第16話:魔法操作
「ルナはこの箱庭のダンジョンは初めてなんだね?」
「えぇ。奴隷にされたのは二カ月前で、ザリオンに買われたのはその後だから……」
「分かった。じゃあ簡単に説明するね」
ここは箱庭の迷宮地下五階。
一階から四階までは普通の洞窟タイプのダンジョンだけど、ここ五階からはオープンフィールドと呼ばれる階層になる。
地上と何も変わらないように見えるダンジョン。
それがオープンフィールドだ。
「五階層は草原と小さな森が点在している。草原は見通しがいいから敵を発見したすいけど、それは向こうも同じこと」
「隠れる場所がないってことね」
「森はそれがある。だけどモンスターも同じように隠れているから、注意が必要だ」
まずは草原で狩をしよう。敵に見つかりやすいといっても、こっちは遠距離攻撃が可能だ。
対してこの階層のモンスターはグラスウルフとフラスホーン、あとはゴブリンファイターにゴブリンシーフの四種類。
四種類とも、近接攻撃しか出来ないモンスターだ。
「先制権はこっちにある」
「了解よ」
「おいにゃの出番……もしかいてないにゃか?」
「接近されたときはルナを守るんだ。いいな、にゃび」
にゃびは髭をピーンっと伸ばして、得意気にマントを翻した。
草原を少し進むと、ルナがしきりに耳を動かし始める。
聴力が優れている兎人だからこそか。
もしかするとルナにとってオープンフィールドは、相性がいいかもしれない。
「あっち。右手側」
ルナの声に反応してその方角を見ると、首元まで草に隠れたゴブリンの姿が見えていた。
「ゴブリンファイターだ」
「射るわ」
姿が見えなくても、あの剣のやや下を狙えば当たる。
彼女が矢を一本射ると、「ギャッ」という短い悲鳴が上がった。
「し、仕留められたかしら?」
「ゴブリンはだいたい複数で徘徊しているから、シーフがいるかもしれない。もう少し待ってみよう」
「にゃー、あっちに移動してるにゃにぇ」
「動き回ってるから狙いを定められないわ。正確な位置も分からないし」
そういう言っている間にゴブリンシーフが草むらから飛び出してきた。
「こっちだ!」
「ギャゴッ」
俺の声に反応したゴブリンシーフが、一瞬こっちを見て──そして切り裂かれた。
「にゃっほー!」
「よくやったぞにゃび」
ゴブリンシーフの注意を引きつけたのは、にゃびの攻撃を確実に当てるためだ。
「次、また来るわよ。今度は足音が違うから──これは狼ね」
「グラスウルフだ。動きが素早いから気を付けて」
「私の弓より、あんたの魔法の方がいいんじゃない!?」
「分かった」
草むらから飛び出したのは二匹のグラスウルフだ。
「"プチ・ファイア"」
「ガルルァァッ」
くそっ。やっぱり動きが早い。
まっすぐにしか飛ばせないプチ・ファイアじゃ当てるのは難しいな。
短剣に持ち帰るか?
「にゃー」
「にゃび!?」
にゃびが突然、グラスウルフに向かって飛び出した。
「にゃび!!」
腰の鞘から短剣を取り出し、駆け出す。
囮になるなんてダメだ!
グラスウルフがにゃびに飛び掛かる。
「"プチ・ファ──"」
「キャインッ」
「え?」
グラスウルフの方が先に傷を負った?
「風のマントにゃ! 今のうちにやるにゃよ」
「そうか! "プチ・ファイア"!」
「ギャインッ」
念のためもう一発!
「ギャオオォン──」
「キャインッ」
断末魔が聞こえたのと同時に、もう一匹の悲鳴が聞こえた。
ルナが射った矢が命中したようだ。
「お願い、止め!」
「"プチ・ファイア"!」
俺たち、なかなかいいパーティーになれそうだ。
だけど課題もある。
プチ・ファイアを真っ直ぐ飛ばすだけじゃダメだ。コントロールする方法でもあればいいんだけど。
「ふぅー、疲れたなぁ」
「でもそのおかげで、レベルが四つもあがったじゃない」
「上がったにゃ~」
二人のレベルは14に。俺は斥候のレベルを18から22まで上げた。
俺の方がレベルは高いのに、同じ上がり方をしたのは経験値増加の恩恵かな。
宿に戻ってからステータスとスキル振りを考える。
「ロイド、私のスキルだけど、『射速』と『標的認識』を5ずつ上げて欲しいんだけど」
「今日の狩りで必要性があるって思ったんだね」
「えぇ。故郷の森での狩りは、息をひそめて獲物が通るのをじっと待つやり方だったからそう難しくなかったんだけど」
でも冒険者としての狩りはそうじゃない。動き回るモンスターが相手だもんな。
彼女の希望通り、スキルはこの二つを上げて──ステータスは相変わらず筋力だ。
もう少し筋力を上げれば、威力の高い弓も扱えるからだって。
にゃびは──ん?
