第277話 じいじ~、お金ちょうだい
「ううっ……!」
「どうしたの?」
会話をしている最中に突然レオルドが身震いをしたのでセツナが首を傾げてどうしたのかと尋ねている。
「いや、なんでもない」
「そう? 寒いなら温かい飲み物でも入れるけど」
「寒いとかじゃないんだ。こう、なんと言えばいいのか分からんが猛烈に嫌な予感がしてな」
ますます訳がわからないとセツナの頭の上にはクエスチョンマークが増えていく。レオルドは一体なにを言っているのだろうかとセツナは首を傾げたままだ。
「ところでお前はいつまでここにいるつもりだ?」
「いたらダメ?」
「ダメではないが、お前にも仕事はあるだろ?」
「特にない」
そう言うので横のベッドで眼鏡を掛けて読書をしているグレンの方にレオルドは顔を向ける。グレンはレオルドの視線に気が付くと眼鏡を外して本を閉じる。
「セツナに仕事がないのは本当だ。我々、帝国守護神は陛下の護衛、軍では対処できない凶悪な魔物の駆除以外は基本自由だ」
「強者の特権というわけか」
「そういうことだ。だが、セツナよ。今、帝国守護神はお前しか動ける者がいない。陛下の護衛はどうした?」
「特に脅威もないから兵士に任せてる」
「はあ~……。確かに戦争も終わり、反乱分子も排除した今、陛下に危害を加えようとする者はいないかもしれんが用心するに越したことは無い」
「でも、陛下から許可は貰った」
そう言われるとグレンは何も言えなくなる。セツナはグレンを黙らせる事が出来たので、妙に勝ち誇った顔をしている。
「おい、現皇帝の計らいで俺は治療を受けているんだから守ってやってくれ。殺されたりしたら、俺も危なくなるじゃないか」
レオルドも今の皇帝の計らいにより治療を受けている最中なので皇帝に死なれたら困るのだ。なにせ、契約書などなく口約束でしかない。だから、次の皇帝が約束を破棄する事は充分に有り得る。まあ、そうなった場合はレオルドも本気で抵抗する事になるが。
「む……そうなったら私が貴方を守る!」
「いや、俺でなく皇帝陛下を守れよ」
「はあ〜……」
セツナは皇帝よりもレオルドを守ると宣言したのでツッコミを入れるレオルド。そして、そんな発言をしたセツナに頭を抱えて溜息を吐くグレン。
それからしばらくすると、グレンの家族が訪れてきた。一家総出ではないが、グレンの妻に娘と孫である。
「あなた、具合はどう?」
「うむ。大分良くなったよ。心配をかけたな」
「それはよかった。いつごろ退院できそうなの?」
「もうしばらくは掛かりそうだ」
「そう……。なら、もう少しだけ休んだ方がいいわ。今までずっと働いてばかりだったんだから」
「そうか? そんな事はないと思うのだが……」
「貴方がそう思ってるだけで、私達はそうではないの」
「そ、そうか。なら、言うとおりにしようか」
妻に強く言われては流石のグレンも大人しくするしかない。しばらくはレオルドと相部屋のままだ。
「じいじ! 元気になった?」
その時、孫娘だろう小さな女の子がグレンへ声をかけた。孫娘から話しかけられたグレンは頬が緩みだらしない顔になり、孫娘に話しかける。
「ああ。じいじは元気になったよ」
「ホント? じゃあ、ホムラと遊んでくれる?」
「もう少ししたら遊んであげよう」
「もう少しっていつ? 明日? 明後日?」
「う~ん……もうちょっとかな〜」
横で聞いているレオルドはグレンの豹変ぶりに笑いを堪えており、セツナは知っていたので特に言う事もなく二人のやり取りを見ていた。
その後、二人のほんわかとした孫と祖父のやり取りが終わり、グレンの家族は帰っていった。
「じいじ」
「……私は確かに君には恩がある。だが、その呼び方を続けるなら容赦はせんぞ」
どうしても我慢できなかったレオルドは面白そうにグレンを孫娘のホムラと同じ呼び方で呼んでみた。すると、グレンはわかりやすいくらいに不機嫌になりレオルドを睨みつける。
「じいじ、怖い」
そして、セツナが悪ノリしてレオルドと同じようにグレンをじいじ呼びした。
「セツナ。真似するのはやめなさい」
「じいじ、怒ってる?」
「じいじ、震えてるけど寒いの?」
「やめんか! 貴様ら燃やされたいのか!」
とうとう我慢の限界を越えたグレンは声を荒げて二人を睨みつける。しかし、二人は全く怖いと感じておらず、悪ガキのようにグレンを茶化す。
「じいじ、こわーい」
「じいじ、怒らないで〜」
「ようし、覚悟はいいな。今度は灰にしてやる!」
二人は面白いものを発見したとばかりにグレンを茶化して遊んだ。グレンもそれが分かっているから二人に付き合うように怒ったり笑ったりしている。
そのように三人が仲を深めて、三日が経過した。いつものようにレオルドはベッドで休んでいると、慌てた様子のカレンが飛び込んできた。
「た、大変です、レオルド様!」
「どうした。何があった?」
普段と違う様子のカレンにレオルドも真面目になる。
「王国からシルヴィア様がやってきました!」
シルヴィアが皇帝と戦後処理などについて話し合うのかと考えたが、流石に違うだろうと判断したレオルドはカレンに聞き返す。
「殿下が? 国王陛下ではなく?」
「はい! 間違いありません!」
「ふむ、そうか。でも、どうしてそんなに慌ててるんだ?」
「え!? あっ……それは……」
言えない。言えるわけがない。カレンは帝都へ到着したシルヴィアを一目見たのだが、只ならぬ雰囲気を発しており、あまりの恐怖にレオルドの元へすっ飛んできたのだ。
今、シルヴィアがとてつもなく怒っている事をカレンはレオルドにどう伝えたものかと言葉を必死に選んでいる。
だが、遅い。カレンがなんと言えばいいのかと困惑している時、レオルドのいる医務室へシルヴィアが一歩ずつ確実に近付いていた。
カツカツとシルヴィアの鳴らす足音はまさしく死神の足音であった。
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