第9話:シャキーンでズバーン

「ルナにも、これが見える?」


 ステータスボードを呼び出し、彼女に尋ねた。

 ルナは宙に浮いたステータスボードをはっきり認識しているようだ。その目が文字を読んでいるように動いている。


「これ、なんなの?」

「ステータスボードって言うんだ。にゃびが教えてくれたんだけど、ダンジョンの最下層にはお宝部屋っていうのがあるらしく」

「あぁ、さっき話していた内容ね。それが、えぇっと……これ?」

「だと思う。部屋の中には台座があってさ、その上に石板があったんだ」


 石板に触れるとそれは俺の体の中へと吸収され、ステータスボードと言えば現れる。


「能力を数字化したものと、あとスキルを見ることが出来るんだ。ほらここ」

「こっちからだと文字が全部反対に見えるわ。そっちに行ってもいい?」

「あぁ、どうぞ」


 そう言ってから、俺は少しだけ緊張した。

 そっちっていうことは、つまり隣だ。

 ルナは俺の隣にやって来ると、ステータスボードを覗き込むようにして見つめた。

 だから俺との距離がなお近くなる。


 明るい小麦色の長い髪が、俺の手に甲にサラリと落ちた。

 特徴的な長い耳は、それよりも濃い栗色で、先端はこげ茶色、瞳は真っ赤だ。


 ルナは……とても綺麗な子だ。


「ちょっとあんたっ、ユニークスキルを持ってるじゃない!」

「え、あぁ、うん。持ってた、みたいなんだ」


 ユニークスキルなんて、ステータスボードを手に入れるまで知らなかった存在だけどね。


「うぅにゃ。むにゃ! にゃにゃっ」

「あ、にゃびを起こしちゃったか」

「ご、ごめんねにゃび、大きな声なんか出しちゃって」


 にゃびは慌てた様子できょろきょろすると、俺の方を見てとてとてとやって来た。

 胡坐をかいて座る俺の足の上にすとんと収まって、体を丸めて目を閉じる。


「あんたのこと、よっぽど気に入ったみたいね」

「従魔契約しているからだろ?」

「それだけかしら?」


 ゴロゴロと喉を鳴らす姿は、猫そのものだ。

 ごろんと寝返りをうって腹天に。

 

「あ、ねぇ。にゃびはパーティーに入れないの?」

「え……入れようかなと思うけど、今は寝ているしなぁ」


 そう言うと、にゃびがすぅーっと薄目を開く。


「にゃー、ロイド、パーティー組むにゃかぁ?」

「組めればいいなって思ってる」

「じゃー、組むにゃー」


 寝ぼけているようだな。でもまぁいいか。

 にゃびの手をに握ると、ステータスボードと文字が浮かぶ。

 はい──を選択。


「にゃー……にゃ!? んにゃにゃにゃにゃ!?」

「寝るんじゃなかったのかよ」

「んにゃにゃ、なんにゃこにゃあぁぁーっ!」






【名 前】ロイド

【年 齢】16歳

【種 族】人間

【職 業】見習い魔術師 レベル32 +


【筋 力】210+120

【体 力】210+120

【敏捷力】210+120

【集中力】210+120

【魔 力】210+120

【 運 】210+120


【ユニークスキル】

 平均化


【習得スキル】

『プチバッシュ レベル1』『プチ忍び足 レベル10』『プチ鷹の目 レベル1』

『プチ・ヒール レベル1』『プチ・ファイア レベル10』


【獲得可能スキル一覧】+


【獲得スキル】

『筋力プチ強化 レベル10』『見習い職業時の獲得経験値増加 レベル5』

『魔力プチ強化 レベル10』『体力プチ強化 レベル10』『敏捷力プチ強化 レベル10』

『集中力プチ強化 レベル10』 『運プチ強化 レベル10』『プチ隠密 レベル10』


【ステータスポイント】4

【スキルポイント】8



*******●パーティーメンバー*******


【名 前】ルナリア

【年 齢】16歳

【種 族】兎人

【職 業】無職 +


【筋 力】21

【体 力】34

【敏捷力】297

【集中力】300

【魔 力】26

【 運 】10


【習得スキル】


【ステータスポイント】0

【スキルポイント】0


------------------------------


【名 前】にゃび

【年 齢】35歳

【種 族】ネコマタ

【職 業】ロイドの従魔レベル1


【筋 力】75

【体 力】69

【敏捷力】385

【集中力】49

【魔 力】310

【 運 】398


【習得スキル】

『月光の爪 レベル2』『夜目 レベル10上限』『忍び足 レベル10上限』


【獲得可能スキル一覧】+


【ステータスポイント】14

【スキルポイント】14




 お、おぉ……ながっ!






「ルナはルナリアって名前だったのか。でもルナって呼んでもいい?」

「……く」

「にゃび……お前三十五歳なのか!?」

「にゃ~」

「む……むしょ……」

「中年のおっさんかよ」

「にゃ!? にゃびはまだ若いにゃ! 人間でいえばロイドと変わらないにゃよっ。人間の尺で測るのよくないにゃ」


 そんなものなのか?

