第237話 それがどうしたァッ!
決死の覚悟で臨んだ足止めは大した時間稼ぎも出来ずに、指揮官を含めた兵士たちはバルバロト率いる騎士達の前に散る。
「バルバロト隊長! 追いますか?」
「……いや、構わん。我々はここで引き返す。後は餓狼部隊に任せる」
「援護はしなくてもいいのですか?」
「問題はない。餓狼部隊ならば大丈夫だ」
「そうですか。では、我々は一旦ゼアトに戻るということでよろしいでしょうか?」
「ああ。退くぞ」
バルバロトは最後に倒れている指揮官に目を向けた。
(名前こそ聞かなかったが、部下を逃がすために命を賭した貴殿のことは忘れん。さらばだ、誇り高き帝国軍の指揮官よ)
強くはなかったが、部下を逃がすために勝ち目のない戦いに身を投じた指揮官のことをバルバロトは心の中で称えたのだった。
バルバロト達が撤退を始めた時、帝国軍の方は安堵していた。これ以上の追撃はなく、安心して自陣に戻れると。
無事に歩兵部隊と砲撃部隊は自陣に戻ることが出来た。指揮官を失ってしまったが被害は微々たるもの。
再度、編成を整えれば再出撃は可能である。ただし、士気は下がっているが。
それでも上から戦えと命じられれば戦わなければいけないのが下の者である。悲しいことだがいつの時代も苦しむのは力無き者達だ。
自陣へと戻った歩兵部隊と砲撃部隊は一旦休息を取り、その間に副官は上層部へと報告に向かう。
敗戦したという報告は出来ればしたくないと考えている副官ではあるが正確に情報は伝えねばならない。感情を抑えつけて、副官は敗戦報告を上層部へと伝える。
報告を聞き終えた上層部の幹部たちは軍議に使われている机を力強く叩いた。
「全く嘆かわしいことだ。我が帝国軍が旧時代に取り残されている王国軍に敗走したとは……! なんたる失態! これでは皇帝陛下に合わせる顔がないではないか!」
「ふ~む。しかし、聞いた話によると王国軍は以前よりも強力になっているそうだぞ。どう対処する?」
「そんなもの数の差でどうにかすればいい。それよりも問題なのは我が軍が一回とはいえ敗走したことだ! これをどう皇帝陛下に言い訳をすればいい!」
「そうだ! 我が軍の方が圧倒的に優れているのは間違いない! 恐らくだが、王国軍は切り札を切ってきたのだろう。そうでなければ我が帝国軍が負けるはずなどないのだからな!」
と言う訳で今回は王国軍が切り札である少数精鋭の魔法剣士を投入してきたから負けたということに帝国軍の上層部は決めたのである。
上層部が皇帝にどう言い訳をしようかと考えていた時、帝国軍の陣地を見詰める集団があった。
木陰に隠れて餓狼部隊は帝国軍陣地を偵察していた。
(バルバロト達はうまくやったようだな。恐らく負けたことで帝国軍は動揺しているに違いない。叩くなら今だ)
帝国軍の歩兵部隊と砲撃部隊が戻ったのを確認したジェックスは指示を出す。
「出るぞ、餓狼部隊!」
『おう!』
今も動揺しているであろう帝国軍に向かって餓狼部隊は木陰から飛び出した。
陣地の警備をしていた帝国軍兵士は森の中から飛び出してくる餓狼部隊を発見して叫んだ。
「敵襲! 敵襲!!!」
まさかの事態に帝国軍は慌ただしくなる。よもや、陣地に直接奇襲を仕掛けてくるとは思わなかったからだ。
しかし、最初こそ慌てたものの冷静に考えれば敵は無謀なことをしているだけだと分かる。なにせ、ここは帝国軍の陣地であり控えている兵士の数に所持している兵器の数を考えれば奇襲部隊など恐れることはない。
確かに先程王国軍の騎士部隊には負けてしまったが、そう何度も同じことが起こるわけがない。
そう考えれば恐れることはない。奇襲を仕掛けて来たのは恐らく自分たちが勝ったから調子に乗っているのだろうと予想する帝国軍。ならば、今度こそ自分たちの力を見せつけてやろうと奮起する。
陣地へと突入したジェックスは軽く暴れてやろうかと舌なめずりをしたが、そこには銃を構えた大勢の兵士がいた。
「げっ!」
「撃てぇっ!」
これは流石に予想していなかったとジェックスは慌てて陣地から飛び出した。
部下にも撤退命令を出してジェックスは森の中へと逃げていく。そこへ逃がしはしまいと帝国軍が追いかける。
当初の予定とは違うがジェックスは苦笑いしながらも考えていた作戦を発動する。
「全員、転移魔法陣まで走れ!!!」
帝国軍にも聞こえるほど大きな声で部下に指示を出したジェックスは森の中を疾走する。
ジェックスの言葉を聞いた帝国軍の兵士達は驚いてしまう。
「転移魔法陣だって!? まさか、こんな近くにあるとは! これは絶好の機会だ! 奴らを捕らえて転移魔法陣を奪取するぞ!」
『了解!!!』
転移魔法陣を奪うことが出来れば、帝国軍の士気が上がることは間違いない。それに更なる軍事力強化にも繋がる。これは是が非でも手に入れると帝国軍は逃げる餓狼部隊を追いかけていく。
それがジェックスの狙いだと知らずに。
森の中をどんどん進んでいき帝国軍を誘い込む餓狼部隊。本来であれば帝国軍など簡単に撒くことのできる餓狼部隊だが、今回はとある作戦の為に付かず離れず距離を保っている。
「ジェックス隊長。そろそろです」
「ああ。わかっている」
ジェックスは追いかけてくる帝国軍を一瞥した後、部下たちへ指示を出す。
「全員、速度を上げろ!」
餓狼部隊は速度を上げて一気に帝国軍を突き放す。どんどん敵との距離が開く帝国軍は焦りから視野が狭くなっていた。
「今だっ!」
ジェックスは懐から何かのスイッチを取り出して押した。
すると次の瞬間、餓狼部隊の後方で走っていた帝国軍が爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。
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