第40話 視察


 イスパル王国の国王夫妻に鉄道開発の意義を語ったレティシア。

 彼女の熱意のこもったプレゼンにより、事態は大きく前進することになった。


 国家事業として認定……それは将来的に必須だと思っていたが、思いがけず早期に理解が得られたことは大きな成果だった。



(父さんに感謝しないとね。……まぁ、お二人の訪問の目的が私だったことを黙っていたのは追求しないでおくよ)


 父アンリが何かと気にかけてくれるから、これまで色々な成果を出すことが出来たのだ。

 それは感謝してもし足りない……と彼女は思っていた。

 その恩に報いるためにも、なるべく早く鉄道を開通させなければ、と思うのだった。










 レティシアとの会談を終えた国王夫妻だったが……現時点の成果を見てみたいと言う話になり、モーリス商会にある研究開発室へと案内することになった。


 今日もリディーが仕事をしてるはずだが……

 特に先触れなどは出さなかった。



(ふふふふ……リディー、驚くだろうな〜)


 ……似たもの親子である。






 そして、公爵家の馬車でやって来たのはモーリス商会。

 国王夫妻とアンリ、レティシア、そしてリュシアンが同行している。

 アデリーヌは夜の晩餐などのおもてなしのため、家人に指示をするべく邸に残っている。

 モーリス商会が公爵家の直営であることは周知の事実であり、時折このように公爵家の馬車が横付けされるので特に珍しい光景ではないのだが……今回は馬車の周りを護衛騎士たちが固めて物々しい雰囲気であり、何事かと野次馬が遠巻きに眺めていた。




「こちらが鉄道関連の設計・開発を行っているモーリス商会です。試作品の製作などは、別の場所にある工房ですけど」


「うむ。確かレティシアが会長をしているのだったな」


「はい。……まぁ、経営は殆ど副会長母さんに任せっきりですけど」


「モーリス商会が扱うものの殆どはレティちゃんのアイディア商品だと聞いたわよ。十分じゃないかしら」


「そうでしょうか……でも、父さんや母さんのお陰で鉄道開発に注力できてるのは確かです」



 少し恥ずかしそうにレティシアは返しながら、モーリス商会の中へと案内する。



「僕も初めてだから、楽しみだよ」


 一緒についてきたリュシアンも、妹の仕事場を見学するのを楽しみにしているようだ。








「こんにちは〜。みんなお疲れ様〜」


 そう挨拶しながら中に入ると、従業員の女性がレティシアの方を見て挨拶を返そうとする。


「あ、会長。どうもお疲れ様で…………!?よ、ようこそお越しくださいました。国王陛下、王妃殿下のお二人にご来店いただけたこと、誠に光栄でございます!」


 どうやら彼女はユリウスの顔を知っていたようだ。

 そうでなくても、公爵たるアンリよりも更に立派な身なりと威風堂々とした態度で只者ではないことが分かっただろうが……少し狼狽しながらも、即座に臣下の礼を取った彼女は中々に優秀と言えるだろう。



「仕事中すまぬな。我らのことは気にせずに楽にしてくれ」


「は、はい!」


 そう言われても、中々緊張が解けるものではない。


 そして、その様子を見ていたレティシアは少し反省した。


(……そうだった。リディーを驚かそうとばかり思ってたけど、他の従業員もいたんだよ。まぁ、ウチの従業員ならしっかりしてるから、陛下に失礼な態度を取る人もいないだろうし……大丈夫でしょ)


 丸投げである。

 実際、モーリス商会内で光の速さで申し送りされる事にはなるのだが。











 そして、地下の研究開発室ラボへとやって来た。

 そこにはリディーの他、マティスや親方、数人のスタッフが作業を行っていた。


 レティシアが室内に入ってくると、皆作業の手を止めて挨拶しようとするが……続いて入ってきたユリウスやカーシャを見て驚愕する。



「こんにちわ〜、皆。今日はお客様をお連れしたよ〜」


 事も無げにレティシアは言うが、唯のお客様ではないのは一目瞭然である。

 すぐに立ち直って反応したのはマティスだ。


「国王陛下、王妃殿下お目にかかれて光栄です。モーリス商会研究開発室一同を代表してご挨拶申し上げます」


 と、特に緊張も見せずに挨拶するのは、流石の年の功と言ったところか。



(さすがマティス先生だね。……む、リディーと親方がジト目でこっちを見てるよ。キミたちはまだまだだね!)



 ……自分の事を棚に上げるレティシアであった。

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