第178話 ゲーム、ゲームうるさいんだよ!
数日後、残っていた餓狼の牙の構成員を集め終えたレオルドはジェックスとシャルロットの三人で餓狼の牙が盗んだものを隠しているというアジトへと来ていた。
「ここか……」
「ああ。この中にある。ただ、数が多いから持って帰れるか心配なところだ」
「安心しろ。シャルが魔法の袋を持っているから問題ない」
「魔法の袋ってなんだ?」
「ああ、そういえばお前は知らなかったな。魔法の袋とは古代の技術で作られた何でも入る袋だ」
「そんな便利なものがあるのか!?」
「まあな。だが、一つしかないけどな」
「それでも十分じゃないか。でも、知られたら他の貴族が黙ってなさそうだな」
「それなら、問題ない。シャルに手を出すやつはいないからな」
「どうしてだ?」
「お前は知らないが、シャルは世界最強の魔法使いだ。こいつに手を出そうものなら死を意味するからな」
「な……! そんなに強いのか? 大将よりも?」
この数日の間にジェックスはレオルドのことを大将と呼ぶようになっていた。
「近接戦闘なら負けないが、今のシャルは転移魔法が使えるから容易には近づけない。まあ、近づけてもシャルが張り巡らせてる何十にも重なっている障壁を突破しなければならないから、やはり無理だろうな」
「マジかよ……大将よりも強いのがまだいるなんて」
ジェックスはレオルド達と鍛錬をするようになって世界の広さを知った。ギルバートの強さに度肝を抜かれ、一度は勝利したはずのバルバロトに完膚なきまでに負けて、その二人と互角以上の戦いを繰り広げているレオルドにジェックスはどれだけ驚いたことだろうか。
そして、その三人よりもまだ強い人物がいたことにジェックスは改めて自分が狭い世界に生きていたことを思い知った。
(はっ……俺は馬鹿だったな。こんなにも強い奴らがゴロゴロいるのに国を変えてやろうと意気込んでたなんて……)
どの道、ジェックスが餓狼の牙として活動していれば
ただ、レオルドはその最悪な結末を回避するために今頑張っているのだ。
「ジェックス。不死鳥の尾羽はどこにあるんだ?」
「それならこっちだ」
案内されるレオルドは期待に胸を膨らませる。ついに、念願の蘇生アイテムのひとつである不死鳥の尾羽をその目にすることが出来るのだ。死を覆す奇跡の所業を成せる不死鳥の尾羽。いよいよ、ご対面の時だ。
「これが、不死鳥の尾羽だ」
ジェックスが取り出してきたのは黒い箱。蓋を開けると、そこには白い緩衝材の上に置かれた美しいオレンジ色の羽があった。
それをレオルドは両手ですくい上げるように持ち上げると、顔を近づける。
「おお……これが伝説の不死鳥の尾羽か。死者を蘇らせると言われている伝説の……」
感動しているレオルドは不死鳥の尾羽に夢中である。
(見た目は
肝心なことを忘れていたレオルドは不死鳥の尾羽を見ながら首を捻っている。首をかしげるのを見たジェックスがレオルドに話しかける。
「どうかしたか? やはり、偽物だったとか?」
「え! いや、そういうわけじゃない。だいたい、俺は本物を見たことがないから区別はつかんさ」
「そうか……まあ、それは大将にやるよ。俺には必要ないしな」
「えっ!? いいのか!!」
とんでもない発言にレオルドは驚きの声を上げる。そのままジェックスへと詰め寄り、本当に貰ってもいいのかと確かめる。
「あ、ああ。だいたい、それが本物かどうか怪しいし、今は大将のおかげでガキ共も飯には困ってないからな。構わねえよ」
「おお! そうか! なら、遠慮なくもらおう!」
不死鳥の尾羽を手に入れたレオルドは小躍りしそうなくらい喜んでいた。その様子を見ていたシャルロットがレオルドに近づく。
「ねえ、私にも見せてよ〜」
「ん? 別に構わんが落としたりするなよ」
「心配しすぎよ。それに落としたところで壊れるようなものではないでしょう?」
「む。まあ、たしかにそうなんだが……念の為だ」
「はいはい。わかったわよ」
少し不安だがレオルドはシャルロットに不死鳥の尾羽を渡した。不死鳥の尾羽を受け取ったシャルロットは色々と観察してみたが、大したことはないとレオルドへすぐに返した。
そして、レオルドへ近づくと防音結界を張りジェックスに聞かれないようにしてから話しかける。
「ねえ、ゲームでもそれは本当に不死鳥の尾羽だったの?」
「ああ。そうだが、なにかおかしな点でもあったか?」
「うう〜ん……微弱な魔力は感じるけど、本当に不死鳥のものなのか怪しいのよね」
「もしかして、お前は不死鳥を見たことがあるのか!?」
「ないわ。でも、伝説の不死鳥の尾羽がこの程度の魔力だなんて信じられないってことよ」
「しかし、ゲームではな……」
「まあ、過度な期待はやめておくことね〜」
ひらひらと手を振りながらシャルロットがレオルドから離れていく。レオルドはシャルロットの背中を見た後、手の中にある不死鳥の尾羽を見つめるのであった。
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