第149話 当初の目的を達成する

 やっと、マルコとサーシャが住む家の内装工事が終わる。くたびれたレオルドとシャルロットはお互いの背中を預けるように座り込む。


「ゼエ……ハア……ゼエ……ハア……」


「と、当分働きたくないわ~……」


 疲れ果てている二人とは正反対にマルコとサーシャは、完成した自分達の家を見て感動していた。


「ここがオイラ達の家……」


「うん……二人だけの家だよ……エヘッ……!」


 甘美な響きである。自分たちの家、二人だけの家。ここから、新しく始まるのだ。新天地であるゼアトでの二人の新しい生活が。その基盤となる家が完成したのだ。


「喜んでいる所、悪いんだがまだ完成したわけじゃないぞ」


「え? でも、サーシャのデザイン通りの家が出来てるけど……」


「形はな。これから家財道具を運ばなきゃ真に完成とは言えないだろう」


「あ、そっか。オイラ、忘れてたよ」


 どうやら、自分達の家が完成したのを見て、家財道具のことをすっかり忘れていたようだ。うっかりしていたと惚けるように笑うマルコを見てレオルドはやれやれといった感じで肩を竦めるのだった。


 さて、これから家財道具などを運び込むのだが、何一つない。もう一度言う。家財道具は一切ない。


「オイラ、服とか仕事道具だけで家財道具は持って来てないよ」


「わ、私もです……」


「おう……」


「どうするのよ、レオルド~? まさか作る気? 言っとくけど、土属性じゃ限界があるわよ」


「そんな事はわかってる。どうしたもんか……」


「材料さえあればオイラは自分で作るぞ。道具もあるから、椅子や机やベッドなら作れる」


「材料か……木材がいいよな?」


「まあ、うん。普通に作るなら木材だな」


「石じゃだめだよな……」


「貴方ね~、玉座でも作る気~?」


 流石に魔法で木材を生み出す事はできないレオルドは、一旦保留にすることにした。土魔法では限界があるので、レオルドは木材を調達する事にした。


 しかし、今は先に片付けておきたい案件があるのでレオルドはそちらを優先する事にする。


「すまない。木材はあとで調達してくるから、先にサーシャにお願いがあるんだ」


「はははい!」


「そう緊張するな。実は部下が結婚するんだが、結婚式を挙げてやりたいんだ。そこで、結婚式場をデザインしてもらいたい」


「結婚式場ですか……?」


「ああ。頼めるか?」


「……えっと……結婚式場ってなんですか?」


 ここでレオルドは常識が違う事を思い出す。手で顔を覆い隠して上を向くレオルドにマルコもサーシャも不思議そうに顔を見合わせるのだった。


「マ、マルコは知ってる?」


「いいや。初めて聞いたよ」


 お互いに初めて聞く単語に首を傾げる。それでも、レオルドが言うのだから何か意味があるのだろうと二人はレオルドに視線を戻した。

 一方でレオルドはどのように説明すれば、分かって貰えるのだろうかと考えていた。そのままの意味で伝わるかどうかは不安だったが、レオルドは説明をすることにした。


「結婚式場というのはだな。夫婦の晴れ舞台みたいなものだ。作りは教会に近いが、夫婦を祝福するかのように豪華な装飾が施されていることが多い」


「……そ、その教会とは違うんですか?」


「……違うんだ……説明がほんとに難しいんだが、教会とは別物と言っていい」


 出来る事ならば絵を描いて説明したいだろう。だが、レオルドには悲しい事に絵の才能が無い。芸術的センスはないのだ。こればっかりは、難しいがサーシャに頑張って理解してもらうしかない。


「難しく考えすぎなのよ」


「じゃあ、どう説明すればいいんだ!」


「ふふんっ! 私に任せなさいって!」


 なにやら自信満々の笑みを浮かべるシャルロットにレオルドは不審に思いながらも任せる事にしてみた。


 後を任されたシャルロットはサーシャを引っ張って行き、レオルドとマルコから離れた場所でサーシャの耳元に口を近づける。


「サーシャ。想像して御覧なさい。マルコと結婚する時、どんな場所がいいかを」


「えっ! えっ……エヘへ~」


 流石の手腕と褒めるべきかどうか迷う所だが、的確な助言である事は確かである。サーシャも乙女なのだから、廃れた教会よりは王城のような場所が良いに決まっている。

 もう説明する必要はないだろう。後はサーシャが自分の、または女性にとっての理想を作り上げる事だろう。


 ようやく、二人が置いてけぼりの男二人の所へと戻る。ただ、サーシャの表情が少しだらしない事に気がついた二人。レオルドはシャルロットが何を吹き込んだか知りたくなった。


「サーシャになんて言ったんだ?」


「秘密よ。でも、期待していいわ。きっと、素晴らしい結婚式場が出来るはずよ」


「そこまで言うなら、期待して待っておこう」


 やる気に満ち溢れているサーシャは完成した家の中へと駆け込んでいった。残されてしまった三人は、一先ず家財道具を作る為の木材を調達しに行くことにした。


 マルコがサーシャに出かけてくることを伝えてから、三人は木材を調達する為に森の方へと足を進めた。

 レオルドとシャルロットという強者がいるおかげで魔物に襲われる事もなく、無事に木材を手に入れることに成功した。


 あとは加工して家財道具を作るだけである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る