第267話 所詮、幻想に過ぎない
盛大にカッコつけたレオルドだが内心では火傷を負った拳のせいで物凄く痛がっていた。
(うわあああああああ!!! 痛いよおおおおおお! なんであんな無茶な事したんだ、俺は!?)
台無しである。先程までの勇ましくかっこいいレオルドは幻であった。
必死に強がっているレオルドは痛がっている素振りを見せないので近くにいるセツナは微塵も疑っていなかった。レオルドが本当は強がっているなどセツナは思いもしない。
まあ、仮に知られたところでセツナに幻滅されるだけなのでレオルドとしては特に痛くも痒くもないことは間違いない。
それはさておき、レオルドは決め台詞を告げた後、グレンに向かって踏み込んだ。内心痛がっているのを悟られないように歯を食いしばりながらレオルドはグレンに向かって拳を打ち込む。
「ふんッ!」
ドゴンッと普通に拳を打ち込んだだけでは鳴らないような音が鳴り響く。
「ぐっ……くぅ……!」
グレンの胴体へと叩き込んだレオルドの拳は寸前で止められていた。そこからレオルドが押し込もうとしてもビクともしない。
これ以上は意味がないと判断したレオルドは拳を引き戻そうとするがグレンが離さない。グレンは掴んでいるレオルドの拳をそのまま焼き尽くそうと炎で包んだ。
尋常ではない熱量にレオルドは悲鳴をあげる。
「ぐぅうああああああああああっっっ!!!」
手が燃やされるレオルドはどうにかしてグレンから逃れようと足掻くがグレンの方が力が強いので逃げる事が出来ない。
このままでは手が完全に燃やされてしまうかとレオルドが思った時、セツナが助けに入る。
氷の
(くそ。やっぱり、接近戦はダメだ。手はなんとか無事だったが、もう使えそうにないな……)
無事ではあったものの手は酷い火傷で、当分は使えそうになかった。それでも炭にされなかっただけマシである。
「ごめん! もっと早く助けるべきだった!」
「いや、気にするな。俺が無茶をした結果だ。むしろ、助けてくれてありがとう」
「でも、もう貴方の手は……」
「当分は使えそうにないが、戦えない事はない。まだ、片方残ってるからな」
そう言って笑うレオルドは強がって見せる。だが、その額には脂汗が滲んでいるのをセツナは見逃さなかった。
「貴方がそう言うのなら……」
レオルドが強がっている事に気がついたセツナは、何か言いたげそうな顔をしたが黙っている事にした。
(しかし、不味いな……。片手はほぼ使い物にならないから接近されるとかなり厳しいな。魔法でどうにかしたいところだけど、今の所グレンに傷一つ付けられてないんだよな……)
「今度は私が前に出る」
どうするかと悩んでいたレオルドにセツナは自分が前に出るのだと主張した。
「セツナ。お前は接近戦が苦手だろう? 今までと一緒でも俺は構わんぞ」
「それは今の貴方も同じでしょ?」
そう言われると弱いレオルドだが、少なくともセツナよりは接近戦に強い。
「む。確かにそうだが、俺はまだ片腕と両足がある。だから、問題ない」
「ダメ。それ以上無茶を続けると、勝ったとしても貴方は無事じゃ済まない」
心配してくれるセツナにレオルドはキョトンとした顔になる。しかし、しばらくしてレオルドは笑いがこみ上げてくるのを我慢できなかった。
「ふ、くくく。そうか。そういう事なら、お前に任せよう」
「なんで笑ってるのか分からないけど、うん。任せて」
「なんで笑ったか……か。ただなんとなくだ。でも、強いて言うならば、誰かに本気で心配されたのが嬉しかったのかもしれんな」
今までもセツナはレオルドの事を心配していたが、それはレオルドにとって自分がいなくなったら
しかし、違った。セツナは本当にレオルドの身を心配しているのだ。それがわかったから、レオルドは勝手な勘違いをしていた自分に対して笑ったのだ。
そして、妙にその事が嬉しかったのだ。
「さて、そろそろグレンにも一発キツイのをお見舞いしてやろうか!」
「うん! 援護よろしくね!」
セツナを前にしてレオルドが後ろへと下がる。二人は昔から長年連れ添った相棒のように息を合わせてグレンへ魔法を放つ。
水と氷を掛け合わせた大魔法がグレンを襲う。流石のグレンもそれを打ち消すには今まで以上の火力を要求された。
「まだまだ行くよ!」
「わかった! 任せろ!」
セツナが氷魔法を放ち、レオルドが土魔法や水魔法で援護する。セツナの強力な氷魔法にレオルドの巧みな援護で苦戦を強いられるグレンは初めて掠り傷を負った。
たかが掠り傷一つではあるが二人にとってはやっと付けることが出来た掠り傷だ。その事に気がついた二人は、これならいけると確信した。
「どんどん行くよ!」
「ああ! どんどんかませ! 俺が援護する!」
二人の息がどんどん合わさっていき、劣勢を強いられるグレンは小さい傷が少しずつ増えていく。
魔力共有を施している二人の魔力は莫大な量を誇っているので恐らくグレンを倒しきれるだろう。
だが、帝国最強と呼ばれる炎帝がそう甘くはないことを二人は知る事になる。
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