにはレオルドがいた。予想外の人物にジークフリートは驚きの声を上げる。
「うわぁっ!? レオルド!?」
「言葉には気をつけろと、忠告していたはずだが?」
「あ、すいません! えっと、レオルド辺境伯」
「ふっ、まあいい。それよりも、今、時間はあるか?」
「え、あー……」
いきなり、レオルドが訪れてきたので驚いたジークフリートだが、彼は現在、職務に励んでいる最中だ。ジークフリートは、仕事の真っ最中なのでレオルドと話すことは出来ないと困っていた。
しかし、一緒にいた先輩の騎士がジークフリートの頭を叩いた。
「バカ! お前、相手を見ろ! レオルド辺境伯だぞ! 仕事なんていいから、さっさと行け!」
「え、いいんですか?」
「当たり前だ。俺らの上官よりも偉い人なんだから、問題ないわ!」
なるべく、レオルドに聞かれないように話しているが、目の前にいるので普通に聞こえている。二人の話し声を聞いてレオルドは咳払いをした。
「ゴホン。まあ、そこの騎士の言うとおりだ。お前の上官には後から連絡しておく。だから、少し俺に付き合え」
それを聞いて、先輩の騎士はジークフリートの背中を叩くように、レオルドの前へ押し出した。
「すまんな。少し、こいつを借りていく。もし、上官から文句でも言われたら、遠慮なく俺に言ってくれ。それなりの対応を取らせてもらうから」
ニッコリと微笑んで、先輩の騎士達を安心させようとしているが、逆効果である。
彼らはレオルドの事を英雄と思っているが、かつては悪童だったという事も知っている。だから、レオルドが言う、それなりの対応がどういうものなのかと、彼らは変な風に捉えていた。
『は、はい!』
彼らは上官には、しっかりとレオルドの事を報告しようと誓った。下手をして、自分達にまで被害が及んで欲しくないから。
レオルドは騎士達の返事を聞いてから、ジークフリートを引き連れて、適当な喫茶店へ入る。
席に着いたレオルドは、何故か突っ立ったままのジークフリートを見て首を傾げる。
「なぜ、座らない?」
「え? 座ってもいいんですか?」
その一言でレオルドは自身の立場とジークフリートの立場に隔絶の差があることを思い出した。溜息を吐いてレオルドは、ジークフリートに座るように命じた。
「いいから座れ。ずっと、立たれてると店にも迷惑だろう」
「わかりました」
「それから、二人のときは敬語も止めろ。確かにさっきは注意したが、立場を考えてだ。今は、俺とお前しかいないから、気にする者はいない。だから、学園の時と同じような感じでいい。というか違和感で気持ち悪い」
「ええ……」
最後の気持ち悪いという言葉に、ジークフリートはなんとも言えない表情になる。敬語を使わなくていいし、学園の時と同じような態度でいいというのは、非常に有り難い事だったが、最後の気持ち悪いという言葉にジークフリートは地味に傷ついた。
「さて、俺がお前に会いに来たのは他でもない。お前が誑かした女についてだ」
「誑かしたって人聞きが悪いこと言うなよ!」
「お前にその気がなくても周りからすれば、そう見えても仕方がないだろう?」
「俺はそんなつもりじゃ……」
そんなつもりはないと否定したいのだが、レオルドの言うとおり周囲の者からすればそうではないことが理解できるジークフリートは黙ってしまう。
実際、同じ騎士団の仲間からも小言を言われているので、ジークフリートはレオルドの言う事は間違っていないと分かっていた。
「まあ、俺は別にそのことでお前に文句を言いにきたわけじゃない。キャロラインという女性を知らないか?」
「キャロル先輩の事か?」
「そうか。やはり、知っていたか。今、どこにいるか分かるか?」
「いや、知らないけど。学園を卒業してからは会ってないな」
「なんだと!? お前、口説き落としたんじゃないのか!」
「何で俺が口説き落としたことになってるんだよ! キャロル先輩には怪しい薬の実験台になったり、薬の材料を集めさせられたりしただけだ!」
「バカな! そのまま、お前はモルモットとして卒業後も仲良くなるんじゃなかったのか!?」
「知るかよ! 普通に卒業してから、連絡もしてないわ!」
(マジか、マジか、マジか〜!!! まさか、ジークに惚れなかったとは思わなかった……。確かにゲームとは違うが、キャロラインは学園に出てくるヒロインの一人だから、ほぼ出会うはずなのに……。しかし、どうするかな。ジークが知らないとなると、彼女はどこにいるんだ?)
思わぬ事態に頭を抱えるレオルド。そんなレオルドを見て、ジークフリートは不思議そうに首を傾げる。レオルドは、キャロラインに何か用事でもあるのだろうかと。
「なあ、レオルド。キャロル先輩を探してるのか?」
「ん? ああ。彼女は錬金術師だっただろ? 丁度、探してるんだが錬金術師は数が少なくてな。いたとしても、すでに雇われている者が多い。だから、キャロラインを探してるんだが……お前が知らないとは計算外だった」
「だったら、知ってる人に聞いた方が早いだろ」
「なに? 知ってる奴がいるのか!」
「ああ。テレサだよ」
「テスタロッサ・フリューゲルか……」
(よりにもよって公爵家かよ〜! 囲い込まれてないだろうな!)
それがいちばん重要なので、レオルドはジークフリートに確認した。
「一応聞くが、キャロラインはフリューゲル公爵家お抱えの錬金術師ではないよな?」
「いや、知らない。手紙のやり取りをしてることくらいしか知らないけど」
「そうか! なら、早速、テスタロッサ嬢に話を聞いてくれ!」
思い立ったが吉日どころではない。迅速に対応しなければ、有用な人材が他の家に取られるかもしれないのでレオルドは、ジークフリートにテスタロッサとの面会を頼んだ。
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