レティシア12歳 飛躍

第43話 誕生日


 レティシアが国王夫妻と初めて会ってから時は流れ……彼女はもうすぐ12歳の誕生日を迎えようとしていた。


 まだ幼さを残すものの、幼女から少女へと成長した彼女はその美貌にも磨きがかかり、少しずつ女性らしさが感じられるようになった。

 前世の記憶があるので精神的には既に成熟していた……はずなのだが、どうやら身体の幼さに心も引きずられていたのだろうか、以前よりも落ち着きが見られるようになった。







 鉄道開発に関しては概ね順調。

 縮尺1/2スケールの模型も約1年の歳月をかけて完成させ、何度も実演を行ったりした。

 国の高官にも非常に好感触であり、国家事業として認定されることはほぼ間違いない状況まで来ていた。


 現在はレティシアの意見をもとに法整備に向けて草案を作成中となる。

 その議論を行うため、レティシアはアンリに連れられて初めて王都や王城にも赴いた。

 法案提出、審議を経て施行されれば、いよいよ本格的に国家事業としてスタートを切ることになるのだ。


 車両関連の技術開発には目処がつき、近くフルスケールの試験車両の製造も始まる。


 その一方で、土木関連、保安設備関連等の研究開発も盛んに行われ……実用化に向けて、試験車両の製造に合わせて実験線の敷設も行われることになった。

 公爵家の敷地に作られた製造工場はそのまま車両基地となり、そこから実験線の敷設を行う予定。

 総延長は20km程で、順調に行けば2〜3年後には試験を開始できる予定だ。





 そんな風に、鉄道の開通に向けては着実に進んでいたのだが……

 レティシアはある悩みを抱えていた。











「レティ、もうすぐキミの誕生日だが……何か欲しい物はあるかい?」


 ある日、アンリは娘にそんなことを聞いた。

 以前は服やアクセサリーなどを贈っていたのだが、あまりそういうものには興味がないことを察して、ある時からは本人の希望を聞くことにしていたのだ。


 父から問われたレティシアは、少し思案してから答えた。



「……鉄」


「……は?」


「鉄鉱山が欲しい」


「……」



 娘が少女らしいモノを望むことは稀であることは理解していたつもりだが、それはあまりにも予想の斜めを行く答えだった。


 誕生日の贈り物に鉄鉱山を強請る少女。

 意味不明だ。

 だが、アンリには理解できてしまった。



「う~ん……鉄道に鉄が必要と言うことなんだろうけど、足りないかい?」


「今はまだ大丈夫なんだけど、実際に建設が始まったら、今の国内の採掘、流通量じゃ全然足りないと思う。全部を鉄道建設に回してもらうことなんて出来ないし、価格が凄く高騰しちゃう」


 鉄道の建設に大量の鉄を買い付ければ、供給不足を招いて鉄価格自体の高騰を招くのは目に見えている。

 一般市民の生活にも大きく影響するだろうし、レティシアとしてもそれは避けたかった。



「そうか……大戦が終決して早10年以上。武器類の需要低下とともに閉山した鉄鉱山も多いからね……権利を買い取って採掘再開させるか……」


「あ、権利買い取りはモーリス商会でやるから、父さんには根回しをお願いしたいな」


「分かった。要らぬ憶測をされてもかなわないから、国にも報告を上げておくとしよう」


「うん!ありがとう!」








「それはさておき……誕生日の贈り物がそれじゃ、あまりにもあんまりだと思うよ。他に何か欲しい物は無いのかい?」


「欲しい物……ん~、特に思いつかないなぁ……」


 彼女の頭の中はいつも鉄道の事でいっぱいだ。

 アンリはそれが少し残念だと思うのだ。


「キミも、もう年頃の娘なんだから。もっと、こう……女の子らしいものに興味を持っても良いんじゃないかな?」


「う~ん……そう言われてもなぁ……」


 レティシアの前世は男ではあるが、最近多少は女らしくなってると、彼女自身は思っている。

 だが、見た目以外はちょっと……というのが周りの評価だ。

 マナー教育は卒なくこなせてるので、表面を取り繕うのは上手いのだが。



「そうだ。リディー君とデートでもしてきたらどうだい?美味しいお店でも予約して」


「デート?リディーと?」


 レティシアには父の提案の意味が今一つピンとこなかった。

 普通だったら父親としては娘に男が近づくのは複雑なところなのだが……アンリとしては娘が余りにも女の子らしくならないので、将来を心配してそんな提案をしてみたのだ。

 リディーは平民だが優秀で人となりも良く、父親として将来的に彼との結婚ならば認めても良いと、アンリは思ってたりする。

 いや、彼だけでなく、母アデリーヌは寧ろもっと乗り気だったり。

 兄リュシアンは少し複雑らしいが。



(ん~……デートって、意味が分からないな。リディーなんて年も離れてるし……確か今19だっけ?私みたいなチンチクリンなんて興味ないだろうし。もし万が一興味があったら、それはロ○……いや、それ以上はやめておこう。でも、美味しいものは食べたいかも)


「分かった!そうするよ」


「おお、そうかそうか!なら、色々とおすすめの店を紹介しよう」




 アンリは喜んでいるが……レティシアはあくまでも色気より食い気で決めただけである。

 彼女にはまだ、色恋沙汰はよく分からないものであった。

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