第30話 第一印象ってマジ大事!

 ギルバートによる突然の申し出にレオルドは勢いで返事を返してしまった為に、今バルバロトを護衛として水源の調査並びに魔物の駆除へと赴いていた。


 ゼアトに面している森にレオルドを含めた調査隊が探索を行っている。基本は徒歩で行動しているので森の中を歩き回っているが、一人だけ死に掛けている。


「ハア……ハア……」


「レオルド様。この程度で音を上げるのは早いですよ」


「そうは……言うが……この生い茂る森の中を歩き回るのは疲れるぞ……! それに……俺は水源の……探索に……魔法を使って……並列作業を……行ってるんだぞ……!」


 息も絶え絶えで言葉を紡ぐのもやっとのレオルドは自分がどれだけ大変なのかをバルバロトに語る。


「それは理解しています。しかし、それを理由に何度も休憩を挟むのはよろしくありませんよ。これもダイエットの一環なのですから」


 そう、これはバルバロトの言うとおりレオルドのダイエットの一環でもある。ついでに実戦を積ませておこうという魂胆も含まれているが。

 勿論、レオルドも承知の上だ。最初は乗り気ではなかったが、やはり一度は冒険をしてみたいという思いがあったのだろう。途中からはワクワクと心躍らせていた。


 しかし、今はご覧の有様である。贅肉だらけの肉体は動かす事も一苦労でレオルドは一歩を進むだけでも辛くなっていた。


(膝が今にも砕けそう……てか、なんで騎士のみんなは重たそうな鎧を纏っているのに平気なんだ?)


 疑問を抱いたレオルドはバルバロトへ声を掛ける。


「バルバロト。どうして、お前達はそんな重そうな鎧を着けているのに平気なんだ?」


「身体強化を施しているからですよ。騎士にとっては当たり前の技能なので」


「なんだと? ならば、俺も――」


「あっ、レオルド様は使用禁止です。戦闘行為のみでは許可しますがそれ以外はダメです」


「なっ!? なんでだ?」


「ギルバート殿からの指示です。身体強化という楽を覚えては困ると」


「いや、でも、動くのだからいいではないか!」


「ダメです。言う事を聞かないのでしたら、多少の乱暴は許されてますので」


 微笑みながらポキポキと拳を握り音を鳴らすバルバロトにレオルドは苦笑いしか浮かばない。ここで文句を言うことは出来るが、どのような結末が待っているかレオルドは手に取るように分かった。


「わ、わかった……バルバロトに従う……」


「はい。では、探索を続けましょうか」


 最早、逆らう事は出来ない。素直にバルバロトの言うことに従ってレオルドは重たい体を引きずって探索を続ける。

 バルバロトとレオルドのやり取りを見ていた騎士達は大いに驚いていた。噂に聞いていたレオルドとは違う様子に。

 下手をしたら今のやり取りは公爵家へ喧嘩を売っているようなものだ。もしも、不興を買ったならどうなるかわかったものではない。


 だから、騎士達はレオルドの扱いに困っていた。どう接すれば正解なのか分からない騎士達は、レオルドから距離を置いて観察をしていたがバルバロトとのやり取りを見て分かったことは噂とは違うということ。

 かと言ってバルバロトのような物言いは出来ない。バルバロトは職務の一環としてレオルドへ剣の稽古を付けているから他の騎士とは距離感が違う。

 だから、許されているのだと騎士達は思っている。


 実際にその通りなのだが、別にレオルドは騎士たちにどのような扱いをされても怒ることはない。勿論、あまりに酷ければ怒るだろうが大抵の扱いは受け入れるつもりであった。

 突然、無理矢理参加して騎士達の雰囲気を悪くしてしまったのだからレオルドは罪悪感を感じていた。だから、多少の罵詈雑言は覚悟している。


 そんな事を騎士達が分かるはずないが。


 騎士達はレオルドと距離を置き、レオルドは騎士達と交流を深めておきたいと考えているがあからさまに避けられている事に内心落ち込んでいる。


(うーん……騎士たちに避けられてるよなぁ。チラチラとこちらを見てくるけど、目を合わせたらすぐに背けるし……やっぱ印象が悪いんだよな)


 理由は分かっていてもどうする事も出来ない。噂を払拭するにはそれ以上の噂を流すしかない。今のレオルドには過去の悪行を塗りつぶすような実績は無いため、今後の活躍が必要である。

 しかも、並大抵の事ではダメなのだ。今回の一件をレオルドが解決したとしてもイメージは変わらない可能性が高い。


 今までのレオルドの所業から考えると他人の成果を奪ったと思われるからだ。故にレオルドが今後イメージを改めて貰うには多くの功績が必要になる。


 ただ、少なくともレオルドの周囲にいる人間は評価を改めている。ギルバート、バルバロト、シェリアといったレオルドの近くにいる人達はレオルドが変わりつつある事を知っている。

 残念な事に知らないのはレオルド本人だけ。


「バルバロト。魔物だ」


 レオルドの突然な発言により騎士達に緊張が走る。騎士達も周囲を警戒しているが魔物の気配を感じていないのにレオルドだけが感知したのだ。


「レオルド様。本当ですか?」


 バルバロトはレオルドに聞く際に、周囲の警戒を担当していた騎士に目を配る。バルバロトと目が合った騎士は首を横に振り、魔物の気配を感じていない事を伝える。


「ああ。この先だ。距離はおそらく……100……150……すまん。詳細な距離はわからんがこの先にいることは確実だ」


「分かりました」


 バルバロトは他の騎士に指示を出して、一人の騎士が先行した。バルバロトとレオルドに他の騎士達はその場で待機する事になる。

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