ポチャはどこまでポチャなのか

@hyugana

第1話

どうやら幼馴染は一般人ではないらしい。それでもって、産声あげてからこっち、15年程家族ぐるみで馴染みのある自分は‘’ミノホドシラズ‘’なのだそうだ。

手嶋真莉は以前からうっすらと感じていた女生徒達からの敵意に囲まれて、改めて認識せざるおえなかった。


『どうしようかなー』


チラリと視線を動かし、剣呑な様子で睨みつける少女たちを伺う。

思ったより人数がいる。


『えーと、4.5.‥7人か、モテるなあいつ。先週バズったからかな?』


学校のホームページにあげられていた新入生インタビューで爽やかに微笑む幼馴染の画像がネット上で拡散されたのは先月だ。

先週どっかのアイドルだがモデルだかがフォローしたとかなんとかでウェブニュースに上がり、まとめが出来たらしい。

本人はデジタルタトゥーだと嘆いていたが。


なにかの戦隊物か、アイドルグループかのように、センターに一番可愛らしい少女を配し、両サイドから後方まで整然と同じエンブレムを付けた紺のブレザーで青系チェックの短いプリーツスカートの少女たちがそれぞれ真莉を睨みつけている。

真莉も同じ制服を着ているが、少女たちのようにブランド服のようなシルエットにはならない。規定通りのスカート丈は膝丈から4センチ下なのだ。

‘’歩いても膝が見えない丈‘’が校則だ。もちろん規定どおりスカートには吊りも付けている真莉には逆立ちしても出てこない白い膝が彼女たちのスカートから覗いている。

中には柔かそうな太腿にちょぴりくい込み気味の黒ニーハイの子も居るが、ほとんどの子はセンターの少女と同じ膝下までの白いソックスだ。

髪型も髪色もハーフアップからアレンジ、ツインハーフと様々で、明るいブラウン系の色彩が並んでいるし、彼女たちのリップもグロスから明彩コソ違うが先日幼馴染が‘’良い色‘’とかなんとか言っていた色が揃っていた。というか上から下まで幼馴染が好んでいるスタイルで揃えているため、ますます統一感がある。それでいて少しづつアレンジを入れて個性を出している所は自分の見せ方を心得ているらしく、手慣れている。‘’自分がカワイイ‘’ことを熟知しているのが伺える。

どうやらウワサのスクールカーストとやらの上位に君臨する少女たちのようだ。


『うん、うん、美人さんが揃ってるなあ。入学して一ヶ月でこんなに好かれてあいつは果報者だね』


現実逃避して遠い目をしている真莉の態度が気に食わなかったのか、一番前で対峙していた少女が、その可愛らしい顔から考えられないような忌々しげな舌打ちを披露した。


「ちょっと、なんとか言いなさいよ。聞いてるの」


焼却炉裏のほぼ人が通り掛からない、校舎からもグランドからも離れた場所に呼び出されて知らない女生徒達に取り囲まれた真莉はちょぴり後悔した。


『だから一緒の高校はヤダって言ったのに~』


脳内では幼馴染への文句を並べ立てながらも、少女たちへは何も言えずにヘラリと笑ってみせたがヘイトを稼ぐだけのようだった。

視線に物理法則があれば、多分真莉の首を締めそうな圧で少女の目が険しい。


「大体図々しいのよね、そのたるんだ身体と顔で‥‥」

「たるんでる?」


センターの右隣に位置する少女の言葉に、つい真莉は食い気味に遮ってしまった。


「なによ」

「いや、はち切れそうとかパツパツとかムチムチとかぷにぷにとは言われてきたけど、たるんでるってのは初めてだったから」


真莉の言葉に、少女たちの視線が揃って動いた。


上から下へ、そしてまた上へ。


真莉の制服のスカートから覗く脹ら脛から同じ太さでつながる足首、輪ゴムをつけたようなくい込むような手首、弾けそうなポークウインナーのような指、フクフクと擬音をつけたくなるような丸い顔。アゴからわずかに見える首の肉。黒目がちの目も頬肉に押されてやや小さい。唇はぽってりと弾力を見せるがリップもしていないからか色味が地味、ダメ押しのように毛量が多く、コシの強い黒髪のミディアムボブが畝って広がる頭。

肌だけは抜けるように白く、うっすらとピンク色で柔かそうであり、ビカピカと初夏の陽射しを彈いて輝いている。

全体的に丸く、弾力がありツヤツヤしている。


「ほら、私みんなに手毬って呼ばれてるし、アイツなんか機嫌良い時は大福って呼ぶし」

「………」


一瞬、少女たちの間に気まずい雰囲気が流れた。


「そっか、たるんでるのか」


真莉の声に、センターの子がキッとにらみつける。


「か、身体よりもたるんでるのはその性格と生き様よ!」

「はー、イキザマ…すごいとこきたな」

「ふざけないでよね」

「馬鹿じゃないの」

「デブスの陰キャの分際で」


真莉の合いの手が気に食わないのか、少女たちは一斉に声を上げ糾弾を開始した。

真莉はこれ以上燃料を投下しないように‘’お口ミッフィー‘’の呪文を脳裏に浮かべ、真摯な表情を意識して目線を地面に落とした。


『生き様が弛んでるのかぁ』


少女たちの罵詈雑言はスルーされ、貴重な放課後は潰れただけだった。

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