第43話


帰りの馬車はマイアも一緒だ。


予定通りではあったが、悪魔が現れたのでじいやさんは追加の護衛の兵士と一緒に後から来る事になった。


王宮の外に出ると、王室専用の馬車の扉をレオールさんが開け待っていた。


マイアの手を引いて馬車に乗り込むと「それではお母様行ってまいります」と挨拶を済ませる。


「ヴェルさん。この娘はこう見えても言い出したら聞かないから、ご迷惑をお掛けしますが宜しくお願いしますね」


王妃様がそう心配そうな顔をして耳打ちをする。


『はっはっは。こう見えても?言い出したら聞かないところしか見たことありませんぜ?奥さん。普通のお嬢さんは初対面で同棲を決めたりする事は無いのですよ』


この世界で出会った女性は見た目は美しい人ばかりだが、総じてみんな自我が強いような気がする。元々自己PRが苦手だったとされる日本人だったからこそ余計にそう思うのかも知れないが。


「マイアもワガママばかり言うと追い出されても文句は言えませんからね。そこだけは気を付けなさい」


「もちろんですわ。初日から出戻りなんて最悪ですもの。それではおやすみなさい」


「「おやすみなさい(ませ)」」


王妃様と護衛の兵士達に見送られながら、馬車は王宮から離れていった。


馬車が走り出すとマイアがやたらとくっ付いてくる。


『悪魔が急襲してきたから怖いのかな?それともジュリエッタがいないからか?自己PR?』


「今日の事をまだ引きずってる?」


「いえ、そうじゃありませんよ。わくわくが勝ってしまって、テンション上がりまくりです」


『はい、自己PRでした。もういいや考えたら負けだよこれ。もうそろそろ慣れなくちゃ、こっちの身が持たない』


「それにしてもヴェル。本当にカッコいいです。同じ歳なのに上級悪魔を倒せる程強いなんて、まるで英雄譚のお話のようですわ。今までも、さぞかしおもてになったでしょう」


「いや、マイアとジュリエッタだけだから。言い寄ってきたの…そもそもジュリエッタ以外同年代の知人ていなかったですしね」


「そうですわね。ヴェルとつりあいが取れる女性などそうそういませんわね。失礼をしました」


押しが強すぎるし、ちょっと先走り過ぎるなあ。思い込み激しいし。1つ言ったら2つも3つも考えるんだ、この娘は…


「それにしても、マイアはまだ9歳なのによく神託の儀を受ける気になったね」


「もうすぐ10歳になります。ジュリエッタも受けるのなら、私も受けないわけにはいきません。あっ、これは競争意識では無いです。勘違いしないでくださいね」


ちょっ、ちょっと疲れるよマイアさん。そう言いたいがマシンガントークは止まりそうも無い。じいやさん、早く帰ってきて助けてくれ。


それからもマシンガントークは屋敷に着くまで続いた。当然そうなると屋敷へ到着をする頃にはオレはぐったり疲れきっていた。おじさんはもう駄目だ。疲れちゃったよ~


屋敷に到着をすると、着替えを済ませたジュリエッタが待っているのが見えた。馬車が到着するとレリクさんが馬車の扉を開けてくれた。


「ただいま。あれ?お風呂はどうしたんだい?」


ジュリエッタを見てみると、着替えはしたものの、風呂に入った感が見受けられない。


「それがね。お湯を抜いちゃったから、またお湯を張りなおしているのよね」


「今日からお世話になります。よろしくどうぞ」


なんだか喋る度に、マイアのイメージが崩れていくような気がする。今までよほど自分に合う友達がいなかったのだろう。疲れるけど釘を刺すにはまだ早いか。


「そっか。それじゃ中に入りましょうか?」


「はい。これからお世話になります」


屋敷に入ると、ウォーレスさんとジュリエッタに今日陛下に話したを伝えると「悪魔が現れたとなると王宮とはいえ安全ではないからな。姫様が来るのは想定内だったよ」さすが閣下。察しがいい。っていうか読みすぎだろ。


それから、ジュリエッタは陛下の会合の内容を聞いて終始驚いた顔をしていたが、王室典範に書かれている勇者や魔王の話になると険しい顔になった。


「こんなときに言い難いんだが、王都での自分の役目は終ったので二日後の朝に私達は一度ジェントの町へ戻る。そろそろ自領に戻らないとエリザベートがうるさいし、まだウェールズが生まれてから、まだ1日しか会ってないんだ。父親らしい事をしなくちゃね」


ウォーレスさんは、苦笑いをしてそう言うが、育休なんてない世界だからな。父親も大変だよね。


「この数か月間、ずっと王都に呼ばれてばかりだもの。仕方がないわよ」


「娘がそう言って父親の仕事を理解してくれて助かるよ。また仕事が落ち着いたら、ヴェル君の家族と一緒にみんなで来るよ。それまで寂しい思いをさせるが、しっかりもののヴェル君がいれば大丈夫だろう。娘達を任せる。がんばるんだぞ」


「はい。寂しくなりますが楽しくやっていけそうです。お任せ下さい」


『中身はおっさんだからな。子供の面倒ぐらいは見れる筈…だよな』


二人が頬を染めて微笑む姿を見ると少しだけ自信が揺らぐ。振り回されないように気を付けないとな。


部屋着に着替えるために客室に戻ると、スラすけに水をやる。まるで花に水をやる感覚だ。


「ほ~ら。よく飲むんだぞ~」


スラすけはぴょんぴょん跳ねる。なんだか癒される。


部屋着に着替えるとノックをする音が鳴った。誰かはなんとなく予想できるけど、いきなりドアを開けれれるよりましだな。


「ど~ぞ」と返事をすると、二人が「へへへ。来ちゃった~」とにやつきながらやって来た。予想どおりだよ。なぜにやけているのか分からないけど嫌な予感がする。


「どうしたんだい?二人揃って」


「今日はあんな事あったし怖くて…だから別部屋に移って。この部屋じゃ三人寝られないからね」


「えっ、三人で寝るなんてむ、あちゃ~っ」


無理だと言いかけると。再びお尻を抓られる。もうそろそろ学習しようぜ!オレもよっ!