 それにしてもルナはさっきから何を言って──


「むしょ、く……私、無職なの!?」

「あ、そこ?」


 確かにルナの職業欄には「無職」とある。

 荷物持ちとしてパーティーのリーダーに買われたって話だけど、荷物持ちは職業にカウントされないのかな?

 そういや俺も荷物持ちだったけど、職業は見習い冒険者だったもんな。それはギルドに登録してあるからだけど。


 でも──


「ルナ、見てごらん。無職って文字の横にマークがあるだろ?」

「うぅ、それがなんだってのよ」

「ここ触ってみてよ。そうしたら分かるから」

「触ればいいの?」


 渋々といった様子で、ルナがステータスボードに触れ──られない?


「ちょっと、触れないじゃない。これっで見えてるだけなの?」

「そんなはずは……」

「にゃー、これユニークアイテムにゃあねぇ」

「あ、うん。にゃびが言ってたお宝部屋のやつだと思う」

「にゃー、他の人には扱えないにゃ。お宝部屋のユニークアイテムはそういうものにゃから」


 俺にしか触れない、操作できないのか。

 じゃあ彼女の代りに「+」マークに触れた。


「お、『斥候』と『弓手』が出たのか。っていうか、見習いの文字がない」

「え、これどういうこと?」

「あぁ、転職可能な職業ってことさ。たぶんだけどね。俺も手探りだからさ、詳しいことは分からないんだ」


 ステータスに応じて、適正職業が出るんだろうな。

 ルナは敏捷と集中が突出している。だけど筋力や運は、俺がここに落ちた時の数値よりも低かった。

 にゃびは敏捷力と魔力、そして運が高い。敏捷力と運なんて、今の俺よりも上だ。

 こいつ、何気にスペック高いなぁ。


「転職って、教会でお金をたくさん払わないと出来ないんじゃないの?」

「うん。でもこのステータスボードで出来ちゃうんだよね。試しに職業を選んでみる?」

「え……選べるの?」

「あぁ。俺は見習い職業を、その時々で変えてるよ」


 そこまで言って思い出した。

 冒険者登録する際の講習で、見習い職業は簡単に変更出来た。

 それは見習いだからであって、ちゃんとした職業に就くと、転職は簡単にはいかない。


 もしステータスボードでも同じだったら……。


「ごめん。ルナは見習い職業じゃないから、どちらか選ぶと転職出来ないかもしれない。もし職業に就くなら、君が望む方を選んで欲しい」

「そ、そう……うん、でも大丈夫。私、元々弓が得意だから」

「じゃあ弓手でいい?」


 そう尋ねると、ルナは力強く頷いた。


 彼女の職業を『弓手』にセット。


「あ、職業欄が変わったわ!」

「無職卒業、おめでとう」

「もうっ。無職を卒業したからって嬉しくないわよ」

「にゃにゃっ。これなんにゃ? ステータスポイント? スキルポイント?」

「あぁ、それね」


 二人にステータスポイントとスキルポイントの説明をする。

 この二つはレベルが上がることで1ポイントずつ貰えることも説明した。

 ここでまたルナが唇を尖らせて不貞腐れる。

 彼女にはどちらのポイントも0だからだ。


「まぁ今職業に就いたばかりだし、仕方ないよ」

「にゃびはいいわね。ふーんだ」

「スキル! スキル強くしたいにゃ!」

「分かった。どれがいい? あ、獲得可能スキル欄もあるな」


 獲得可能スキル一覧に、敏捷度と運を増加させるものがある。

 他にもいくつかあったが、にゃびはもう決めているようだった。


「『月光の爪』!」

「それって攻撃スキルなのか?」

「にゃー。おいにゃの爪に風を乗せて、ズバーンって発射するにゃ」


 爪に風を乗せてズバーン?

 首を傾げると、にゃびが実演してくれた。


「シャキーンで、ズバーンにゃ」


 にゃびが爪を伸ばして腕を振るうと、三本の、まるで三日月のような刃が放たれた。

 

「おぉぉーっ」

「ふっふっにゃ」

「なるほど。それは威力を上げたくなるな。分かった。レベルいくつまで上げるか? ポイントは14あるぞ」

「にゃー」


 にゃびは俺のステータスを見つめ、「10!」と答えた。

 元々スキルレベルは2だったから、8ポイントだな。


「残り6ポイントだ。他のに振るか、新しいものを覚えるか、それともこのまま取っておくか」

「にゃぁ……ゆっくり考えたいから取っておくにゃ」

「ならそうしよう。さ、じゃあもう遅いから休もう。ルナもそれでいい?」

「いいも悪いも、私はポイントないんだもの。なんにもする必要ないでしょ」


 うぅん、拗ねちゃったか。


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