第42話

陛下とマーレさんは今日の事について喋っていたようだ。執務室に入ったとたん【悪魔】と言う単語が耳に入る。


「陛下、お待たせを致しました」


「そこまで待っていないから気にする必要は無いよ。二人ともそのこソファーに掛けるがよい」


一礼をして腰掛けると、陛下とマーレさんも目の前に腰掛を下ろした。


「さてと、それで余らが去った後何があった?簡単でいいから顛末を教えて欲しい」


経緯を話すとなると俺がスキルを使えることが前提となるので、そこから理解してもらわないと話が進まない。重力という概念がこの世界には無いから、闇属性って事で説明するしかない。氷魔法も使えるけど、今話すと混乱しそうなので余計な話はしないでおく。


「先にお伝えしなければならないことがあります。まず見ていただけますか?」


「ふむ。いいだろう」


百聞は一見に如かずとばかりに、魔力を手に流して「ライティング」と詠唱し手に丸い光りを灯すと陛下とマーレさんは驚愕する。


「なんと!これは驚いた。光属性には魔法は存在しない。まさかその歳でスキルを使えるのか?」


それから、魔力操作をしながら光の強弱をつけると、3人は信じられないものを見たような顔をする。


「魔力操作も完璧だ。兵士が太陽の光を見たと言っていたが、それがその正体か?魔道具の光の魔石が暴走したのだと思っていたが」


『魔道具か。その手で誤魔化す手があったか』


「はい。上級悪魔に使った光属性スキルは光量を最大まで上げたもので閃光と名付けました。閃光を使えばいくら悪魔といえども、暫く目は使い物にはなりません」


「人間の目には影響は無いのか?」


「検証しましたが失明をする事はありません。治癒スキルで治る事も野盗相手にですが実証済みでした」


「なるほど、それでは、ヴェルは上級悪魔に対しその閃光で目潰しを使った。それで悪魔が怯んだところを攻撃、悪魔が倒れたところをジュリエッタがトドメをさした。その流れで良いな」


「はい。大筋はそんなところです」


「それではもう一つ問うが、ヴェルが使えるスキルは光属性だけなのか?」


「いえ。闇属性スキルも使えます。体を軽くしたり重くしたり出来る程度ですが。なぜ光属性と闇属性のスキルが使えるのかは理由は自分なりに調べましたが、さっぱりわかりません。ただ、光属性と闇属性スキルが使えるからと言っても、勇者の資質があるかと言えばそれはありません」


そう答えると3人の顔が固まる。光属性と闇属性は勇者だけが使えた属性スキルと知っている様だが、どれもこれも英雄譚や御伽噺の世界の話なので信憑性は薄いんじゃないかな。


なんとなくだが、スキルとは大まかな括りで原理さえ理解していれば使える気がするんだよね。勿論、資質は関係はあるのだろうが…じゃなければ、氷魔法や重力魔法が簡単に使えれるわけがない。


鑑定スキルの事は聞かれていないので黙っておく。嘘はついていないので大丈夫だろう。


「勇者ではない?なぜ自分がそうでは無いとなぜ言い切れる。上級悪魔が現れたのだ。魔王が誕生して勇者が生まれてもおかしく無い」


「それは僕が勇者の使えるスキルを全てを使えるわけではないからです。本に載っていた魔法やスキルを全てを試しましたが、使えたのはこの光属性と闇属性だけなのです。たまたまじゃないでしょうか?」


「むむむむ…そうか。ヴェル、もしかしてジュリエッタもスキルを使えるのか?」


「ご賢察痛み入ります」


「あ~、やはり。血統的に治癒スキルか」


「ええ。話が早くて、とても助かります」


「分かった。ではこうしよう。ヴェルは神託の儀は知っておるな」


「もちろん知っています」


「今年は、まだ終ったばかりだから、来年の春になるがジュリエッタと一緒に受けてみよ。手筈は全てワシに任せておけ」


陛下はそう言うと胸を叩く。勇者、聖女、賢者、それに聖属性スキル。王族と教会には深い繋がりがあるのだろう。


「神託の儀を受けるのは本来ならば15歳。来年だとしても4年も前倒しですよ?」


「うむ。本来は今からでも行って貰いたいが、神は、神託の儀の日にしか地上に降りてこられない。過去の文献でも才ある者が現れると試しに行ったみたいだが、上手くいった試がないそうだ」


『試した事があるんかい!しかも何度も』


「過去に神託が降りなかったのは、魔王が現れていなかったからって可能性は高からと仰りたいのですね」


「そう言う事だ。来年の4月になったら、神託の儀を受けて貰うぞ。悪魔が現れた以上、ここで手をこまねいていても仕方が無い。やれる事はやろう。これは王命だ」


「失敗しても怒らないでくださいよ」


陛下は結果に期待してるみたいだけどプレッシャーが凄く圧し掛かる。


「ひょっとしたら、神託の儀を受ければ、私もスキルを使えるのかも知れないのですよね?」


「確実とは言えないけど、おそらく」


そう答えるとマイアは目を輝かせる。賢者の血筋ならば、ぶっ飛んで神託が降りる可能性は大だ。


「今日から私もヴェル達と一緒に過ごすことになっています。だから私にも神託の儀を受けさせて下さい」


「無論そのつもりだ。この流れだからな」


「今日悪魔が現れて、僕が狙われたんだよ?暫くは安全の為に王宮で過ごした方がいんじゃないかな?」


「逆です。一緒にいた方が頼りになりますし、安心できます」


あ~やっぱりこうなるか。でもこれで今日の話は終わりかな、と思っていると、陛下が口を開く。


「ヴェル。お主は勇者と魔王の事をどれだけ知っておる」


「文献を色々調べてみたのですが、どれも御伽噺のような話ばかりで詳しくは存じません」


「そうか。それでは王室典範に書いてある500年前の話を簡単にしようか」


陛下の話を要約すると、約500年前、魔王が突如現れて魔物を従え世界へ侵攻した。どの場所に現れたのかは未だ特定は出来ていないが、この国(ゼネスト王国)は魔王に乗っ取られ亡国となった。


