第33話 モーリス商会研究開発部門


 モーリス商会の立ち上げから暫く経ち……もともとモーリス家出資の商会を通じて販売していたものに加えて、新たに開発した物も商材に扱っているので、売上は順調に伸びていった。

 それに伴って従業員も一気に増えて……またたく間に一端の商会へと成長した。



 そして、商会が軌道に乗ったのを機に……レティシアの本来の目的である鉄道関連の研究開発を行う部署を立ち上げることになった。


 場所は以前にレティシアが目をつけていたモーリス商会本店の地下室。

 既に様々な機材や事務用品を運び込んで、レティシアの指示通り配置されていた。


 メンバーは会長兼研究開発部門長のレティシア。

 特別顧問としてマティス。

 親方、ことマルクには工房から定期的に出向してもらって、試作品などの制作をお願いする。

 何れは正式な商会のメンバーとして迎える予定だ。

 その他、魔道具制作も同様に街の魔道具工房から人材を派遣してもらい、彼らについても何れは正式メンバーに雇う予定である。


 そして……








「リディーさん!!いらっしゃい!!」


「こんにちは、レティシア様。アデリーヌ様、はじめまして。私はリディーと申します。よろしくお願いします」


 レティシアとともに、これから鉄道関連の開発における中心的役割を果たすことになるであろうリディーがモーリス商会の一員となるべくやって来たので、迎えたところだ。

 正式な従業員としての採用になると言う事で、人事の責任者である副会長アデリーヌも同席している。


「リディーさん、私のことはレティでいいよ。それに、言葉遣いもそんなに畏まらなくても……こないだみたいに話してくれたほうが嬉しいな」


「それは……」


「あら、私のことを気にしているのかしら?レティが良いと言ってるなら、別に構わないわよ」


「は、はぁ……」


 そうは言われても、中々公爵夫人の前でその娘に対して砕けた調子で話すのは躊躇われるだろう。

 前回は話に夢中になって相手の身分などすっかり忘れてしまったのだが……



「あ〜……母さんの前では仕方がないか。まぁ、普段は前みたいに話してくれれば良いと思うよ」




(あらあら……随分と懐いてるのねぇ……。ふむ……平民と言えど将来有望な若者。娘もよく懐いている。年は少し離れてるみたいだけど……リュシアンとルシェーラちゃんよりは近そうね。後は身辺調査をしっかり……)


 二人のやり取りを見ていたアデリーヌは、そんなふうに内心で何やら画策するのであった……

















「さて、早速なんだけど……魔導力モーターの設計をイチから見直してみたんだ。リディーさん、確認してもらえないかな?」


 リディーを地下の研究開発室ラボに案内したレティシアは、時間を惜しむように話を切り出した。

 前回の意見交換によって洗い出された改善点を盛り込んで設計しなおしたのだが……彼女は一刻も早くリディーに見せたくてウズウズしていたのだ。


 その様子にリディーは苦笑しながら応えた。


「分かった、見せてもらうよ。……あぁ、そうだ。俺のことはリディーで良いぞ。俺だけ呼び捨てにするのもな……」


「うん、分かったよリディー!」


 特に躊躇うことなく、レティシアは親しげにリディーの名を呼ぶ。

 無邪気に笑顔を向ける彼女にリディーは、(もし妹がいたらこんな感じかな……)と思うのだった。



 気を取り直して、レティシアが再設計した魔導力モーターの図面を確認していく。


(相変わらず、とても8歳の少女が書いたものとは思えないな………うん、前回の改善点は網羅されてるようだ。これなら……)


「流石だな。これならもう試作品を作製してみても良いんじゃないか?」


「う〜ん……」


「?どうしたんだ?図面は完璧だと思うが……」


 リディーのお墨付きが得られたにもかかわらず、レティシアは眉間にしわを寄せて悩んでいる様子だ。

 一体どうしたのだとリディーは訝るが……


 そして、レティシアは躊躇いがちに口を開いた。


「今気付いたんだけど。この図面……これならきっと十分な出力が得られると思うのだけど……ちょっと耐久性が心配なんだよね」


「耐久性?」


「うん。ホラ、ここの回転軸……ここって高速で回転するから摩耗が激しくなると思うの」


「あぁ、なるほどな……だが、それは仕方ないんじゃないか?」


「ん〜……そうなんだけど……」


(ようするに、軸受にはベアリングみたいなものが必要なんだよね……オイルレスメタルとかあれば良いんだけど)


「うん。でも、取り敢えず試作品を作って試験してみればいっか」


 レティシアとて一回で完璧なものが出来るとは思っていない。

 これから何度もトライアンドエラーを繰り返して、最終的に実用に耐えうるものが出来れば良い。

 そのための研究開発部門なのだから。


 リディーと言う優秀な人材も得て、停滞していた鉄道開発はきっと前に進む。

 そう、レティシアは前向きに考えるのだった。

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