第15話
あくる日…
目が覚めるとジュリエッタが隣でスースーと気持ちよさそうに寝息を立てて寝ている。こうしてみるとかわいいし美人でもある。将来が非常に楽しみだ。
源氏物語を思い出すなあ。幼女を手塩をかけて自分好みにするというあれだ。まああそこまで女性に対し節操が無いのはいかがなものかと思うけどな。若干、偏見が入っていると思うけど。
少し思考が逸れた。とりあえず気持ち良さそうに隣で眠るジュリエッタを残して部屋を出る。
顔を洗いに水場へと向うと、洗いたてのシーツを持った母とバッタリ鉢合わせた。
「あら。ヴェルおはよう。ジュリエッタさんは?」
「おはようございます。ジュリエッタならまだ気持ち良さそうに寝ていますよ」
『やべ。これじゃ今まで一緒に寝ていたのがバレバレじゃないか!』
慌てていい訳を考えるが、母は驚くどころか微笑ましく笑う。
「そっか~。慣れない屋敷で寂しいから一緒に寝てあげたんだ。本にしか興味を示さなかったヴェルにしては良く気が利くじゃないの」
あれ?杞憂?もしかしてこんなことを気にしてるのは俺のオッサン部分だけ?それはそれで自意識過剰な痛い人みたいで恥ずかしいじゃないか。
「そろそろ朝食の準備が出来るわ。顔を洗ったら優しく起こしてあげなさい」
母はそう言って外に出ていくと安堵のため息を吐く。
顔を洗い歯を磨くのを止めて、お母様に言われたようにジュリエッタを起こしたから一緒にいこうか…部屋に引き返す。
「ジュリエッタ。もう朝だよ。ごはんが出来たから起きて」
「うっ、う~ん。もう朝なの?」
「そうだよ。今日もいい天気だよ。ほら、顔を洗いに一緒に行こう」
「うん。今起きるから待って」
ジュリエッタは、ブラシで髪の毛を梳かすと紐でポニーテールを作った。初めてポニー姿を見るけどこれもいいなって、中身がおっさんだけにこれじゃ変態じゃないか。
水場で身支度を整え、さすがに11歳とはいえレディの着替えるのを見てるわけにはいかないので、侍女のテーゼにバトンタッチ。
朝食を食べてからは勉強をした。ジュリエッタの算術や語学の理解度は既に11歳だとは思えないほどに深まっている。
天才っていうか早熟というか、学校に行ってみんなと一緒に学ぶよりも家庭教師を付けて学んだ方が頭が良くなるのかな…これじゃ教育格差が生まれて当然だよな。
昼過ぎからはジュリエッタはドレス姿から軽装にチェンジ。レリクさんに教わった剣術の稽古をする。剣道を嗜んでいただけにバレないように表向きだけだけどね。
余談だけど、なんでも伯爵家では女の子でも8歳から護身の為と、学園に入学した時の為に剣術を習い始めるそうだ。
庭に出ると屋敷の周りを外周してから、ジュリエッタが木剣を持ち素振りを始めたので自分も見よう見まねで横に並ぶ。
それから体幹トレーニングを幾つかやって今日の鍛錬を終えた。
ベンチに置いたタオルをジュリエッタに渡して、一緒に汗を拭ってからスポーツドリンクを飲み干す。一人で鍛錬をするよりも楽しいものだ。
良く考えて重力スキルの事をジュリエッタにカミングアウトする事にした。専属騎士になるって決めたので、隠し続けるとバレた時にマズいと思うんだ。
布団に入いると「実はさ、ジュリエッタに隠していた事があるんだ」と、カミングアウトをし始める。
「えっっ!まさか好きな人がいるとか!」
ジュリエッタの顔が笑ってない。まてまて。俺はぼっちだと話したはずだぞ。てか、最初にそこ?