各国で騎士、兵士、上位ランクの冒険者を中心とした軍を立ち上げて各国は奮闘したが、魔王軍の絶大なる魔物の力と数の暴力の前に抗う術も無く次々と軍は敗れ去る。


各国は国の存亡の危機を回避するため、防衛ラインに各国の強者を結集して連合軍を作り魔王軍と戦った。


しかし、魔王軍は無限に湧く魔物に手を焼き、一進一退の攻防を繰り広げて、今この国に位置していたゼネスト王国は魔王軍の手に落ちると、今のアーレン王国に位置していたグリフ公国もまた半年も持たずに魔王軍に落とされた。


魔王は、ゼネスト王国の迷宮都市付近(現迷宮都市ラロッカ)に、魔王城を築城。連合軍の戦士たちは老若男女問わず倒れ、多くの命が儚く散った。神聖国ヴァリスタの教皇達は神に祈りを捧げると、神様が降臨し勇者カミュラ、聖女ユリファ、賢者セリヌに神託を降ろした。


余談らしいが、この年より、魔王軍がいなくても魔物と戦う為に15歳になると神託の儀が執り行われる切っ掛けとなったそうだ。


勇者パーティは、魔物を使役する4天王と呼ばれる悪魔を次々と倒して行き、ついには魔王城に辿り着き魔王を倒し平和をもたらしたと言う。


なるほど。本当に王道の物語の様な話だが、勇者の血筋がどこに行ったのかは王族をもってしても知らないそうだ。


「なぜ魔王軍はこの大陸の中央に位置する国に攻め込んだのでしょうか?」


「この大陸の中央には竜脈が流れているのだよ。大陸の分断を狙ったとも言われておるが」


「なるほど。大陸の中央を分断すれば連合軍を結成しにくくなると踏んだんでしょうね。それに竜脈ですか?」


「そうだ。専門家や研究科ではないし地中を掘って確かめたわけではないので確証は無いが、竜脈とは魔素の元となる液体が流れる川のようなものだとされている。魔物は魔素から生まれ、魔素をエサとしてる。だから、魔王軍は効率よく魔物を得る為に、竜脈が流れるこの大陸の二国を狙ったのだろうと言うのが、後世の歴史研究者が出した見解だ」


「それにしては、この国の魔物との遭遇率は低くありませんか?」


「そんな事はない。結界石があるからそう思うだけだよ。平原でも魔素が溜まる場所から魔物は生まれる。ただそんな場所に町や村を建設をするなど馬鹿げた事はしないし、人類が魔素を魔力として使えば魔物を産みだす魔素は薄くなる」


『なるほど。魔物はどの地域でもポップするけど、魔素が薄い地域では魔物が現れにくいし、それほど強力な魔物が現れないは人類が空気中に含まれる魔素を魔力として消費するからって理由があったんだな』


「ところで、その魔王城はいまでもあるんですか?」


そう聞くと、陛下達は苦笑い。さすがにそれは無いか。


「魔王城は、500年前に解体されて今は更地になっておる。元は迷宮都市ラロッカはアーレン王国の領地だったが、アーレン王国が管理をするには手が余り、リスクを軽減するために過去の話し合いで、今はレディアス王国に組み込まれているんだ。だから迷宮都市ラロッカに行けば行くほど魔物も強くAランク迷宮もある」


「Aランク迷宮よりも高い迷宮はこの国には無いのですか?」


「この国の竜脈の通る川は深層が深いのか、Aランク迷宮までしか無い。隣国のアーレン王国にはSランク迷宮が2つあるのだがな。今はそれえほど仲が良いとは言えないが冒険者は自由に出入りは出来るよ」


「そうですか。話を戻しますが今日の事はどう国民に知らせるおつもりなのでしょうか?」


「そうだな。今回の件の詳細は他言無用とする予定だ。またいつ災いがヴェル達に降りかかるとも限らんからな」


「それでしたら、出来たら上級悪魔と相打ちと国内外に知らせていただければと思います。幸い僕の名前や顔は、市井には知れ渡ってはいないので」


「なるほど。この国に現れた英雄は上級悪魔と戦って刺し違えたと触れ回るようにしよう」


「ご理解していただいてありがとうございます」


「それと最後にだが。そなた達に剣術を教える者を早急に用意しよう。勇者出現の可能性がある以上は、剣の腕や魔法の力を上げておいた方が事は有利に進むだろうからな」


「勇者や英雄など僕には荷が勝ちすぎです。そこの所は忘れて下さい」


「ふはは、そうだな。ヴェルと喋っていると、子供相手に喋っている感覚を忘れる。プレッシャーを掛けてすまないな」


今回上級悪魔が現れたことが魔王復活のフラグだとしたら平穏な日々が終わるかもしれない。となるとこれから勇者やそれこそ本物の英雄と呼ばれる者達が現れるはずだ。


世界を俺が守るなんて責任が重すぎるし、自惚れもない。出来たとしてもせいぜい、勇者達を助ける歯車のひとつ程度だろう。


せめて自分が大切に思う人達を助ける為に、知恵や力をつけておかなければならない。オレは出来る事をするだけだ。


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