第二十六話 雷と通常運転

 


 ▽▽




 「……べさん、キヤベさん」




 ……ぬぅ。 誰かが僕を呼んでいる。 すんごいきれいな声なんだけれど……。 きっと起こしてくれているんだろうこの声は、再び僕を眠りへと誘わ……




 「起きなさいぃー!! 」




 「ぎゃぁー-!! 」




 誘わないっ!


 全身に電撃が走ったかのような痺れが駆け巡る……いやこれ、比喩とかじゃなくてほんとに物理的な奴だからね!?




 「……あ、が……」




 こ、声が出ない。 痺れによってぼやけている視界で捉えたものは、ラタスの姿だった。




 「あ、やっと起きましたか。 どうでしたか、恋の電撃は? 」




 けろっとした顔でたたずんでいるラタス。 ……手のひらあたりが青白く光っている辺り、きっと魔法を使ったんだろう。 いやてか、ということは本当に電撃を流したのかよ!?




 「……こ、殺す気……カヨ……」




 「ボクだってこんな手荒な真似はしたくなかったんですけれどね。 キヤベさんが起きないのが悪いんですよ」




 荒すぎだろっ




 ▽




 体の痺れがだいぶ収まってきた。 言葉が伝わるようになったので今の心情を語る。




 「はぁ、朝から散々な目にあった……」




 本当にこの一言に尽きるな。 すべてを物語っているよ。




 「あれ、せっかく美人が起こしに来てあげたというのに。 釣れない反応ですねー」




 「自分で言ったらダメでしょ。 まあ、僕を呼んで起こすところまではいい餌になっていたけれどね」




 実際、すんごいきれいな声で名前を呼ばれたときは食いついていたんだけれどな。




 「あでも、起こされたという意味では釣れたということになるのかな……」




 そんなどうでもいいことを考えているとラタスから妙な言葉が聞こえてきた。




 「それはそうとキヤベさん。 早く朝食の席につかないと本当に雷、落ちますよ」




 本当の雷? いや、それはラタスがさっき魔法で落としただろう。 それ以上の雷なんてあるわけ、




 「やーべーちゃーんー?? 起きないと寝かせるわよー??」




 あったっーってかまさかの永眠!?




 ▽




 光の速さで席についた僕とラタスは朝食を終え、学校へと向かっていた。 朝食中、ラタスが終始、福の顔しか見ていなかったという報告は言うまでもないな。 というか気持ちが悪い。 教育にも悪い。 




 「あの、キヤベさん」




 「なんだよロリコン」




 「福ちゃんってどんな味するんですかね」




 「取り敢えず僕の発言の否定をしようか。 それと、悪魔の発言としては普通なんだろうが、ラタスが言うと別の意味に聞こえるから自制しようか」




 「大丈夫ですよ、その点に関しては別の意味であっているので、なんの問題もないです」




 「問題だらけなんだが!?」




 何なら、自身がロリコンであることを誇りに思っているかのようなそぶりだ。 もう制御不能だな。 うん。


 ん? というかちょっと待て。




 「おい、ラタスさんや」




 「はいなんでしょうか」




 「君はいつから学校に通えるようになっていたんだ? 」




 全然気づかなかった。 昨日までなかったはずの僕の通っている高校の制服。 それをなんの不自然味もなく着こなし、挙句の果てには僕と一緒に登校までしている始末である。 流石悪魔といったところだろうか。 




 「僕と一緒の学校に通うの? 」




 「もちろんですとも。 その方がいっぱい一緒にいられますからね」




 ちょっとときめいちゃったけれども!!




 「……あ、あんまりそういうことをだな、公の場で言うものではないよ……」




 「え、じゃあ嘘ついた方がいいってことですか? 一緒に居たいだなんて思っていないです。 早く消えてください」




 「正直に行こう。 僕が悪かったです」




 普通に暴言というか、自分の存在を否定された感じがして心が折れそう……。




 「わかればいいんですよ」




 自分の発言が承認されたラタスは得意げにそういった。 くそう、完全に尻に敷かれている……。




 ▽




 「おおー! これが電車なんですね……。 ちょっと酔いそうです」




 電車みたいなものがあっちの世界になかったのか、物珍しそうに、そしてよい層になっているラタス。 行先はもちろん学校。 その前にひとつ、難関がある。


 そう、琴乃の存在だ。 次の駅で琴乃は電車に乗ってくる。 きっと琴乃は僕とラタスが一緒に登校しているという事実に怒り狂うだろう……。 僕の男女の関係に厳しい琴乃はそうに違いない……!


 


 「なんでラタスとヤベが一緒に登校しているのかな……? 」




 と、すごい笑顔で竹刀の成れの果て棒で一本取ってくるんだろうな……二分後の僕、頑張れよ。


 駅に停車しますという旨のアナウンス。 止まる電車は僕の命が止まるということなのかな……。


 ドアが開き、琴乃の姿が見えた。 ああ、終わる。 ありがとう世界。




 「おはよーヤベ。 昨日はどうもありがとうね」




 ……あれ? 成れの果て棒が飛んでこない……。 罵倒も飛んでこない。




 「どうしたの、ヤベ。 そんなキョトンとした顔して。 ああ、ラタスもおはよー」




 「おはようございます、琴乃さん」




 に、日常会話が始まっている、だと……?




 「あ、あの琴乃さん? つかぬことをお聞きしますが、僕がラタスと一緒に登校していることにお叱りの言葉はないのですか? 」




 「ん? なんでよ、そんなことで怒らないわよ」




(おいラタス! 琴乃に魔法かなんか使ったな! 明らかに様子がおかしい!)




(使ってないですよ。 でも、まあ魔法というかボクの存在というか……そういうのが確定したんですよ)




 何か含みのある言い方をするラタス。 2人の間に何かがあったということならば、きっと昨日の時だろう。 一体何を話したというのだ?




 「……何2人でこそこそ話しているのよ。 私の話? 」




 「ああ、いや、何でもないよ」




 「ふーん? ところでヤベ」




 「は、はい」




 「あとで顔、貸してね☆」




 僕の想像していた通りのとびきりの笑顔で成れの果て棒をちらつかせる琴乃。


 全然通常運転だった。 

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