「そんなわけないってば。実は光属性以外に、重力スキル、鑑定スキル持ちなんだ。鑑定はそこまで詳しくは見れないけどね」
そう答えると、ジュリエッタは驚いた後に何かを思いつめた顔をした。
「やっぱ驚くよね~」
「それに鑑定って…商人にでもなる気?それに重力スキルってなに?初めて聞く単語だけど」
「一代限りの下級貴族の子倅だけど、商人になる気はないってば。今日は遅いからまた明日以降に重力スキルを見せるよ」
「重力が何なのかは分からないから、そこから教えて欲しいかな」
『そっか…考えてみれば重力の概念が無いか、或いは学園で習うのか分からないがそこから始めなきゃ駄目なのか。これからは迂闊に言葉に出すのは止めておくべきだな』
「じゃ、寝る前にでも簡単に説明するよ」
そんな約束をして、夜る寝る前も昨日と同じく素知らぬ顔でオレの寝室にやってきたジュリエッタ。
重力について、物を落として引力が証明された事や、大きな括りで万有引力、ベクトルを使い遠心力について簡単に説明をした。
「ほんと、ヴェルって教えるのも上手だし物知りね」
中身がおっさんだからね。そこまで詳しくは知らないけど概要ぐらいは話せるよ。物理に関しても言いたいけど言えない辛さを分かって欲しい。
次の日も、午後から剣術の鍛錬だ。終わってベンチで休憩をしていると、ジュリエッタが「ヴェル。昨日言ってた重力スキルを見せてくれないかな?」と、言い出した。
「いいけど、参考にならないかもしれないよ」
と答えると、それでも見たいと言うので、バフを掛けて蜻蛉の構えから袈裟斬りで剣を振ると同時に木剣に重力を掛けて立ち木(丸太を杭にした物)を打つと、地中深く埋めた立木が折れてジュリエッタは驚いている。
薩摩藩の示現流という古流剣術で、初太刀【一撃必殺】を目的にした剣術だな。
「凄すぎてどう表現したらいいのか分かんないわ。剣速も凄いけど、木剣で丸太が折れるなんてそりゃブラッドグレズリも一刀両断出来るはずだわ」
『もう丸太でいいや…』
「だよね。この重力スキルを使いこなせるようになってからさ、自分でもこの威力には驚いているよ」
「まるで御伽噺で出てくる勇者みたいね。これは上級貴族しか知らない事なんだけど、この国には昔魔王を倒した勇者、聖女、賢者の末裔がいるらしいわよ」
「おっ、そこんとこ是非詳しく!」
「勇者と魔王の戦いは500年以上前の出来事なのよ。文献も残っていないから私が知っているのは御伽噺として伝わっている程度…それが詳しくわかるのなら考古学者はいらないし誰も苦労をしないわよ」
伝説か伝承か、もしくは国に箔を付けるための捏造か。これだけじゃわからないな。
なので、自然の流れで重力スキルの研究する事になる。今現在分かっているのは、バフの効果時間は約3分…ウル〇ラマンかよ。と当時ツッコんだ記憶がある。
まあ、3分でも、ジュリエッタにバフが掛けられれば、間違えなく生存率も上がるし、何れ結成するであろうパーティメンバーの戦力アップは間違いない。
幸いにして初めに当たりがきたようで何パターンも試しているうちにバフやデバフを付与する方法を見つけた。
強化したい部位に魔力を纏った状態を保持し、そこに力上昇のバフをかける。そうすると上手いこと効果が出るようだ。
「凄いじゃないか。力上昇のバフを味方全員に掛けられれば、ほぼ無敵じゃないのか?」
「そうとも言い切れないかも。このスキル凄く燃費が悪いわ。魔力が一気に吸い取られる気がする」
幼い頃から気絶するまで魔力を使い切っていたから気付かなかったが、魔力が大量に消費されるようだ。魔力が充分でないと使えないなんて随分とピーキーな感じだな。
それでも、重力スキルを軽く維持したまま、一気に魔力を開放すれば必殺技となるだろう。試行錯誤に付き合ってくれたジュリエッタにはマジで感謝しかない。
ジュリエッタが来てからは楽しくも平穏な日々が続く。幸い母にも発症の予兆は無く、屋敷はコレラのコの字も感じさせないぐらい平和だった。
□ ■ □ ■ □ ■
