第4話
決意の日から3年の月日が経った。
小説なら赤ちゃんから3歳になるまでの話など、1話~2話程度で済むのだが、実際に体験してみると恐ろしいほど時の経つ時間が長い。おまけに乳幼児目線では住んでいる屋敷はアホかと思うぐらい広いんだ。
3歳になると、若干だが親や従者達から手が離れたので、屋敷にある書庫へとこっそり入りってみた。
ちなみに文字と言えば、母親が寝る前に読み聞かせをしてくれたお陰で、この世界の文字の読み書きは出来る様になっていた。思考能力はアラフィフだからな。
もっとも、そこのところは隠していたので備忘録的なメモは日本語で書いている。一度書庫で寝落ちしている時に書いた物が見つかってしまったが、子供の落書きと言うことで落ち着いた。
そんなわけで従者達に神童だと持てはやされたが、そんな事で自惚れやしない。なんせ日本で教育を受けてきたのだ。出来て当然だ。
この書庫…書いた俺が言うのもあれだが、かなりの本の量があった。知識は力なり、ペンは剣より強しなど名言のあるとおり知識は重要となると思ったから物語にそう書いたんだ。
主人公には高い知力を求めた訳ではなかったがこうなると、書いてよかったと思う。
色々と本を手に取って見てみたが、本が沢山あると言っても子供向けの本ばかりで、まるで教育関連の本を避けたようなラインナップに落胆。
それこそ英雄譚、恋愛小説、料理本など世俗的なほんばかりで、内容もそれなりに見たけど人族中心の本ばかりで、エルフや獣人といった亜人について詳しく書かれている書物は皆無。
『それでも手の届かない場所の本もあるし得る物もあるだろう…盗人じゃあるまいし、こっそりとではなくて堂々と書庫に入れるようにしておきたいな』
そんな訳で作戦を考えた結果、突然と反抗期が来たように駄々をこねたり悪戯し放題。書庫に入ると大人しくなるという演技をする。大人気ないけど、中身はおっさん体は子供…許して欲しい。
数日後日…目論見通り書庫に自由に入れる許可が出るようになった…少し本が減ったような気がするがまさか官能小説…まさかな…
「なぁヴェル、なぜおまえは、大人の読む本を読もうとするんだ?」
「紙とインクの匂いが好きだからです。ページを捲る度にその匂いに癒されます」
「親がこう言うのもなんだが、本当にヴェルは変わった子供だな」
…紙とインクの匂いが好きな3歳児だぞ?ライナスの毛布?いや、もはや変態かフェチかってレベルだろ。
教育関連の本がないのか両親に聞いてみると、教科書類は家庭教師や学園に入ってから学ぶものだから無いのだとの事。日本でも学校を卒業してから教科書を本棚に保管している家庭が無いのと同じってことみたいだな…
余談だが、ずっと気になっていた聖女と聖騎士の事について調べたが、英雄譚で聖女は出てきても聖騎士の事はまるで情報は無い。所詮は子供用の絵本のようなものだかだろう。
手に届く範囲での本を参考にして紙に纏めてみると、若干の相違点というか、自分の考えてよりも細かく設定されていた。
例えば、髪の毛の色で親から遺伝される魔法属性が顕著に表れると言う事だ。
あくまでもこれは、人族のみの傾向と目安だが、赤髪は火属性、青髪は水属性、緑髪は風属性、茶色は土属性、金色は雷属性、黒色は剣士向きといった感じで髪の毛の色で得意な属性が分かるみたい。つまり俺は剣士向きだって事だ。
ていっても剣士でも鍛錬次第ではどの属性攻撃魔法も使えるようだし、その根拠として英雄譚に出てくる勇者や英雄はほぼ全員が黒髪で全属性魔法を使っている。まあ、子供向けの英雄譚なので信憑性は低いし、両親も黒髪だからワザとそういう傾向の英雄譚を揃えたのかも知れない。
色々と書庫の本を手の届く範囲であさってみたが余りにも情報が少ないし内容が偏っているので、屋敷で働く従者にも質問したものを纏めると…
15歳になると、神託の儀が行われて、神様から職業スキルを与えられるのだが、血筋やどのような人生を歩んできたかで得られるスキルに差が出るようだ。
神託で上級スキルを与えられた若者は、無償で一般の学校に入学出来るようだ。特待生みたいなものだな…たぶん。
なので王侯貴族や商人たちは、9歳ごろから魔法、剣、作法といった鍛錬を15歳になるまで家庭教師を付けるか、貧乏貴族や一般人は日本で言う塾のようなものに入って自主的に基礎知識や教養を身に着けるのが一般的のようだ。教育格差を感じるがこれは致し方ないのであろう。
それに剣や槍スキルも努力次第では身に付くそうだし、職業スキルを授かっても落ちこぼれてたり、集団生活や規則正しい生活が苦手な者たちは冒険者になる選択もある。思ったより自由でよかった。
そんなわけで、9歳まで待つには時間を持て余すので、魔法適正さえあれば魔法が使えるのではないかと思い試してみたくなる。好奇心というかどちらかと言うと冒険心だな。
本に書いてあったとおり微量の魔力を右手に流して「ライティング」と詠唱してみると手のひらに小さな黄色い魔法陣が顕現…魔法陣に魔力が注がれる様に流れると少し発光した後に魔法陣は消えて僅かばかりだが右手が光る。
