第296話 私の脳内メモリは無限大です

「あら? 貴方まだいたの?」


 転移魔法で無人島へやってきたシャルロットとシルヴィアだが、シャルロットの方はゼファーを目にしてまだここにいたのかと驚いていた。隣にいるシルヴィアは一体誰なのかと様子を窺っている。


「ええ。帝国には居場所がありませんから」


「ああ、そういうこと。それよりレオルドが来なかった?」


「あー、彼ならそちらに」


 シャルロットにレオルドの所在を聞かれたゼファーはマグロが突き刺さった銛を天高く掲げて海に浮かんでいるレオルドを指差した。

 夕日によりキラキラとした海面に巨大な魚を銛に突き刺して浮かぶ裸の男レオルドを目にした二人はそれぞれの反応を見せる。


 シャルロットは面白すぎる光景にお腹を抱えて大笑いし、シルヴィアは一体何事かと戸惑っている。やがて、二人の存在に気がついたレオルドがマグロを抱えて陸に上がってくる。


 その時、陸に上がったレオルドを見てシルヴィアが悲鳴を上げる。


「きゃあああああああっ!!!」


 突然、シルヴィアが悲鳴をあげるものだからシャルロット、ゼファー、レオルドの三人はそれぞれ戦闘体勢を取り、シルヴィアを守ろうとする。しかし、それは間違いである。シルヴィアが悲鳴を上げたのはレオルドがパンツ一丁だったからだ。


「レ、レオルド様! 早くお召し物を着て下さいまし!」


 言われてからレオルドは自分の格好を思い出す。いくら婚約者とはいえ年頃の女性にパンツ一丁の姿はいけなかったと反省する。


「これは申し訳ございません、殿下。お見苦しいものを見せてしまいました」


 謝るレオルドは着替えようとするが、海に潜っていたので全身ずぶ濡れである。なので、服を着るわけにもいかず、シャルロットに助けてもらう。


「すまん。シャル、火魔法と風魔法使って乾かしてくれ」


「え〜、私が? 自分でやりなさいよ〜」


「いや、火属性使えないし風属性も使えないんだぞ。それくらいやってくれてもいいだろ」


「それはそうだけど〜」


 パンツ一丁でずぶ濡れのレオルドはシャルロットと交渉をしている時、シルヴィアは手で見えないように隠していたが、やはり気になるのかチラチラと指の隙間からパンツ一丁のレオルドを見ていた。それに気がついたシャルロットはニヤッと笑う。


「どうしよっかな〜」


「あとで礼はするから頼むよ」


「ん〜、でも、めんどくさいし〜」


「そう言わずに頼む。殿下にこれ以上嫌なものを見せるわけにはいかないんだ」


「そう? ねえ、シルヴィア。レオルドはこう言ってるけど貴女はどうなの?」


 シャルロットはシルヴィアが別に嫌がっていないことを知りながら話を振る。シルヴィアはまさか自分の方に話が振られるとは思ってもおらず焦ってしまう。


「ええ!? わ、私は別に嫌というわけでは、そのどちらかと言えばご馳走様です……と、いえそうではなく眼福ですわ、というようなこともなく、え〜っと、そのとっても破廉恥ですわ!」


 顔を真っ赤にしながら早口で聞き取れないように喋るシルヴィアにシャルロットはおかしくて笑いそうになったが、これ以上遊ぶとシルヴィアが暴走しかねないのでシャルロットはレオルドを乾かすことにした。


「はあ〜、面白かった」


「面白かったじゃない。殿下、本当に申し訳ありませんでした」


 海水を水で洗い流してシャルロットに乾かしてもらったレオルドは服を着てシルヴィアに頭を下げる。

 ようやく服を着てくれたレオルドにシルヴィアはワザとらしく咳払いをしてから許した。


「ゴホン。レオルド様。私達は確かに婚約者ではありますが、まだ婚約したばかりです。ですから、もう少し節度を守っていただかないと、私の身が持ちませんわ」


 色んな意味でシルヴィアの身が持たない。先程シルヴィアが目にしたレオルドのパンツ一丁の姿はシルヴィアの脳内メモリに大切に保管された。

 家族以外で初めて見る男の裸にシルヴィアは恥ずかしくはあったが、とても興奮していた。なにせ、大好きなレオルドの裸なのだから。惜しむらくは全裸ではなかったこと。出来る事ならば、そちらも見てみたかったと少し残念な気持ちになったシルヴィアである。


「は! 今後一切無いように注意します」


「い、いえ、別にそこまでなさる必要はないのですよ?」


 一瞬、レオルドは聞き間違いかと思ったが聞き返すことはしなかった。なぜか、聞き返すとややこしいことになりそうだと確信があったから。


(もしかしてムッツリスケベなのか? それなら大歓迎なんだが?)


 そう予想するレオルドは目の前でモジモジとしているシルヴィアが一層可愛く見えるようになった。


「あ〜、そろそろいいかな?」


 今ままで静かに事の成り行きを見守っていたゼファーが恐る恐る手を挙げながら発言した。


「ああ、いいぞ。なにか話したいことでもあるのか?」


「え〜っと、彼女達はどうしてここに?」


 どうしてこのような無人島に二人はやってきたのだろうかと尋ねるゼファー。その問いにシャルロットが答える。


「レオルドを迎えにきたのよ。すっかり忘れてたんだけどね」


「む! そうだ! お前、俺をここに飛ばしておいて迎えに来ないってどういうことだ!」


 言われてからレオルドは思い出したかのように怒り出してシャルロットを捕まえる。


「きゃあーッ! 離して、変態!」


 レオルドはシャルロットにプロレス技であるヘッドロックを決める。とは言っても本気ではないのでじゃれついているだけだ。


「お前がさっさと来ないから俺は晩飯としてマグロと戦ってたんだぞ!」


「それについては謝るけど、あなたが裸だったのは私のせいじゃないわよ!」


「うるせえ! 元はといえばお前が悪いんだ!」


「きゃあーっ! 痛い痛い! きつく絞めないで!」


 仲のいい姉弟のようだ。ゼファーは世界最強の魔法使いがレオルドの良いようにされているのを見て苦笑いしか出来なかった。

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