第29話 へあッ!!! であッ!!! でゅあッ!?

 ワイバーンの一件からは特に何かが起きる事は無く、平穏にレオルドは過ごしていた。相変わらず、ギルバートとバルバロトの二人にダイエットと言う名目で扱かれているが概ね平穏である。


 レオルドがゼアトに来てから三ヶ月ほどが経過していた。学園を春先に去ってから、季節は変わり夏となっている。

 運命48の世界は春夏秋冬が存在しており、基本は日本と同じ気候になっている。

 故に今は照りつける太陽が肌を焼き、真夏の太陽が猛威を振るっていた。


 そして、レオルドは今日も日常と化している鍛錬が終わり、カラカラに渇いた喉を潤す為に水を求める。


「水……水をくれ……」


 干からびたミイラのようにレオルドはギルバートへ水を求める。

 すかさず、ギルバートはコップを取り出してレオルドに水を渡した。


「坊ちゃま。一つご報告がございます」


 ゴクゴクと喉を豪快に鳴らしながら、水を飲んでいるレオルドにギルバートはある報告を伝える。


「んむ。なんだ?」


「現在、ゼアトは水不足でございます」


「なに!? どういうことだ!」


「はい。ここ最近、雨が降っていない事で水が不足しているのです。このまま日照りが続けば、深刻な問題となってしまいます。今は住民たちも節水を心掛けております」


「レオルド様。今ゼアトは溜め池の水を利用して、なんとか凌いでいる状態なのです。ギルバート殿が仰ったように日照りが続いており、川の水位は下がる一方です。このままだと間違いなく水が足りなくなります」


「なんとか出来ないのか?」


「新たな水源でも見つけない限りは難しいかと……」


「騎士団も調査隊を出していますが、今の所はこれといった報告はございません」


(こ、こんなイベント知らねー! どうすりゃいいんだ!?

 待てよ? 魔法でどうにかできるんじゃね?)


 名案だと思いついたことをレオルドは述べるが、現実はそう甘くはなかった。


「魔法で補うと言うのはどうだ?」


「坊ちゃま。個人でなら可能かもしれませんが、事はゼアト全体の問題なのです。飲料水から生活用水全てを魔法で補おうとすれば、どれだけ魔力があっても足りませんぞ。しかも、一日だけではありませんからな」


「お、おう……」


 浅はかな考えであったとレオルドは落ち込むが、すぐに気持ちを入れ替える。

 そもそも何故自分にこんな話をしてきたのかと考えるレオルド。自分は領主代理でもないただのごく潰しとも言える存在だ。

 今は多少戦う事ができるが、今回の水不足に関しては力になれる可能性は少ない。


 そこまで考えるとレオルドは、やはり何故自分に水不足といった問題を話したのか分からなかった。なので、素直に聞いてみる事にした。


「一つ気になったんだが、何故俺にそのような事を報告するんだ?」


「それは俺がギルバート殿に話したんです。レオルド様なら何か妙案を思いつくのでは、と」


「買い被りすぎだったな。悪いが俺はこれ以上なにも思い浮かばん。強いて言えるとすれば節水を心掛けることくらいだ」


「そう……ですか。すいません。無理な事を言ってしまって」


「気にするな。評価されたと言う事なのだから、咎める気などないさ」


 しかし、結局水不足を解決出来るような案は誰も思いつかなかった。


「あの~……」


 三人が揃って頭を抱えていたら、メイドであるシェリアが顔を覗かせた。恐る恐るといった表情で三人へと声を掛けた。


「ん? どうした?」


「い、いえ。そのいつもなら鍛錬をしている様子でしたのに、今日は珍しく三人共難しい顔をして話していましたので気になってしまい……つい聞き耳を……」


「シェリア! 好奇心旺盛なのはわかるが、主の話に聞き耳を立てるとはどういうことか分かっているのか!?」


「ご、ごめんなさい!!」


「良い、ギルバート。重要な話ではあるがシェリアも無関係とは言えないだろう。怒るようなことではない」


「坊ちゃま。こういうことは普段から厳しく躾ておかねばならないのです。仮にも公爵家に仕えるメイド。節度は守らねばなりません。ましてや、主であるレオルド様の会話に聞き耳を立てるなどあってはならないことなのです。これが極秘の案件でしたならば、口封じの為には始末をつけねばなりません」


「ひっ……!」


 まさか、祖父であるギルバートから始末と言う言葉が出てくるとは思わなかったシェリアは小さく悲鳴を漏らした。


「た、確かにその通りだが、ギル。シェリアが怯えているから今回は俺に免じて大目に見てやってくれ」


「甘いですぞ、坊ちゃま。しかし、坊ちゃまがそういうのであれば仕方がありませんな」


 どうやらお咎めは無しだと分かったシェリアは安心してホッと胸を撫で下ろした。


「それでシェリア。俺たちに何か用事があって声を掛けたのだろう? 一体、何用だ?」


「あ、そうでした。その水不足についてなのですが、レオルド様は土魔法と水魔法を使えるのですから水源を調査したり溜め池を作られてはどうかと思いまして……」


「ほう……」


「シェリア! レオルド様に意見があるならば、まずは主の許可を貰ってからだと教えたであろう!」


 レオルドはシェリアの言い分に感心していたが、ギルバートはレオルドに何の許可もなく意見を述べたシェリアを叱った。


「ギル。そう怒るな。俺は気にしていない」


「坊ちゃまも甘やかさないで下さい! シェリアが付け上がってしまいますから!」


「は、はい……」


 ギルバートの剣幕にレオルドは圧倒されて、頷く事しかできなかった。


「そ、それよりもレオルド様。そちらのメイドが言うような事は可能なのですか?」


「無理とは言わないが、俺よりも王都にいる専門の人間を呼んだほうがいいかもしれんな」


「坊ちゃまも可能ではあるのですか?」


「試した事がないから何とも言えんがな」


「ふむ……」


 ギルバートはレオルドの言葉を聞いてなにやら思案する。レオルドは突然顎に指を置いて考え事を始めたギルバートに首を傾げる。


「坊ちゃま。丁度いいかもしれません。騎士団の調査隊に加わって水源の調査並びに魔物退治もやりましょう」


「ふむふむ、なるほど。わかっ――へあっ!?」


 ギルバートの提案にレオルドは腕を組んでうんうんと頷いていたが、最後の言葉に驚きの声を上げてしまった。

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