それから2ヵ月後…俺も10歳となって、コレラは俺が予測をしていた3ヶ月を待たずに瞬く間に収束した。今日の朝早く厳戒令も解除されるそうだ。
もちろん母もテーゼも無事だ。思わず日本語で「やったぜオレ!!これで全部が自分の書いた小説に依存しているわけじゃないことが分かった!!」と叫ぶ。
それに鍛錬もデバフというか体に負荷を掛けて鍛錬したため、ジュリエッタの力、体力、持久力、俊敏力の数値に現れない基礎値が目に見えて上がって行く。ステータスぽいものがあるなら見てみたら、おそらく大人顔負けなぐらいに…
『ジュリエッタはかわいい女の子だし貴族令嬢、未来の聖女だよ?いいのかこれで…』
まっ、最悪の場合は責任は取ると決めたし、大きな達成感に溢れ朝食を食べていると、窓に白い鳩が来た。伝書鳩のようだ。
鳩の足に括られた手紙を母が読むと、明日の朝に伯爵閣下の使いの者がジュリエッタを迎えにくると書いてあった。
父と伯爵閣下は残務処理で二、三日後に帰ってくるそうだけどジュリエッタの母が実家から一足早く赤ちゃんを連れて戻ってくるらしい。
なので今日はちょっとしたお別れ会をする事になった。
食事が始まるとジュリエッタが立ち上がり挨拶をする。
「皆さん。この2ヶ月の間、良くしていただいて、ありがとうございました。ご恩は忘れません」
「何言ってるのよ。ヴェルの遊び相手になってくれて、お礼を言うのはこちらの方ですよ」
「は~、今日で皆さんと一緒に生活するのが終ると思うと寂しいものね」
「弟が出来たんだ。寂しい気持ちなんて一瞬で忘れるって」
「それとこれとは別なの。ヴェルもまだまだね、女心が分かってないわね」
母がそう茶化すとジュリエッタは頬を赤く染めて頷いた。
「自分の子供に何を言わせたいんですか」
ジロリと母に目をやる。ふんっ、女心なんて知らんわ。今の俺は10歳だ!断じて前世で彼女が居なかったからでは無いからな。
『そう思えば思うほど虚しいのはなぜ…』
食事を終え、入浴(体を拭くだけ)を済ませると就寝時間になった。
布団に入ると、ジュリエッタが真顔でこちらを見る。
「さっき、ヴェルのお母様が言ったとおり、ヴェルは女心を少し勉強して欲しいかな?」
「勉強って。そんな方法があるならとっくにやってるよ」
「あの時、僕もジュリエッタが居なくなると思うと、寂しいとかって言って欲しかったな」
「みんなの居る前でそんなの言えるわけないじゃないか」
「それは本当は、私がいなくなると寂しいってこと?」
「そうだね。寂しいと思うけどね。まだこうして隣にいるから実感ないや」
「うふふふ。そうね。でもそう思ってくれるなら許してあげる」
何を許すのかは理解出来ないが、取り敢えず言葉の選択は間違っていなかったようだ。
「ヴェル。この2ヶ月間本当に楽しかったわ。ありがとね」
ジュリエッタはそう言うと、不意打ちで目を閉じてオレの頬に軽くキスをした。思いがけないキスに時が止まった感じがして茫然となる。
「言っとくけど、男の人にこんな事をするのは初めてなんだから。じゃ、おやすみ!」
ジュリエッタはそう言うと布団にもぐった。可愛すぎんだろ。やばい…本気で惚れそうだ。
心臓がドキドキと鼓動が大きく感じる。顔が赤いのがばれないように電気を消して布団に入った。こうでもしないと興奮が冷めそうもない。子供に翻弄されるとは、おっさんなのに情けない。
日本にいた時の、おっさんの記憶と常識が色んな意味で邪魔をする。記憶を取り戻すのが今だったら…いやよそう。タラレバなんて考えても時間の無駄だしな。それに、今までの自分のしてきた行動を全て否定する事になる。
それに、ジュリエッタと出会う前までは、心と体のバランスが取れていない無いと思っていたが、最近何だか整合されてきた?馴染んできたと言うべきか。目線の高さが同じだから違和感が薄れて来た感じがする。
『じゃなかったら、ただのロリコン犯罪者だよな』
考えても何も答えは出ないので、日課となった魔力消費を流し始めると瞬く間に気が遠くなり眠りに落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます