第48話 ギルド


 冒険者への依頼が行われてから数日後。


 約束の日を迎えたため、レティシアは早朝からエリーシャを伴ってギルドへと向かう。

 公爵家からギルドまではそこそこ距離があるが、馬車は使わずに徒歩で、である。


 今日のレティシアの格好は、野外活動を考慮した動きやすい服装だ。

 実用的でありながら女の子らしさも損なわない、絶妙なコーディネートである。

 最初はいつもの作業着つなぎで行こうとしたのをエリーシャに止められて、結局は彼女が全て見繕ったのだ。


 そのエリーシャも普段のメイド服ではなく、いかにも駆け出しの女性冒険者…といった装いだ。

 佩剣もしているが、それは単なる飾りではなく…実は彼女、剣の心得があるらしい。

 レティシアはそれを聞いてかなり驚いた。






 今回依頼を受けてくれる冒険者は5人。

 A〜Cまでの比較的高ランクである事を依頼条件に指定していたが……依頼を出してから直ぐに必要人数が揃った、と言う連絡を貰っている。

 レティシアは詳しいことは分からなかったが、報酬面でかなりの好条件にするように指示していたのが良かったのだろう。




「ギルドに行くのは初めてだよ。何だかワクワクするね!」


「私はちょっと苦手なんですよね……」


「荒っぽい人が多いから?」


「ええ、まぁ……やっぱり、そんなイメージがありますね」


「だったら無理してついてこなくても良かったのに……」


「流石にそう言うわけにはいきませんよ」


 モーリス商会の仕事の一環なので、公爵家の使用人であるエリーシャがそこまでする必要は本来無いのだが……

 もうすっかりレティシアの秘書みたいな立ち位置なので今更ではある。


 と言うか、実際に会長秘書に専念してもらおうか……などとレティシアは考えてたりする。

 最近、彼女の従姉妹が公爵家の新たな使用人として採用されたらしいので、自分付きの使用人はその娘に引き継いでもらって……などと具体的な人員配置も考えていたりも。






 そしてしばらく街を歩き、ギルドまでやって来た。


 イスパルナ市街に幾つもある広場の一つに面したその建物はかなりの大きさで、モーリス商会よりは少し小さいくらいだろうか。

 大きな扉は開け放たれており、早朝にも関わらず中から喧騒が漏れ聞こえてくる。

 人の出入りもひっきりなしだ。




「こんなに朝早いのに、随分賑やかだね」


「朝夕がピークですからね。早朝は新規の依頼が張り出される事が多いから、それを狙う人が多いです。夕方は依頼の完了報告で混雑しますね」


「なるほど〜」


(その辺は前世の創作物と同じなんだね)



 扉から中に入った先は、多くの冒険者たちで活気に満ちたロビーとなっていた。

 そこはかなり広い空間なのだが、今は手狭に感じるほどに人で溢れている。



「ひゃあ……これは、圧倒されるなぁ……どこに行けば良いんだろ?」


「え〜と、確か……あ、あっちですね。依頼人用のカウンターで良かったはずです」


 流石は事実上の秘書である。

 スケジュール管理から約束事の詳細内容までバッチリ押さえている。


 依頼受理用のカウンターは多くの冒険者たちが列をなしているが、依頼人用の方は誰も並んでいなかった。



「おはようございます。本日依頼の約束をしてます、モーリス商会のレティシアです」


 レティシアが受付嬢に挨拶をして用件を伝えると……彼女はよっぽど暇だったのだろうか、眠そうに欠伸を噛み殺していたのを慌てて取り繕ってから答える。


「は、はい!レティシア様ですね、少々お待ち下さい」


 そう言って彼女は台帳のようなものを繰って確認する。

 直ぐに目当てのページに行き着いたようだ。



「はい、確認出来ました。廃鉱山の魔物の駆除、及び視察のための護衛……でよろしかったでしょうか?」


「はい、間違いないです」


「お約束の時間までもう少しあるみたいなので……メンバーが揃うまで別室でお待ち下さい」


「分かりました」



 そうして受付嬢に案内されて、カウンター裏の別室に通される。



「では皆様揃いましたらお声がけさせていただきます。それまでごゆっくりどうぞ」


「ありがとうございます」








「いよいよ冒険者の人とご対面か〜。楽しみだね」


「良い人たちだと良いのですが……」


 レティシアはワクワクと言った様子で。

 それとは対照的に、エリーシャは不安を隠せない様子で……しばし冒険者たちを待つことになるのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る