「あれ?マジで?!9歳になってないのに魔法が使えるじゃん」
つい、日本語が口をつく。
実は記憶にないだけで、神様のところに呼ばれてチート機能を与えられたとか?そこまで都合が良いわけないか。
それからは、外に光が漏れないように布団をかぶり光を出す練習をした。魔力を流せば流すほど光が強くなる事がわかる。これが魔力操作の鍛錬の仕方なのか…だとしたらこれは利用価値があるぞ。
そんな訳で本に書いているとおり、ライティングを発動しながら「魔法陣展開」と詠唱する。すると、魔力を集めた右手に魔法陣が現れて消えずに残っている。
「やった!!できちゃったよ」
ここまでできちゃうと色々と試したくなるな。ひょっとしたら書いた設定とは違うかも知れない。
勉強するまで弄るつもりはないが俄然、楽しくなって来た。そう思いそればらばと「ステータスオープン」と詠唱してみる。
それからも、それっぽい言葉を言ってみるが反応は無い。ひょっとしたらステータスカードがあれば反応をするかも知れないが、15歳まではステータスカードが貰えないので確認出来ない。
「くっそ~!自分でそう設定したから文句は言えんが駄目だったかっ!それじゃこれでどうだ!鑑定!」
机においてあった本を手に取って、半ばやけくそでそう詠唱すると、なんと!本の上に白色の魔法陣が現れて消えると鑑定結果が出る。
名称:子供向けの魔法知識の本
「まっ、マジか!!情報は少ないけどこりゃ凄いぞ。これは全部試すしか無いな!」
あまりにもテンションが上がったので、それから本に書いてある俗に言う生活魔法を試してみたが、残念ながらこちらの方はまだ使えなかった。それからは、本で読んだ魔法を試してみるが一般的な魔法は全て適正が無い。
ラノベの設定でよくある全属性を最初から習得って具合にしようと思ったが、それはどうなんだろうと思って自重してしまった。まさか裏目に出るとはな。
このまま諦めるよりは全部試してみようと、英雄譚に書いてあった勇者が使える重力魔法を試してみる。
「
体全体に魔力が行き渡るようにイメージしてそう詠唱すると、足元に紫色の魔法陣が現れる。魔法陣が消えると、全身が少し光り嘘のように体が軽くなる。
「えっ?嘘だろ?どう言う事だ?」
どういうわけか使えてしまった。
主人公のヴェルにしろオレにしろ、勇者にするつもりも、なるつもりなどさらさら無かったが、試しに裏設定である空間魔法を詠唱してみる。上手くいけばアイテムボックス持ちだ。
「ストレージ!」
こちらはなんの反応も無い。なんだかホッとしたような、残念なような…ああ、でもこれからは、光魔法と重力魔法を中心に鍛えれはいいんだな。
それからは、重力魔法で何が出来るか探る。
まずは体を鍛える為には体に負荷を与える必要がある。軽く魔力を流して「
「うっは~。こりゃマジきつい」
解除は魔力を流すのをやめればいいだけだ。使い方を間違えたらとんでもない事になりそうだ。魔力操作の鍛錬をしておいて良かった。
次に両足にだけに魔法を掛けてみる。もちろん軽くだ。
すると、軽く飛び上がっただけで天井に着きそうになった。危うく天井を貫くところだ。これは魔法操作を鍛練しなきゃ怖えーな。
軽く歩いてみるが高速で足が動く。楽しいが、人が見たらどう思うだろう?想像するだけで不気味だなこりゃ。まるでチャイル〇プレイのチャッ〇ーだよこれじゃな。
次に、物にどのような影響を与えるか試してみた。本を持つと予想通り本が軽くなる。こいつはやばい。とんでもないチートスキルだ。使い方次第では無敵と言っていいんじゃないか?
そんなのを試行錯誤していたら急に体が重くなったと思ったらいきなり意識が飛んだ。
いったいどれだけの時間が経ったのか分からないが、目が覚めるといつの間にかベッドに寝かされて、母が呆れた顔をして俺の顔を覗き込む。
「もうヴェルったら、本を読むのに夢中で寝ちゃうなんて風邪を引いたらどうするの?」
つい夢中になって忘れてた。昼寝なんかじゃなく魔力を使い果たして気絶しちゃったなんて言えない。見た目は昼寝だけどね。
「いつの間にか寝落ちしてたみたい。心配かけてどめんなさい」
優しい母はそんな馬鹿息子に、書庫に子供用のベッドを用意してくれた。ありがたいことだ。
自分で書いた設定では、全開で強く魔力を流せばそれなりに強力な魔法が使えるけど、魔力を一点集中時間も掛かるし魔力切れで気絶したら不発な上に、そこで終わりなので魔力切れには注意が必要だと書いたのをうっかり忘れたたよ。
そんなわけで、それから毎日書庫に引き籠っては気絶するまで魔力を使い切る。
両親も最初は心配していたが、大人しくなる上に昼寝をさせる手間も省けると言う事で今は放置状態だ。現代社会に於いて、親が子供にスマホを与えているのと同じ感覚なんだろうね。わかります。
まあ、これからは魔力の鍛錬だけじゃなくて、体に負荷を掛けながら毎日屋敷の周りを走って体を鍛えようと思う。疑われない程度にね。
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