第207話 ヤンキーだって殴られたら改心するだろ!

 お互いに傷だけを残して話は終わった。


 レオルドはクラリスに別れを告げてから部屋を出て行く。

 去り際にレオルドは振り返りそうになったが、もうクラリスとの関係が変わることはない。加害者と被害者という関係は永遠に変わらないだろう。


 一人部屋を出て行くレオルドは、外で待っていたジークフリートに声を掛ける。


「ジークフリート。話は終わった。後は頼む」


「…………なあ」


「なんだ?」


「レオルド。お前はさ、どうして変わったんだ?」


「……ふっ。あの時、お前から受けた拳が俺の魂にまで響いたのさ」


「なんだそれ?」


 少々かっこつけたレオルドだが、ジークフリートには伝わらずに頭のおかしいやつだと認識されてしまう。


「……まあ、お前に殴られたというのは事実だ」


「それで頭が変になったってのか?」


「そういうことだ」


「なら、もっと早く殴ってればよかったな」


「はははっ! そうかもな」


 笑った後、レオルドはジークフリートの前から去ろうとする。その時、最後にジークフリートはレオルドに問い掛ける。


「明日の試合勝てるのか?」


「負けるつもりはない」


「そうか。頑張れよ」


「ああ。お前も、もっと強くなれよ」


「いつかお前を超えてやる」


「楽しみにしておこう」


 最後に二人はまるで好敵手ライバルのようなやり取りをして別れた。


 レオルドは喫茶店の外に出て星空を見上げる。明日は、いよいよ決勝戦。泣いても笑っても最後の戦いである。

 せめて、後悔だけは残らないように戦おうとレオルドは星空に手を伸ばしてギュッと拳を握り締めるのであった。


 翌日、レオルドは控え室で瞑想を行っていた。今は第三位決定戦を行っている最中でレオルドの出番はまだ先だ。

 そして、対戦相手であるリヒトーも同じように瞑想をしている。


 しばらくしてから、二人は係員に呼ばれる。係員の下へと集まる二人。

 係員は集まった二人から尋常ではない威圧感を感じて震えてしまう。闘技大会の係員に何度もなったことのある係員だが、ここまで選手に圧倒されるのは初めてであった。


 ゴクリと唾を飲み込む係員は震えていたが、同時に喜んでいた。恐らく、歴史に刻まれるほどの選手と関われた事に。


 サインでも貰っておこうかと考える係員だったが、試合の時間が迫ってきたので二人を連れて会場へと向かう。


「レオルド。先に言っておくけど、僕はベイナード団長のように君の実力を測るような真似はしない。君の実力は本物だと、この大会を通してわかってるからね」


「リヒトーさん……ありがとうございます。まさか、王国最強の貴方にそこまで評価して頂けるとは思いもしませんでした。ですが、私は負けるつもりはありません。持てる全ての力を使って貴方に勝ちます!」


「受けて立つよ。そして、打ち砕いてあげよう。君の全てを!」


 試合会場に二人が入場すると、熱気に包まれていた観客席がさらに熱を増す。

 ベイナード団長に勝利したレオルドと王国最強のリヒトーの試合がこれから始まる。


 両者は互いに向き合い、剣を構える。


 二人が剣を構えた事で騒がしかった観客席も静まる。二人の試合を一秒でも長く楽しむ為に、観客は集中して二人を眺めている。


 時が静止したかのようにレオルドは集中していた。試合開始のゴングが鳴るまでレオルドもリヒトーも動かない。


 やがて、試合開始のゴングが鳴り響き、レオルドとリヒトーは動き出す。


 レオルドは地面を踏み砕いてリヒトーへと迫る。対するリヒトーも同じように動いており、両者は剣を交える。


 二人の剣がぶつかると衝撃波が発生して周囲の地面を吹き飛ばした。

 クレーターの中心には鍔迫り合いをしている二人がいる。


 ギリギリと鍔迫り合いしながら二人は譲らない戦いをしている。拮抗しているように見えたが、徐々にレオルドが押され始める。

 このままで押し負けると判断したレオルドが一際力を込めてリヒトーの剣を弾き飛ばして距離を開ける。


「ふう……」


 危ないところであったレオルドは安堵に息を吐く。あのまま鍔迫り合いを続けていたら押し負けていただろう。だから、レオルドの判断は正しかった。あの場は強引にでも切り上げて距離を開けるのがレオルドにとっては最善であった。


(純粋に剣の勝負は分が悪い。しかし、速攻を仕掛けてきたってことは魔法を警戒しているのか? まあ、俺に勝ち目があるとすれば魔法しかないからな。それを本気で潰しに来たってことは、リヒトーさんも全力で来ているってことだ。はは……嬉しいな。王国最強に本気を出させるところまで来たんだ! やれるだけやってやる。見てろよ!)


 王国最強のリヒトーに本気を出させ、なおかつ認められたと分かったレオルドは嬉しくて仕方がなかった。

 今までの努力が報われた瞬間というわけではないが、確かに実を結び始めているのだと。それは、ベイナードのときも感じたが、何度味わってもいいものだ。他人に努力を認められるというのは。


 だからこそ、失望させるわけにはいかないだろう。レオルドは視線の先にいるリヒトーを捉えて魔法名を唱える。


「イーラガイアッ!!!」


 それはベイナードとの試合で使った土魔法。試合会場の地面を吹き飛ばし、敵味方関係なくダメージを与える魔法だ。

 魔法を発動させたレオルドは衝撃波が来る前に跳び上がり魔法を避ける。それはリヒトーも同じであった。元々、ベイナードの試合で使った魔法であり、リヒトーにも当然見られていた。対策法などいくらでも思いつくだろう。


 試合会場には避け場がないかもしれないが、宙に跳び上がればイーラガイアは簡単に避けられる。そんな事がわからないリヒトーではない。


「ああ、わかっているさ。それくらい! だが、空中じゃ足場はない! サンダーボルト!!!」


 誰に言うともなくレオルドは空へと手をかざしてサンダーボルトを放った。


 雷光がほとばしりリヒトーへと襲いかかる。イーラガイアを避けるために跳び上がったリヒトーは避けることは出来ないと思われた。

 誰が見ても確実に決まると思っていたサンダーボルトは、簡単に避けられてしまう。障壁を足元に展開して足場を作ったリヒトーが空中で身を翻してみせたのだ。


 スタッと華麗に着地したリヒトーはレオルドに顔を向ける。やはり、一筋縄ではいかないとレオルドは次の手を考えるのであった。

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