第116話 多分、そう

 さて、シャルロットに弄ばれていたシルヴィアだったが、レオルドの援護により見事二人きりのデートの権利をもぎ取った。


 しかし、王族であるシルヴィアと領主であるレオルドを二人きりで町へ向かわせる訳にはいかない。護衛としてバルバロトが候補に上がった。


 だが、そこはシルヴィアが許さない。折角、レオルドと二人きりになれる機会なのだ。どうして、邪魔になる護衛を許そうものか。


「大丈夫ですわ。レオルド様が付いてますもの」


「しかし、我々も仕事ですので……」


「王族の言う事が聞けないのですか?」


「うっ……」


 流石にそう言われると反論する事は出来なかった。そういう訳で、シルヴィアは見事にレオルドと二人きりになる事が出来た。


 町へと降りた二人は視察という名目で見て回ることになる。さっきまではシャルロットに弄ばれて、沈んでいた気持ちも今やルンルン気分である。何せ、大好きなレオルドと視察という名目ではあるが二人きりのデートなのだから。

 腕を組んでレオルドに身体を寄せるシルヴィアはニコニコしている。先程の事など遠い記憶の彼方だ。


「殿下、腕を組む必要はないと思いますが?」


「ふふっ、いいではありませんか。いつどこで賊に襲われるか分かりませんもの」


「でしたら、何故護衛をお断りになられたのです」


「それは、レオルド様お一人で十分だと考えたからです」


「私もそれなりに戦えますが、こうもくっついていると、些か動きにくいかと……」


 遠回しにシルヴィアを引き離そうとするレオルドだが失敗に終わる。


「大丈夫ですわ。その時は私がスキルを使用しますので」


(神聖結界か……でも、アレって対人に効果無かったような気が……魔物や魔法には滅法強いけど)


 シルヴィアが持つスキル、神聖結界は魔物と魔法には絶大な効果を発揮するが対人には大した効果はない。もしも、ナイフを持った暗殺者にでも襲われればシルヴィアは為す術もないのだ。


 その為に、レオルドがいるのだが。


 今、レオルドは探査魔法を発動させており、周囲の警戒をしている。ただ、シルヴィアの来訪は突然のものなのでゼアトの人間はシルヴィアが来た事など知る由もない。

 だから、万が一という事を考えてレオルドは探査魔法を使っている。しかし、探査魔法も万能ではないので敵か味方かを判別出来ない。一応、近付いてくる者には反応するが、その程度である。


 だが、安心して欲しい。


 護衛はいる。ちゃんといるのだ。レオルドは気付いているが、ギルバートが気配を隠して護衛を務めている。

 念の為にレオルドは保険をかけておいたのだ。ギルバートは伝説の暗殺者であるので、これくらいは朝飯前であろう。


 しかし、流石は伝説の暗殺者と言えばいいのか。レオルドはギルバートが付いてきている事は分かっていてもどこにいるかは把握出来ていない。恐らく近くにはいるのだろうが、純粋に凄いとしか言えない。


「どうかされました、レオルド様?」


「いえ、なんでもありません」


 平然を装ってレオルドはシルヴィアを連れて視察へと向かう。


 近くの商店に寄ると、店主が手を揉みながらレオルドとシルヴィアに近付いてくる。


「これはこれは、領主様ではありませんか。横におられるのは、なんと! 第四王女殿下ではありませんか! そのように腕を組んでいるという事はご結婚なされたので?」


 店主はシルヴィアが王女だと知っていた。流石は商人と言ったところだろう。情報が命という商人は王族の顔も把握していたのだ。


「馬鹿なことを言うな。今日は視察に参ったのだ。殿下をご案内してるだけに過ぎん」


「そうですかそうですか。でも、お似合いだと思いますよ~?」


「本当ですの!? 私とレオルド様はお似合いと思いますか?」


「えっ、ええ。勿論でございます。美男美女のお二人はとてもお似合いですよ」


「まあ! お似合いですって、レオルド様!」


 お世辞に決まっているのだが、喜んでいるシルヴィアを見てレオルドは無粋な事を言わないように決めた。


「店主。励めよ」


「はい。勿論です! 今後ともご贔屓に!」


 レオルドはシルヴィアを連れて店から離れる。二人が大通りを歩いていると、すれ違う住民達からは二度見されている。

 シルヴィアが第四王女という事はゼアトの住民は知らない。それもそうだろう。ゼアトから王都までは離れすぎている。それに、現代日本のようにテレビやネットがあるわけないので王族の顔を知らないのだ。


 だから、領主であるレオルドと腕を組んで歩いている美少女に皆見とれているのだ。

 なんと美しい方なのかと。そして、領主様レオルドはどこでその様な美少女を捕まえて来たのだと。


 レオルドは良くも悪くも印象に残る人物だ。ゼアトに来た頃は王都で噂になっている典型的な悪徳貴族と称されていた。最初はゼアトの住民も警戒して近付かなかった。

 だが、ここ最近になってレオルドは変わった。領主となり領地改革でゼアトを豊かにしてくれた。おかげでゼアトの住民は生活水準が上がり、レオルドには感謝しかない。

 そんなレオルドに遂に春が訪れたのだと、ゼアトの住民は祝福していた。


「うふふっ! レオルド様、私達ってどう見られているのでしょうか?」


「そうですね……まあ……烏滸がましい気がしますが恋人同士と言うのが無難でしょうか」


「やっぱり、そうですよね! どうです?

 いっその事本当に恋人同士になりませんこと?」


「ご冗談はおやめ下さい。私は公爵ではなく今や子爵です。殿下には相応しくありませんよ」


「そんな事はありませんわ。爵位こそ低いですけど、レオルド様は偉業を成したお方。誰も文句など言いませんわ」


「それでも、言う者はいますよ。さあ、まだ視察は始まったばかりですから行きましょう」


「むぅ~。今はそういう事にしておきますわ!」


 可愛くむくれるシルヴィアにレオルドは反応に困ってしまう。何だかんだレオルドはシルヴィアと一緒にいることが悪いことでは無いと考え始めているのだった。

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