第172話 インスピレーションは大事
無事にジェックスを配下にすることが出来たレオルドは満足そうに微笑んでいた。
しかし、問題は山積みである。なにせ、ジェックスは餓狼の牙として多くの貴族に恨みを買っており、国から賞金を懸けられている賞金首なのだ。
つまり、犯罪者だ。そんな犯罪者であるジェックスを配下に加えるとなっては反感を買うどころか、国に楯突くようなものだ。それはいくらなんでも許されないだろう。
だが、レオルドには他者の追随を許さない功績がある。
それは転移魔法の復活。現在、レオルドは爵位と領地に加えて、転移魔法により発生した利益の二割を貰っている。それだけでも、十分な褒美であるがまだ要求することは可能と言える。実際、レオルドは国王からまだ褒美が足りないと言われている。そう、交渉の余地があるというわけだ。
レオルドは餓狼の牙を配下に加えるために、国王に交渉するつもりでいる。
しかし、それは難しいかもしれない。今回の件は一筋縄ではいかないのだ。餓狼の牙に被害を受けた貴族達が黙ってはいない。必ず、レオルドの考えを否定することは間違いない。
いくら、国王と言えどもレオルドだけを贔屓するわけにはいかない。どれだけレオルドが功績を挙げて発言力を得ようとも、一人では限界がある。徒党を組まれてはレオルドも太刀打ちは出来ないだろう。
(あっ……! ジェックスが持ってるアイテムについて聞かなきゃ!)
とても重要なことを思い出したレオルドは、子供達のところにいるジェックスへと近づく。
「ジェックス。一つ訊きたいんだが、お前たちが盗んだものはどこにある?」
「ん? ああ、俺達のアジトに隠してあるが、いくらかは元の持ち主に返している」
元の持ち主とは貴族や商人に家宝や形見を騙し取られた人たちのことだ。レオルドはそのことを聞いて、動揺する。
(マ、マジか!? ふ、不死鳥の尾羽はあるよね!? そこ重要だからな! 超重要だからな!!!)
「なにか探し物でもあるのか?」
「ん……む。まあ、な」
少々、言い辛そうにしているレオルドを見てジェックスは怪訝な目を向ける。怪しまれているレオルドは気まずそうに目を背けるが、耐え切れずに白状してしまう。
「その……お前たちが盗んだものの中に不死鳥の尾羽があるという事を聞いてな……」
「あ〜、あるにはあるが偽物だと思うぞ? 俺達が襲った商人が持ってたけど、そいつは贋作やガラクタを平民に騙して売るような詐欺師だったからな」
「な、なに!?」
餓狼の牙が不死鳥の尾羽を持っていることは知っていたが、そのような背景があるとは知らなかったレオルドは本気で驚いていた。
(えっ? でも、ゲームじゃ普通に使えてたし……本物だよな? もしかして、俺が色々と変えたから不死鳥の尾羽もなかったことになってる? だとしたら、俺はどうすればいい? 唯一、俺が手に入れられる蘇生アイテムだってのに……! いいや、諦めるな。まだ、偽物だと決まったわけじゃない。ジェックス達もわからないだけで本物の可能性だってあるんだ。だけど、本当に偽物だったら?)
一度、疑ってしまうと不安がどんどん募っていく。腕を組み頭を抱えるレオルドは沈黙してしまう。
そこに、シャルロットが近寄って悩んで頭を抱えているレオルドの頭にチョップを食らわせる。
「あたっ? シャルか。何か用か?」
「何か用か? じゃないでしょう〜? 見なさいよ。あなたが腕を組んだまま黙っちゃったから、みんなどうすればいいか困ってるじゃない」
そう言われたレオルドは周囲を見回すと、困ったように笑うバルバロトに難しい顔をしているジェックスやカレンがいた。これは、流石に申し訳ないことをしてしまったとレオルドは一言謝る。
「すまない。ひとまず、子供達が盗んだ作物に関して話をしよう。これについては、最初に言ったが罪には問わない。ただ、盗んだ作物はどこにあるのか教えてほしい」
この言葉に子供達が反応する。明らかな動揺を見せる子供達にレオルドはどう接すればいいのかと困っていると、ジェックスが子供達へ話しかける。
「おい、盗んだ作物はどこに隠した?」
「え……えっと……」
「俺は、怒ってるんだ。お前達には教えたよな? 人の物は盗んじゃいけないって」
(お前がそれ言うんかい!!!)
盛大にツッコミを入れたい気持ちになるレオルドだがここは堪える。
「まあ、俺が言えた義理じゃないがな。綺麗事を言ってはいるが俺は所詮盗賊だ。俺は今まで多くの貴族や商人からものを盗んできた。だから、国から追われてるし、堂々と町も歩けない。結局、俺がやってることは意味がなかったんだ。悪人は懲らしめたところで同じことを繰り返す。俺も同じだ。何も変わらねえ。人のものを盗まないと生きていけない屑なのさ。だからな、お前らには俺のようになってほしくないんだ。真っ当に生きてほしいんだ。それが、俺の願いだ」
優しい顔をしてジェックスは子供達に言い聞かせる。ジェックスの話を聞いたレオルドに楯突いた子供が前に出てくる。
「ごめんなさい。盗んだ作物はもうありません」
「そうか。どうして、盗んだか訊いてもいいか?」
「お腹が減ってたから……だから、少しくらいならいいかなって……」
「そういうことだったか。わかった。なら、俺と一緒に盗んだ人のところへ謝りに行こう」
「うん……」
俯いて泣きそうになっている子供は服をギュッと握りしめている。その姿を見たレオルドは子供の頭に手を置き、笑う。
「まあ、安心しろ。いざとなったら俺がなんとかしてやるから」
「ゔん……!」
泣いてしまった子供にレオルドは困ったように笑いながらも、子供達を連れて村へと引き返していった。
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