第197話 結局ルールありきじゃねえか!

 闘技場は熱狂の嵐に包まれる。まさか、まさかのどんでん返しに観客の熱は止まない。

 まさに大金星である。騎士団長のベイナードにレオルドが勝ったのは奇跡と言えよう。


 実際、レオルドが勝てたのは奇跡と言える。

 それはベイナードが意図してやったわけではないが、レオルドに比べてベイナードは防御に回っていた。だからこそ、レオルドは勝てたのだ。


 闘技大会のルールでは腕輪が壊れた方が負けである。そのルールがあったおかげで最後の博打にレオルドは勝つことが出来た。


 まず説明すると、ベイナードは最初の方は防御に回っていたので、少なからず腕輪にダメージが蓄積されていた。

 一発一発は微小なダメージではあったが、戦い続けていたので5000という数値を削っていた。


 つまり、ベイナードがもしも防御ではなく回避に専念していたならレオルドは負けていたのだ。

 だから、本当に運が良かっただけである。


 そういうわけなので、この一言に尽きる。運が良かった。


 しかし、勝ちは勝ちなのでレオルドは次の戦いへと駒を進める。二回戦は明日なのでレオルドは休む事が出来る。


 休めると分かったレオルドは一旦医務室へと向かい、身体を確かめてもらう。

 打撲痕があったり、骨にヒビが入っていたりと酷かったが回復魔法を掛けてもらい完治した。


 その後、医務室を出てレオルドは対戦相手であったベイナードを探す。


 レオルドがベイナードを探している頃、ベイナードは控え室にいたリヒトーを連れて外にいた。


「すまないな。お前と戦えるのを楽しみにしていたのに」


「いえ、構いませんよ。まさか、ベイナード団長が負けるなんて予想もしてませんでしたからね。確かに彼は強いですけど、まだ僕らには及ばないと思っていたのですが……」


 レオルドが勝てたのはルールによるものが大きいとわかっていた。

 そして、運が良かったということも。


「うむ。まあ、俺がレオルドの力を確かめてみたいというのもあったからな。だからと言って、それを言い訳にはしない。あの勝利は間違いなくレオルドのものだ」


「たとえ、運任せでもそれを手繰り寄せたのはレオルドだということですか?」


「ああ、そうだ。俺が回避に専念していたならという仮定など考えるだけ無駄だ。あるのは事実のみ。レオルドが勝ち、俺が負けたという結果だけだ」


「なるほど。そうですか」


「それでお前はどう見る?」


「何か予測も出来ない事が起きない限りは、間違いなくレオルドが勝ち進んでくるでしょうね」


「ふ、やはりそう思うか」


「ええ。まあ、若い子なら他にもジークフリートという子はいますが……運よく勝ち上がっても二回戦で当たるレオルドには負けるでしょう」


 二人の意見は一致していた。客観的に見てジークフリートの強さはレオルドに及ばない。

 一回戦の相手には勝てるかもしれないという評価で、二回戦で当たるレオルドには勝てないだろうという認識だ。


 ただ、レオルドのようなどんでん返しがない訳でもない。

 なにせ、腕輪を破壊したり、十秒ダウンを奪えば勝ちなのが闘技大会である。


 その後、二人は闘技場の中へと戻り、ベイナードを探し回っていたレオルドと合流する。


「やっと見つけましたよ。ベイナード団長」


「ん? 俺を探していたのか? それは悪いことをしてしまったな!」


「いえ、構いませんよ。それよりも、リヒトーさんと何かあったんですか?」


 レオルドはベイナードと一緒にいたリヒトーについて尋ねる。


「ああ。少しばかり話をしていてな。控え室では出来ないから外へ出ていたんだ」


「ああ、そういうことですか」


「レオルド。ベイナード団長に用事があって探してたんじゃないのかい?」


 リヒトーに言われてレオルドは当初の予定を思い出す。


「あ、そうでした。あの、こんなこと聞くのはどうかと思うんですけど、ベイナード団長はもしかして私に花を持たせようと――あいたぁっ!?」


 ベイナードはレオルドがふざけた事を言い出したので、ついつい手が出てしまう。ゴンッという音が鳴り響き、レオルドは拳骨を落とされた頭を押さえる。


「はあ~……いいか、レオルド? 俺はお前にわざと負けた訳じゃない」


「え、でも――」


「レオルド。ベイナード団長は確かに君に負けたんだよ。それは決して君に花を持たせるために手加減したとかじゃない。ただ単にルールがあったからなんだ。よく考えてごらん。ベイナード団長は君の攻撃を防いだり、受け流す事が多かったでしょ?」


 リヒトーの説明を聞いて、確かにその通りだとレオルドは思う。試合中は無我夢中で気にしていなかったが、思い出してみればベイナードは序盤は守りに徹していた。


「あっ、もしかして腕輪の耐久値を少しずつ削れてたってことですか!」


「うん。その通りだよ」


「ああ、だから、勝てたんですね~」


 ようやく納得したレオルドにベイナードが呆れたように話しかける。


「レオルド。お前、自分の力じゃないと思っているだろう? それは違うぞ。お前の実力が本物だったからこそ俺は負けたのだ。だから、レオルド。もっと自信を持て!」


「は……はい!」


 それでいい、と豪快に笑った後ベイナードはレオルドの背中を叩いた。それから三人は闘技場の中へと戻っていく。

 そして、三人が戻った時、一回戦第二試合が始まるのだった。

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