第39話 説明が長いのよ……
執務室へと連れて来られたレオルドは扉を閉めているギルバートに質問を投げる。
「食堂では話せないことだったのか?」
「はい。少々、急を要するもので他の使用人に余計な混乱が生まれてしまう為、ここを選びました」
「そうか。で、バルバロトとは何を話したんだ?」
「……モンスターパニックの兆候を発見したとのことです」
レオルドはギルバートの言葉に首を傾げる。初めて聞く単語だったからレオルドには慌てる意味がわからない。
「……モンスターパレードではないのか」
「モンスターパレードではありませんよ。モンスターパニックです」
「……すまん。詳しく説明してくれ」
レオルドは運命48のゲーム知識にない単語が出てきてこめかみを抑えてしまう。全く分からないので素直に聞くレオルド。
「モンスターパニックとは魔物が飢餓状態に陥り、食料を求めて凶暴化する現象です。この現象については多くの学者が調べておりますが、未だに原因は判明しておりません。定説ですと魔素が原因とされていますが、断定は出来ておりませんな。そして、モンスターパニックの特徴ですが魔物が飢餓状態に陥り凶暴化するのですが、食欲が思考の大半を占めているようで目に付くもの全てを餌と思い込み襲い掛かるのです。一例としては最弱と呼ばれるゴブリンが格上であるオークに襲い掛かったりします。本来のゴブリンであれば、まず有り得ない行動です。仮にオークへと襲い掛かるとすれば数の上での有利性がある時のみですな」
「ふむ……大体分かったが、それほど脅威なことなのか? 俺としてはモンスターパレードの方が脅威に思えるが……」
「そうですな。モンスターパレードとモンスターパニックですと、後者の方が脅威となります。理由を説明しますと、まずモンスターパレードは強力な個体が魔物の群れの中に生まれて群れを統率することから始まります。例えで言いますと、ゴブリンキングといったところですな。ゴブリンキングが生まれると、群れを統率して勢力を増やしていきます。そして、村や街といった場所を襲うのです。魔物が統率されて軍隊のようになるのは脅威ですが、対処法は簡単でゴブリンキング、つまり群れの長を倒せば統率は乱れて烏合の衆と化しますので撃退は容易です。ただ、簡単とは言いましたが実際に行うのは難しいです。人と同じように守りを固めたりしますからね」
そこまで説明してギルバートは一旦呼吸を整えてから口を開く。
「そして、今回のモンスターパニックなのですが、こちらは統率も取れていない魔物の集団が襲ってくるようなものです。しかも、同族だろうとなんだろうと飢えを満たす為に多くの屍を築きながら。さらに凶暴化をしており、普段よりも力を増しています。そして、食欲は睡眠欲を凌駕し、昼夜を問わず餌を求めて暴れ回るのです。重要な対処法ですが、魔物の殲滅しかありません。昼夜を問わず、普段よりも凶暴性を増して襲い来るモンスターパニックと統率が取れて軍隊のような魔物が押し寄せてくるモンスターパレード。どちらが、脅威とお思いですか? レオルド様」
「充分理解した。どうやら、事態は最悪のようだな」
「はい。王都へと知らせ、援軍を呼び寄せねば対処は不可能でしょう。私はこれより旦那様へと知らせるので、午後からの稽古はありません」
「わかった。なら、俺はいつものように魔法の鍛錬に努めるとしよう」
極めて冷静なレオルドは執務室を後にする。
だが、扉を閉めてギルバートの目がなくなると、途端に震え始めた。
(あひいいいいい! なに! なんなの!? 馬鹿なの!? 死ぬの??? なんだよ、モンスターパニックって!!! そんなのゲームじゃ聞いたことないって! モンパレよりも鬼畜な仕様ってなんだよ! ふざけんなっ! 製作者出て来い!!! くっそ~! 完全に油断してた。モンパレはまだ先だから心の準備は出来たのに、突然すぎるだろうが!!! ちくしょう! 戦えって言われたらどうしよう……)
執務室から自室へと戻るレオルドは心配で心配で堪らなかった。ゲームのイベントとして知っていたモンスターパレードではなく、未知の出来事であるモンスターパニック。
内容はモンスターパレードよりも恐ろしいものでレオルドは自分まで戦う羽目になったらどうしようかと不安で仕方がなかった。
ぶるぶると見えない脅威に震えていたレオルドだが、ここで一つの可能性を思い出す。
それは、真人の記憶が目覚めた当初のことだ。真人の記憶から呼び起こされるのは、ゲームなどの決まった物語がある異世界転生には欠かせない存在。
世界の強制力だ。レオルドは、運命48では主人公のジークフリートがどのヒロインを選んでも死ぬ運命にある。死因は様々だが、どう足掻いても死ぬ。
つまり、その時が来てしまったのではないかとレオルドは推測する。だが、ここで一つおかしなことが分かる。
レオルドの死因には魔物によって殺されるものもあったが、モンスターパニックではなくモンスターパレードだ。なら、今回は違うのではと首を傾げるが、そこに世界の強制力という要素が加わったなら話は変わる。
世界は真人の記憶を持ったレオルドを異物として排除しようとしているのではないのかという答えが出てくる。
レオルドはその答えに辿り着くと、怒りを露わにして鬼の形相を見せる。
(ゆ、許せね~! ぜってー死ぬもんか! 世界の強制力が働いてるか知らないが、こちとら死なないように毎日地獄のような鍛錬を積んできたんだ! 生き延びてやる……生き延びてやるぞ! 俺は!!!)
怒りに燃えるレオルドは世界の強制力かもしれないモンスターパニックに挑もうとしていた。
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