「にゃび……『魔法操作』なんてスキルが出てるんだけど、お前、魔法タイプじゃないよな?」
「にゃ~。ネコマタ族は人間でいう、斥候と魔術師のハイブリット職にゃ~。魔法操作は一定の魔力があれば覚えられるって、長老言ってたにゃねえ」
「い、一定の魔力?」
にゃびの魔力は──358か。
他にも『紅い月』なんていう、ちょっとカッコ良さそうなスキルが出ている。
二つのスキルの説明には──
【魔法操作】
遠距離発射系魔法を、スキルレベルに応じた時間だけ、自在に操れる。
魔力が350以上で獲得出来る。
【紅い月】
一定時間、物理攻撃力を高める。
筋力100以上、敏捷力400以上で獲得出来る。
二つの説明通り、にゃびの魔力は350を超えてるし、筋力と敏捷度も条件に合ってるな。
魔法操作、まさに俺が今日必要だと思った効果じゃないか!?
魔法ってやっぱり操作出来るんだな。
いや、そうだよ。ブレンダはやってなかったけど、俺を救ってくれたあの冒険者パーティーの魔術師はやってたもん。
ってことは、ブレンダの魔力は350以下なのかもしれない?
そうだ、俺の魔力は──226+160。346か……あと4かよ!
「どうしたの?」
「あ、うん……。今のままだとプチ・ファイアは真っ直ぐにしか飛ばせないんだけど、にゃびの新規スキルに出てきたこの『魔法操作』があれば、自由に動かせるみたいなんだ」
「確かに動きの速いモンスターが相手だと、真っ直ぐにしか飛ばせないのは大変よね。その気持ちはよく分かるわ」
矢も真っ直ぐにしか飛ばせないからなぁ。
「条件は魔力350……あと4じゃない!」
「うん。まぁ明日には上げられるんだけど、今すぐ欲しいとも思ってしまうからなぁ」
+4するのにステータス強化系スキルのレベルを2上げれば済む。
ポイントは十分あるけど、魔法操作スキルだって取らなきゃいけないんだしな。
スキルレベルに応じて一定時間っていうし、レベル1でどのくらいの時間、操作できるのか……。
「いいじゃない、2ポイントぐらい。あんたは五つも職業を変更出来るんだから、ポイント貯めやすいでしょ?」
「う、ん。まぁそうなんだけど」
ルナの職業は、やっぱり変更出来なかった。にゃびもだ。
それを考えれば、確かに俺は恵まれている。
「あ。五つって言ったけど、見習い冒険者も含めたら六つだったわね」
「見習いぼうけん──あ、そうか。それもあったのか」
すっかり忘れていた。
そういえば見習い冒険者にもレベルがあるんだったな。
ボードを手に入れた時レベル4だったんだし、その時既にステータスポイントとスキルポイントもあったんだ。見習い冒険者のレベルアップで稼ぐ事も出来るんだな。
まだレベル4。だとすればレベル上げも楽なはず。
よし。
「俺のスキルは決まった。にゃびはどうする?」
「おいにゃは──」
にゃびの希望も聞いて、俺たちのステータスはこうだ。
【名 前】ロイド
【年 齢】16歳
【種 族】人間
【職 業】見習い魔術師 レベル32 +
【筋 力】226+124
【体 力】226+124
【敏捷力】226+124
【集中力】226+124
【魔 力】226+124
【 運 】226+124
【ユニークスキル】
平均化
【習得スキル】
『プチバッシュ レベル1』『プチ忍び足 レベル10』『プチ鷹の目 レベル1』
『プチ・ヒール レベル1』『プチ・ファイア レベル10』
【獲得可能スキル一覧】+
【獲得スキル】
『筋力プチ強化 レベル10』『見習い職業時の獲得経験値増加 レベル5』
『魔力プチ強化 レベル12』『体力プチ強化 レベル10』『敏捷力プチ強化 レベル10』
『集中力プチ強化 レベル10』 『運プチ強化 レベル10』『プチ隠密 レベル10』
『魔法操作 レベル5』
【ステータスポイント】0
【スキルポイント】7
*******●パーティーメンバー*******
【名 前】ルナリア
【年 齢】16歳
【種 族】兎人
【職 業】弓手 レベル14
【筋 力】34
【体 力】34
【敏捷力】366
【集中力】366
【魔 力】26
【 運 】10
【習得スキル】
【獲得可能スキル一覧】+
【獲得スキル】
『射速 レベル5』『標的認識 レベル5』
【ステータスポイント】0
【スキルポイント】3
------------------------------
【名 前】にゃび
【年 齢】35歳
【種 族】ネコマタ
【職 業】ロイドの従魔レベル14
【筋 力】102
【体 力】69
【敏捷力】413
【集中力】49
【魔 力】358
【 運 】411
【習得スキル】
『月光の爪 レベル10』『夜目 レベル10上限』『忍び足 レベル10上限』
【獲得可能スキル一覧】+
【獲得スキル】
『風のマント レベル5』『紅い月 レベル5』
【ステータスポイント】0
【スキルポイント】9
魔法操作が見習い斥候のままだと出現しなかった。新しいスキルが発生する条件には、職業も関係しているんだろうな。
レベル5で操作可能な時間は15秒。明日さっそく試してみよう。
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