第十話 代償


 そのあと、2度目の始業式を迎えた。 校門で大河と鉢合わせをする、琴乃、大河、そして千里と同じクラスになる……。 すべてがループ前と同じ出来事だったため、まるで夢の中にいるような感覚になった(琴乃の態度がループ前とは怖くなっていたが……)。 しかし、そうやってこれは夢なのかと考えている自分がいるということは自分は存在しているということだ。 うむ。 だからこれは夢じゃない。 意味は違うかもしれないが我思う、ゆえに我ありってやつかな。 言いたかっただけです。 


 ループ前と同じ時間の電車に乗って、降り、帰路に着く。 

 しばらく歩みを進めていくと、例の公園、この辺では唯一の公園に着く。 果たして、そこには散りかけの桜の木を見上げているラタスの姿があった。 今回は偶然ではなく必然に公園の方を見た。 ラタスも分かっていたかのように、こっちーと手招いている。 僕は迷うことなくそちらへ向かった。


 「どうでしたか? 2回目の今日という日は? 」


 いたずらっぽく、小悪魔のように笑うラタス。 まあ、悪魔なのだが。


 「ほとんどの出来事が同じように起きたから夢の中にいるみたいだった。 後、もう少し夢のある願いにしておけばよかったって思ったね」


 「ふふ、そうですよね。 ボクが別世界から来たっていう証明をしろっていうんですから。 もっとこう、空飛びたいとか、お金欲しいとか、女の子にちやほやされたいとかあったんじゃないですかって思いましたけれど」


 ん? まて。 今物凄い言葉が聞こえた気がする……!


 「女の子にちやほや……!? そんなこともできたのか!? 」


 「なんでそんなにがっついてくるんですか。 怖いですよ。 まあでも、はい、何でもかなえられますからねー」


 それにしても男って単純ですねー、と呆れるようにいうラタス。 クッソ! 本当にもったいないことをしてしまった!! 女の子にちやほやとかめっちゃされてぇー!! モテるという感覚をしっておきてぇー!

 

 「あの、駄々洩れてますけれど。 欲望が」


 気づかないうちに言葉に出てしまっていた。 後悔を公開してしまっていた。 恥ずかしい。


 「それで、ボクのこと信じることができましたか? 別世界から来たってこと」


 「うん、そうだね。 こんな芸当を見せられちゃ信じるしかないよ」


 「あとボクが女の子だってことも」


 嫌味のように言うラタス。 うう。


 「その節は大変申し訳ございませんでした」


 僕は素直に謝った。 こればかりは僕がわるい。 女の子を男の子呼ばわりは、大罪だ。 ラタスは僕の回答に満足したのか、ニコッと微笑んで


 「それは良かったです。 これであなたの願いは叶ったということで。 それでは代償を頂きます」


 「ああ、わかっ……」


 は? 今、なんていった……。 代償?

 急な単語に対して僕は本能的に警告音を鳴らす。 まずい。 

 

 「代償って……。 お前、そんなこと一言も……」


 「ええ。 聞かれてませんからね。 でも、あなたも分かっているはずでしょ? 無償で願いをなんでも叶えるなんてそんなうまい話、あるわけないじゃないですか」


 突然、非現実が現実に現れるかのように。 本物の悪魔が僕の前に現れたと今さら実感した。 彼女の笑顔は悪そのものだった。 僕は今まで何を勉強してきたのだろうか。 学校の講演会かなんかで体育館に眠そうにしながら何度もされてきた話。 うまい話には裏がある。 そんなことを今さら思ってももう遅い。 自分が欲していたサービスは提供されてしまった。 今度は僕の番、ということだ。


 「……何が望みだ」


 恐る恐る聞く。 まさか僕が願いを聞くことになるとは。 皮肉なものだ。 血、寿命、命……それが自分のだったらいい。 家族、友人とか……そんな質の悪いことを要求してくるだろうか。 そんな僕の恐怖心を楽しんでいるかのようなラタス……悪魔はニヤぁっとより一層悪となって言う。


 「其れはですね……」


 しっかりとためて悪魔の要求する代償は、血でも、寿命でも、命でも、青春でもなかった。


 「あなたと一緒に住む場所を下さい!! 」


 ぺこりと頭を下げてきた。 なんでだよ。


 

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