そんな痛い目にあいながら、スラすけを連れて部屋を移動する。


「へ~ これが清流スライムでリンシャンの源になるのね。かわいいい~。ちょっと触ってもいいでしょうか?」


「かまわないよ。ちなみに名前はスラすけって言うんだ。呼ぶならそう呼んであげて」


「名前もプリティーね。これからも色々な意味でヨロシクねっ。スラすけ」


マイアがそう声を掛けると、すらすけはぴょんぴょん跳ねる。言葉が通じるわけないのにな。


スラすけを構っていると、メイドさんが「皆様、お風呂の用意が出来てございます」と伝えに来た。


「それじゃ、お風呂に入ってこようか?」


ジュリエッタがそう言うと、マイアが頷く。


「ごゆっくりど~ぞ」


二人が風呂に向ったので、自分も風呂の用意をして、二人が風呂から上がるまでホールで待機していると、じいやさんが兵士を連れて戻ってきた。


「お疲れ様です。マイアは今入浴中です」


「申し訳ございません。姫様は私が居ないとタガが外れるので大変だったでしょう」


「ああ、やっぱりですか。じいやさんが抑止力になっているんですね」


俺が苦笑いしていると、じいやさんは察してため息を吐く。


「幼い時から私の様な老人といた為か、子供らしさを失われまして不憫な思いをさせました。同じ歳で会話の合う子供などいませんでしたから。しかしながら姫様は自分と同じ、いや自分以上のあなた方お二人に出会ったのです。まさに姫様にとって突然の僥倖。それが嬉しくて仕方が無いのでしょう。これからも姫様の事を宜しくお願いします」


なんだか最後はしんみりしてしまったが、ジュリエッタもそんな自分に惹かれたとも言っていたな。これも何かの縁だろう。


着替えをマイアに届けると、二人はドライヤーで乾かしあっていた。仲良し姉妹を見ているようで、なんだか微笑ましい。


「マイア、じいやさんが着替えを持ってきてくれたから、ここにおいて置くよ」


「使ってしまって申し訳ないです」


「いいんだよ。それじゃ僕はホールでじいやさんと一緒に、お茶してるからごゆっくり」


二人が脱衣所から出くると、飲み物を飲んだ後に風呂に入り、寝る準備をするために一緒に歯を磨いて寝室へと向った。


新しい部屋に案内されると、扉の前には王宮から派兵された先ほど挨拶を交わした護衛の兵士がいた。


部屋に入るとベッドはくっつけられていた。


「やれやれ。やっぱりこうなったか」


そう小声で言ったが、その声は届かなかった。届いてもイチャモンつけられるだけだけど。


「マイア、陛下が使える嘘を見破れるスキルに挑戦してみようか。いきなり魔法なんて使ったら大惨事になるからね」


「実は私お二人に黙っていた事があるのです」


「んっ?何?」


「実は私の瞬間記憶能力はスキルのようなんです。だから、黙っていてごめんなさい」


ああ、やっぱりそうだったのか。それから瞬間記憶能力について、スキルに目覚めてから今までの経緯を一通り聞いてみた。まあなんというか。ここまで都合がいいと偶然で片付けていいものか考えちゃうな。


「それじゃ、寝る前に本を気絶するまで読んでいたのかい?」


「ええ。一気に読む感じではなく、物語をゆっくり読みながらです。文字は頭には入りますが、そうでもしないと物語を楽しめないので」


「確かに楽しめないと飽きるし、作業のようになってしまうわね」


「そうなんです。理解していただけて嬉しいです」


「それじゃさ。魔法は試した事はあるかい?」


「魔法陣は頭の中に入っていますが、魔力操作の鍛錬が始まったばかりなので魔法が使えるかどうかは試していません。うっかり上級魔法を成功して大騒ぎになったら困りますから」


「確かにね。それじゃ今日は魔力を使いながら、マイアに何か本を読んで貰おうかな」


「はい。お任せ下さい」


そんなわけで、三人でベッドに入る。とは言っても、お子様同士だから興奮もしないし何もしないけどね。


「本当に楽しいです。何をするにも3人一緒って」


「本当ね。これが毎日続くと思うと最高ね」


「そうするには、勇者を探し出して、これから現れる魔王を倒す手伝いをしなくちゃね。力を合わせてがんばろうじゃないか」


「そうですね。魔王なんかにこの素晴らしい生活を取り上げられてなるものですか」


「うん。魔王が現れるまで、あと最低でもあと5年。鍛錬して備えましょう」


マイアが読み聞かせをするように英雄譚を読む。さすが、毎日読んでいるだけあって吟遊詩人のように物語を読むのが上手かった。

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