第330話 攻略方法が判明されたボスは可哀そうである

 準備を整えたレオルド達は門を開ける。すると、紫色の毒々しいガスが部屋に充満して、レオルド達が開けた門も閉じて完全に密閉された空間になってしまう。しかし、レオルド達が慌てることはない。すでに対策を立てているので、その通りに動く。


「シャル!」


「任せなさい!」


 レオルドの合図を聞いてシャルロットが解毒魔法を発動させる。そして、同時に付与魔法を発動して、三人に耐毒を付与した。これで、毒ガスは完全に無効となる。


「ゲコ」


 だが、まだこれで終わりではない。最奥の部屋に待ち構えているのはカエル型の魔物。レオルドの数倍はある巨体が、強靭な脚力で宙を舞う。部屋に侵入してきた愚かな盗人を、その巨体で押しつぶそうとしていた。


「散開ッ!」


 レオルドが指揮を執り、ギルバート、シャルロットの二人はそれぞれの配置へ移動する。カエルの伸し掛かりを避けた三人はカエルを囲むように散らばった。


「ギルッ!」


「承知ッ!」


 剣を構えたレオルドとギルバートが左右から仕掛ける。カエルは首を大きく回し、口から舌を伸ばして二人を攻撃する。鞭のように伸びてきた舌をレオルドは跳んで避け、ギルバートは身体を回転させて舌を避けると、二人は同時に剣を叩き込んだ。


「ゲロオオオッ!」


 苦悶の声を上げるカエルは、これ以上攻撃させまいと、その巨体を暴れさせた。流石に大暴れしているカエルに不用意に近づくのは危険だと、二人は距離を取る。二人が離れたのを確認したカエルは、左右の二人どちらを狙おうかと目を動かした。


 しかし、二人を見比べても強いと本能で感じ取ったカエルは、シャルロットに標的を変更した。ピョンっと跳ねて、カエルはシャルロットに飛びかかる。


「まあ、そう考えるでしょうね〜」


 シャルロットは自分が狙われることは想定内だった。むしろ、選択肢としてはそれしかないという考えだ。だが、それは大きな間違いだとシャルロットはカエルに教える。


 押し潰そうと、跳んだカエルの前にシャルロットは氷の壁を作って、カエルの攻撃を防いだ。


「魔法は効かないけど、こういうのは効くわよね〜?」


 その言葉は正しかった。カエルは突然、目の前に現れた氷の壁に身体が激突する。痛みこそ感じてないが、攻撃が防がれて、隙だらけになってしまったカエル。そこへレオルド、ギルバートの二人が飛びかかる。


 ズバババッと二人は猛攻を仕掛ける。二人による高速の斬撃に堪らず、カエルは絶叫を上げる。


「ゲロオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」


 そして、このままでは殺されると察したカエルは身体を硬化させて剣を弾き返した。しかし、剣を弾かれた二人は剣を捨てて、打撃へ切り替えたので硬化は意味を成さなかった。


『ふんッ!』


 師弟による同時攻撃。その一撃は硬化したカエルの身体を貫いた。


「ゲエッ……!」


 背後から襲いくる、とてつもない衝撃にカエルは苦痛の悲鳴を上げた。もはや、カエルに助かる道は三人を殺すことだけだ。しかし、それがどれほど難しいことか。それはカエルが一番理解していた。


 されど、カエルは逃げ出さない。この場所を守るのが己の使命だと、本能に刻み込まれていたカエルは、硬化した身体で暴れ出し、二人を引き離した。


「ゲコオオオオオオッ!!!」


 今まで以上にカエルは跳躍した。それも真上に向かって。一体何をする気なのかと思えば、カエルは天井に張り付いて、再び地面に向かって跳躍する。そして、着地。その衝撃は凄まじく、地面は蜘蛛の巣状に亀裂が入り、三人に襲いかかった。

 だが、三人に通じることはなかった。三人は予め、跳躍しており、衝撃を完全に避けていたのだ。何をやろうとも三人には通じない。カエルは、もう絶望するしかなかった。


 それでもと、カエルは舌を鞭のようにしならせて、宙に浮かんで無防備な三人に攻撃を仕掛ける。ただ、残念ながら、カエルの攻撃は一切当たらない。レオルドは障壁で防ぎ、ギルバートは舌を拳で弾き返し、シャルロットは転移魔法で避けた。


 もうカエルは涙目である。今まで戦ったことはなかったが、それでも自分がある程度は強いと自覚していた。なのに、これはどういうことか。あまりにも、酷いではないか。罠である毒ガスは完全に無効化されて、自身の特性も見抜かれてしまい、どのような攻撃も通用しない。


 このようなことがあってたまるか。せめて、一矢報いたい。そう願うカエルだが、その願いは儚く散る。付与魔法でさらなる身体強化を施されたレオルドとギルバートの拳が、脳天に落とされた。


「ゲ……コ……」


 意識が薄れそうになるカエルは、もう一度だけ三人に目を向ける。すると、そこには剣を構えているレオルドとギルバートの姿があった。そう、カエルは硬化していた身体が元に戻っていたのだ。二人は最後の止めを刺すために剣を構えているのだ。


「ギル、合わせろ!」


「お任せを!」


 同時に駆け出す二人は左右に別れて、カエルに止めを刺すべく、剣を振るった。既に死にかけているカエルに抵抗する力はなく、二人の斬撃はカエルを切り裂いた。本来であれば、カエルを倒すのは難しかったはず。しかし、ここにはカエルの攻略情報を知っているレオルドがいた。もし、カエルが呪えるのであれば、三人ではなくレオルドだけだ。反則チートを使われなければ、カエルはきっとこの場所を守れたのだから。


「……ご苦労だった。二人共。さあ、奥にある遺物を回収してゼアトへ戻るぞ」


「そこのカエルの死骸はどうするの?」


「無論。利用する。シャル、悪いが回収してくれ」


「は〜い」


 鬼畜外道である。カエルからすればレオルドは人ではなかった。鬼畜外道の皮を被った悪魔にしか思えなかっただろう。

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