第44話 誕生日のお祝い(デート?) 1
レティシアの誕生日は春の陽気も麗らかな時節の5月5日である。
彼女の前世では『こどもの日』に当たるが、この国の暦では特別な日ではない。
彼女の誕生日は毎年家族で祝われ、それは今年も変わらないのだが……今日はいつもとは異なり、日中はリディーとお出かけすることになっていた。
父アンリはデートなどと言っていたが、レティシアはただ単に美味しいものを食べに行く以上の意識は持っていなかった。
母アデリーヌもその話を聞いた時、最初は目を輝かせていたものだったが……レティシアがあくまでも色気より食い気である事を見るにつけ、ため息をつくのだった。
エリーシャに身支度を整えてもらい、待ち合わせ場所に向かうレティシア。
最近は一人での街歩きも許可されていて、その足取りは慣れたものだ。
待ち合わせ場所と言っても、いつも通りモーリス商会の研究開発室なのだが……それも、アデリーヌがため息をつく理由の一つであった。
しかし、今日の彼女の格好は普段よりもかなり
もともと彼女は幼いながらも非常に整った容姿であり、眩いばかりの黄金の髪と相まって人の目を惹きつけるのだが……本人は自分の容姿には全くの無頓着で、着るものもシンプルな物を好む。
それどころか、研究開発室に籠もって作業をするときなどは、全く似合わない作業着を愛用しているような娘なのだ。
アデリーヌがため息をつく理由の一つである。
そんな彼女が、今日は年頃の少女らしい、彼女によく似合う服を着ているのである。
幼くも稀なる美貌の少女に、街行く人々の目線が釘付けになるが当人は全く気が付かない。
もちろんレティシアが意識してそのような格好をしてるわけではない。
今日のデート(?)の話を聞きつけた、エリーシャを始めとするモーリス公爵家メイド隊が気合を入れた結果であった。
「こんにちは〜!リディーは居る?」
「あ、会長、こんにちは!主任なら今席を外してますけど、直ぐに戻られるかと。……どうしたんですか?今日は随分とお洒落をしてますけど」
研究開発室にやって来たレティシアは、入口近くに居る男性職員にリディーの所在を聞く。
彼は普段は見られないレティシアの格好に目を丸くしながら答えてくれた。
現在の研究開発室は、かなりメンバーも増えた事により、様々な開発案件ごとに担当を分けるようになっている。
鉄道開発の本格化に伴って、モーリス商会地下の他にも幾つかの開発拠点が設けられたが、ここが中心である事に変わりは無い。
「今日はね、ちょっとリディーとお出かけする予定なんだ」
「あぁ、デートですね。行ってらっしゃいませ」
(ん〜、やっぱそう見えるのか〜。前世男としてはどうにもビミョーだなぁ……。でも、私ももう12歳か。普通だったら異性に興味が出る年頃だと思うけど……ん〜、よく分かんない。少なくとも、女の子に興味があるわけじゃないと思うんだけどね)
彼女が前世の記憶を取り戻したときから、感覚としては前世から意識がそのまま続いているように感じられたのだが……女性への興味という点では、その時点ですっかり途絶えてしまった。
(ま、まだ12歳の小娘だしね。そーいう悩みは、まだ私には早いかな?)
そんなふうに、彼女はそれを先送りにするのだった。
暫く研究開発室で何となく設計図を眺めながら待っていると、リディーが戻ってきたようだ。
「あぁ、レティ。もう来てたのか。すまないな待たせてしまったようで」
「ううん、さっき来たところだから、だいじょ〜ぶだよ。じゃあ、行こっか」
「分かった。しかし、折角の誕生日に俺なんかと一緒で良かったのか?」
リディーは気になってることを聞いてみた。
歳の離れた自分なんかより、同年代の友人たちと過ごしたほうが楽しいのではないか?
……と思い、気になったのだ。
もしかして、友達いないのか?
と思ったのは秘密である。
実際、レティシアの同年代の友人はあまり多くない。
たまに父親に付いて公爵家に立ち寄ってくれるルシェーラは仲の良い友人と言えるが……
あとは、両親の付き合いで他の貴族家の令嬢たちと交流があると言えばあるが……友人と呼べるほどの者はそれほどいないのが実情だ。
精神年齢的に、どうしても年上の人の方が話が合うし、心境としては若い子の話にはついて行けない……なんて年寄り臭い事を思ってたりする。
ルシェーラは年下だが年齢に見合わない聡明さがあるし、何となく波長は合う気がしている。
(……私、友達少ない?いやいや、リディーだって親方だって、マティス先生だって……研究開発室のメンバーにも親しい人はいるし、友人と言えなくもないし。……でも、リディー以外はおっさんばっかだわ)
難しい顔をしてレティシアは悩み始める。
そして、ひとしきり悩んだあと、徐ろにレティシアは顔を上げて言う。
「結論。私の身近で歳の近い友人はリディーしかいないわ!文句ある!?」
「い、いや……変なことを聞いてすまなかったな……」
リディーは悪いことを聞いてしまった……と反省するのだった。
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