第273話 そりゃ主人公ですもん

 復活したジークフリートはカレンの代わりにキマイラの前に立つ。しばらく睨み合いを続けていたが、ジークフリートが走り出した。


 走ってくるジークフリートに向かってキマイラは咆哮を上げて怯ませようとする。しかし、キマイラが大きく口を開けた瞬間、ジークフリートが剣をキマイラの口目掛けて放り投げる。

 思わぬ行動に驚いたキマイラは飛んで来る剣を避ける為に横へ飛んだ。


 そこへジークフリートは加速してキマイラに近付く。キマイラの懐へ見事に侵入したジークフリートは魔法を放つ。


「爆ぜろ! フレイムカノン!!!」


 ジークフリートの手の平から炎の塊が発射されて、キマイラの腹部に直撃する。ドオンッという音が部屋全体に鳴り渡り、その威力を思い知らせた。そして、腹部に爆破を受けたキマイラは苦悶の声を上げる


「ガアアアッ!」


 二発目をジークフリートは撃とうと魔力を練るが、ダメージを受けた怒り心頭のキマイラが尻尾を使ってジークフリートを攻撃する。

 毒蛇の尻尾がジークフリートに迫る。ジークフリートは魔力を練るのを止めて毒蛇の尻尾から逃れようと距離を取る。


 しかし、完全にジークフリートを標的と定めたキマイラは逃げるジークフリートを追いかける。逃げるジークフリートだがキマイラの方が速く、徐々に追い詰められている。


「俺ばっかり見てていいのか?」


 壁際に追い詰められたジークフリートだが、その顔は余裕の笑みを浮かべていた。どうして追い詰められている獲物ジークフリートが笑っているのだろうとキマイラが不思議に思ったときには、遅かった。


 キマイラの尻尾が突如切り落とされて、その痛みにキマイラが叫ぼうとした時、頭に衝撃が走る。ガクンと視点が下がり、キマイラは倒れる。


「よしっ!」


 ガッツポーズで喜ぶジークフリートの目の前には倒れたキマイラと、その傍らに尻尾を切り落としたモニカ達と頭を叩き潰したカレンの姿があった。そしてジークフリートへ駆け寄るローゼリンデは、その勢いのまま抱き着いた。


 ようやくキマイラを倒した一行は、これで一安心と息を吐こうとしたら電撃がキマイラから放たれた。気を抜いていた所を狙われた一行は電撃を防ぐ事が出来ず、直撃してしまう。


「ぐわあああっ!」


「きゃあああっ!」


 完全に倒していたと思ったキマイラだったが、最初にカレンが殺した背中から生えている山羊の部分が復活していた。生き返っているとは知らず、勝利に喜んでいた一行は一瞬で崖っぷちに立たされてしまう。


「ぐ、くそ……! 身体が……!」


 しかも、不運は重なる。山羊が放った電撃で全員漏れなく麻痺状態に陥ってしまう。そのせいで誰も動けない。今、攻撃されれば全滅は確実であろう。それだけは避けたいが動けない一行は、ただ麻痺が解けるのを待つだけである。


 しかし、残念ながら麻痺が解けるまで相手が待つ筈がない。山羊は確実に全員殺そうと、もう一度電撃を放つ準備を始めた。角の上の部分が青白く光り、電気が迸っている。恐らく、直撃すれば今度は麻痺では済まない。


「う……うぅ……」


「ダメ……。動けない」


「だから、言ったじゃん……!」


 もうここまでなのかと諦めそうになる一行。だが、誰も彼もが諦めかけていた時、カレンだけが麻痺で動けない身体にも関わらずもがいていた。


「諦めるもんか……! 絶対!」


 カレンはゼアトで学んだ沢山の事を思い出していた。いつも必死に懸命に頑張っているレオルド。厳しくも優しい師匠ギルバート。毎日民の為に騎士の務めを果たしているバルバロト。自由奔放だけど魔法を丁寧に教えてくれるシャルロット。


 そして、誰よりも大好きなジェックス。


(まだ、何も言ってない! 大好きって、愛しているって伝えてない! 死ねない! こんな所で死ねない! 死んでたまるもんか!!!)


 心の内で叫んでいるカレンは必死に生きようと足掻き続ける。


 そんなカレンの姿を見たジークフリートは諦めかけていた自分を奮い立たせた。自分よりも年下の女の子が我武者羅に生きようとしているのだ。そんなものを見てしまったら、諦めるなどと誰が言えようか。


「お、おおお……おおおおおおおおおおおおっ!」


 麻痺で動けない身体をどうにか動かそうとジークフリートはもがいた。そして、己を鼓舞しようと雄叫びを上げる。その思いに絆の力スキルが応えたのか、ジークフリートの身体が光を放つ。

 周囲の者達が思わず目を瞑るほどの眩い輝きが収まると、その身体に光り輝くオーラを纏わせてジークフリートは立ち上がっていた。


「これは……? いや、考えるのは後にしよう」


 自身の身体になにが起こったのか理解できなかったジークフリートは一先ず思考を切り替えてキマイラへ顔を向ける。

 その時、先程の電撃よりも更に強力な電撃がジークフリート達に向かって放たれた。もうダメかと思われたが、ジークフリートが全員を守るように障壁を張って防いだ。


「もうこれ以上は誰も傷付けさせない。覚悟しろ!!!」


 そう言うとジークフリートの身体の纏っているオーラが一層輝く。まるで、ジークフリートの思いに呼応するように。


「グルルルゥ!」


 いつの間にかキマイラが立ち上がっており、完全に復活していた。どうやら、獅子の頭、背中の山羊、尻尾の毒蛇は同時に倒さなければ復活するようだ。


「そうか。お前を倒すには三つ同時に倒さなければいけないんだな。なら、やってやるよ!」


 キマイラを倒す方法が分かったジークフリートは叫ぶと同時に両手を剣を振り上げるように上げた。


「輝け! シャイニングブレイド!!!」


 ジークフリートが本来持つ属性は火のみである。しかし、絆の力で他者の力も使えるジークフリートは光り輝く巨大な剣を生み出して、キマイラ目掛けて振り下ろした。


 キマイラは避ける事も出来ずに光の大剣で正面から真っ二つにされる。再生することも叶わず、キマイラは完全に倒された。

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