第325話 おやおや~? 雲行きが怪しくなってきたぞ~

 王都へ戻ったレオルドは国王の元へ向かい、仕事が一段落するまで聖教国へ行くのを延ばしてもらえないかと相談する。


「ふむ……。ならば、交渉してみよう」


「ありがとうございます」


 これで仕事に集中出来ると思ったが、ゼアトへ戻ってしばらくすると、国王から使者が送られてきた。どのような要件かとレオルドが聞くと、神官が会いたがっているということだった。断ってもいいのだが、王国の心象が悪くなるのは避けたい。レオルドはため息をついて、使者と一緒に王都へ戻ることにした。


 レオルドは使者に連れられて、神官へ会いに行く。案内された場所には国王と宰相、それから護衛のリヒトーがいた。その正面に法衣を身にまとっている神官と神官の護衛である青と白を基調とした鎧に包まれている聖騎士がいた。


(わお……聖騎士だ。あいつら、回復魔法使えるから強いんだよな。まあ、見た感じ、この中ではリヒトーが一番だと思うけど)


 のんきなことを考えながらレオルドは、座るように促されて席につく。すると、神官がレオルドの方へ興味深そうに目を向ける。その視線に気がついたレオルドは軽く会釈した。


「初めまして、ハーヴェスト辺境伯。私はアルガベイン王国支部担当の神官、アロイスと申します。以後、お見知りおきを」


 人を安心させるような笑みを浮かべるアロイスと名乗った神官にレオルドは内心毒づいた。


(気持ち悪い笑顔だな。絶対、何か企んでるぞ!)


 初対面の人間に対して辛辣な言葉だ。まだ、挨拶をしただけだというのにアロイスの評価はレオルドの中で低いものとなった。


「こちらこそ初めまして、アロイス殿。それで本日は一体どのようなご用件で私を呼ばれたのでしょうか?」


「ええ。そちらについては既に国王陛下からお話があったと思うのですが、ハーヴェスト辺境伯と第四王女殿下が婚約されたとのことで、是非とも我が国でお祝いをと」


「ハハハ、それは大変嬉しいのですが、生憎忙しい身分でありまして、そう簡単に領地から離れることが出来ないのですよ」


「おや、それは困りましたね。教皇猊下からは是非にと仰られましたので」


(断れないやつじゃねえか! しかも、教皇が自らって……あっ、そういえばシルヴィアは聖女候補だったんだ……。そりゃ、呼び寄せるよな! でも、怪しさマックスで行きたくないんだが!)


 しばらく考える素振りを見せてレオルドはアロイスに事情を説明した。


「アロイス殿。しばらく待ってもらえないでしょうか? まだ領地で仕事が残っていまして、それらが片付くまでは離れることが出来ないのですよ」


「なるほど。それなら、わかりました。どれだけ待てばいいでしょうか?」


一月ひとつきほどはいかがです?」


「ふーむ、一月は少し長いですね」


「では、三週間でどうでしょうか?」


「三週間ですか……。もう少し短くは出来ませんか?」


「そうですね……。では、二週間でどうです?」


「それくらいなら猊下もお待ちいただけるでしょう」


 そういうわけでレオルドは二週間の猶予を貰った。その後、しばらく世間話をしてアロイス達が帰還して、残ったレオルドは国王達と今後について話す。


「よく説得できたな。先程の話し合いは下手をしたら外交問題になっていたかもしれんぞ」


「まあ、教皇猊下からのお誘いですからね。しかし、こちらにも立場はありますし、何よりも本来ならば向こうがこちらに出向くのが当たり前と思うのですが」


「それはそうなのだが、聖教国の影響力は無視することができん。この王国内にも多くの信者がいる上に、何よりも病気や怪我を治してくれる回復術士が聖教国からの派遣が多いからな」


「やはり、それが問題なんですよね」


「うむ。それに今は地方の方で疫病が流行っているのだ。今、回復術士を連れ戻されてはかなわん」


「あー、なるほど……」


 疫病が流行っていることをレオルドも知ってはいたが、解決手段がないのでどうすることも出来なかった。それに、何よりもゼアトと離れた場所だからレオルドは余計にどうすることも出来なかったのだ。


(しかし、このタイミングで疫病って……聖教国のせいじゃね?)


 こうもタイミングがいいと、やはり疑ってしまう。しかし、調査しても聖教国だという証拠は何もない。だから、訴えることも出来ない。


(マッチポンプで金も貰うし、交渉も有利に進めるぜ! ヒャッハー! てな感じかな)


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというが、つくづくその通りだなとレオルドは思う。レオルドの中には真人の記憶もあるので、やはり宗教に関わるものではないという結論に至った。


(餓狼の牙とゼファーに依頼して調査してもらうか? でも、時間が足りないな。二週間は貰ったけど、聖教国で起こりそうなイベントの対策を練るくらいか……)


 とりあえず、レオルドは国王達に挨拶をしてからゼアトヘ帰る。ゼアトへ帰ったレオルドはまず最初に、聖教国で起こるイベントを思い出す。


(聖教国狂乱編、教皇の暴走によって邪神が復活。正確に言えば邪神の残滓のようなもので本体ではない。だが、教皇の体を乗っ取って大暴れする。しかも、強い。だけど、最後にはさらなる覚醒を果たした聖女とジークの手によって敗北。まあ、この通りなら俺いらないんだけど……)


 運命48ゲームであったならレオルドの出番はない。しかし、ここは現実で、しかもレオルドは教皇からお祝いという名目で聖教国にお呼ばれされている。断ることは出来ないので、聖教国に向かうことになるのだが、しばらくの時間は稼げた。

 その時間を使ってどう対策を練るかが重要になってくる。なにせ、運命48と同じなら、邪神の残滓に乗っ取られた教皇を倒せるのは聖女とジークしかいないからだ。

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