第173話 インプットよりアウトプットが難しい

 子供達を引き連れてレオルドは被害者の家に着いた。ふと、子供の方に目を向けてみると緊張と不安に包まれていることが確認できた。どうやら、作物を盗んだことで怒られるのが怖いらしい。だが、ここは心を鬼にして子供達に現実の厳しさを教えなければならない。


 子供達から視線を移動させてレオルドは家の戸を叩く。すると、しばらくして戸が開く。中から顔を出したのはレオルドに畑の作物が盗まれたことを話した女性であった。


「あ、領主様。何かありましたでしょうか?」


「ああ。実は作物を盗んだ犯人を見つけてな」


「ええっ!? 今朝方出ていったばかりなのに、もう見つけられたのですか?」


「うむ。それですまないが作物の方は取り戻せなかった。だが、犯人は連れてきた。ただ、どうか責めないでやってほしい」


「え? それはどういう意味でしょうか?」


 戸惑う女性にレオルドは後ろにいる子供達を見せる。それだけで女性は事情を察した。元々、犯人は子供だと断定されていたから、驚きは少ない。むしろ、どうして盗んだかが気になるところだ。

 レオルドが一歩下がり、子供達が前に出る。子供達は女性を見上げながら、少し怯えたが意を決して頭を下げると謝罪の言葉を述べる。


『ごめんなさい!!!』


 謝罪の言葉を聞いた女性は一度レオルドの方に目を向ける。レオルドは首を縦に振り、女性に任せるといった様子である。女性はレオルドから視線を子供達に戻して、腰を下ろして子供達と同じ視線にする。


「そっか。ちゃんと謝れて偉いね。これからは人のものを盗んじゃ駄目よ?」


『うん!』


「じゃあ、お姉さんと約束。もう人のものを盗まないって」


『わかった! もう盗まない!』


「うんうん。じゃあ、許してあげる」


 被害者である女性が許すと言って子供達は安堵の表情を浮かべるが、一人だけ納得していない様子であった。その子供はどうして許されたのか気になって女性に問いかける。


「あの、どうして許してくれたの?」


「ん? 盗まれた時は驚いたけど、私と夫が食べる分には困らなかったから。それに、犯人が子供だってわかったら、きっとお腹を空かせてるんだろうなって思ってね。ただ、村の子供じゃなかったから、それだけが気になっちゃって、どこの子供なのか調べてもらったの」


「う……ぁ……ごめんなさい〜!」


 女性の優しさを知って自分達がしたことの重さを理解した子供は罪悪感に耐え切れずに泣いてしまう。突然、泣き出してしまった子供を見て驚いた女性であったが、どうして泣いてるのかを理解して子供をあやすように抱きしめる。


「君はいい子だね。ちゃんと反省してる。だから、もうやっちゃいけないよ?」


「うん……うん! もうやらない。約束するよ」


「いい子いい子。その気持ちを大事にしてね」


 ひとまず、これで事件は解決した。レオルドは女性へ今後についての話をする。


「今回、盗まれてしまった作物に関しては俺が補填ほてんしよう。それから、金も用意する」


「ええっ!? いいですよ! これくらいなら問題ありませんから」


「いいや、俺はこれからこの子達の保護者になる。ならば、責任を取るのは当然だ」


「で、でしたら、盗まれた分だけで結構です!」


「そう言うな。迷惑料だと思って受け取っておけ」


「で、ですが……」


「まあ、そう難しく考えないでくれ。今回の件についてはこれで終わりにしてほしい」


「うぅ……わかりました。領主様がそうまで言うなら有り難く頂戴いたします」


「うむ。では、後日届けさせよう!」


 そう言うとレオルドは子供達を引き連れて村を後にする。


 村を出ると、村の外で待機していたシャルロットとジェックスとカレンに合流する。子供達は、ジェックスとカレンを視認するとそちらへ走っていく。保護者になると言ったが、レオルドにはまだまだ懐いてはもらえないようだ。


「レオルド様。帰りはどうするんですか?」


 レオルドの護衛として側にいたバルバロトが尋ねる。レオルドはシャルロットに目を向けて、バルバロトへ伝える。


「馬は三頭しかいないが、帰りはどうとでもなる。シャル、俺達全員を転移させることは可能か?」


「ええ〜、出来るけど人数増えると転移する時の魔力が増えるのよ〜?」


「はあ……わかった。なら、俺と魔力共有するぞ」


「それなら全然いいわよ〜!」


 現金なシャルロットにレオルドは肩を落としながらも、魔力共有を行った。これで、レオルドとシャルロットの魔力が共有されてシャルロットの負担が減ることになる。


「じゃあ、みんな私の近くに集まって〜」


「触れなくていいのか?」


 いつもならばシャルロットに触れる必要があるのに、近くに寄るだけでいいというのでレオルドは気になって質問した。


「え〜、そんなに私に触りたいの〜?」


 質問されたシャルロットは茶化すようにレオルドの頬を指でグリグリとする。


「ええい! 鬱陶しい! 質問に答えろ!」


「もう、そんなに怒らなくてもいいのに。ホントは私に触りたいんでしょう〜?」


 いい加減うざくなったレオルドはキッとシャルロットを睨みつけると電撃を放った。


「ちょ!? いつの間にそんな技術を身に着けたのよ〜!」


 予備動作もなく、ただ睨みつけただけで電撃を放ったレオルドにシャルロットは驚きを隠せない。


「ふん。皮肉だがお前のおかげだ」


「もう、そういうところは憎たらしいんだから〜! でも、そこも魅力的なのよね〜」


「いいから答えろ。どうやって、この人数を転移させるんだ?」


「まあ、見てのお楽しみよ」


 ウインクするシャルロットは手を天に伸ばす。すると、魔法陣が空中に現れてシャルロット以外の全員が驚く。全員が驚いてる中、その魔法陣がゆっくりと降りてきて全員を包みこむと、転移魔法が発動した。


 こうして、レオルド達はシャルロットの転移魔法により屋敷へと戻ったのである。

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