奇談

@agisai-ph

第1話 穴の中

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__なんだか最近頭痛がする。

 デスクワーク中にズキズキと止まらない。

 眼精疲労がんせいひろうからくるものと思って眼科がんかに行ってみたが、先生にはキッパリちがうと断言された。

 では内科ないかへとおもむくも、これまたどこも異常はないと言われる。念のため、脳波のうはなんかも調べてみたが、どこもおかしなところは見当たらないらしい。

 それじゃあストレスでもたまっているのかと休暇をとって旅行へ行ってみたが、ふとした瞬間に鈍痛どんつうが始まるのだ。

 これはまいった、もう手の打ち用がない。

 もしかしたら新たな病気かもしれないと、昨今さっこん世界中を騒がせていた新型ウイルスの進化系かと焦ってネットを調べていると、どうやら虫歯があっても頭痛がするのだと言う記事を見かけた。

 どこの誰が書いたのか、いまいち信用できはしないが、私はわらにもすがる思いでホテル近くの歯医者の扉をたたいた。



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「それで虫歯はあるのでしょうか? 」

「うーん、そうですね…… これは そうだなぁ__ 」

 受付を済ませ一通ひととうりの検査を受けた後、この歯科の院長と思われる60代半ばの男性は、短い顎髭あごひげでながらカルテを見て、難しい顔でモゴモゴと言いよどんでいる。


「治療の必要はあるんでしょうか? 」

「あると言えばありますが、無いと言えばないですね、うん__ 」

「はぁ……」

 煮え切らない態度に、どうにも空返事からへんじをしてしまう。

 虫歯はあるのか無いのか。放っておいても治るものなのか。頭痛という症状がでている分、深刻なもののように思えてしまうが、全く歯とは関係ないものなのだろうか。

「あの、撮ってもらった写真は見せてもらえないんでしょうか?」

 はじめに個室へ案内されて、いかつい機械の前に立たされて撮ったレントゲン写真だ。

 普通の歯医者なら患者の目の前に設置してあるモニターに写真が映し出され説明がはじまるものだが、この医師はカルテと歯式ししきと呼ばれていた歯が描いてある紙だけを見て判断している。

 こんな事なら旅行から帰って、いつもの歯医者で診察を受けるべきだったと後悔した。

 旅先で変な行動力が湧くと、いつもロクな目に合わない。なのに何度も繰り返してしまう。

 これもまた一種の病気なのだろうか。


「__さん、こちらがその写真です」

 パッとモニターが明るくなって、映し出された歯は、きちんとまっすぐに並んでいる。

「うん、とても綺麗な歯並びですね。 矯正はされていたんですか? 」

「えぇ、まぁ…… 幼い頃に」

「ほぅ、やっぱりそうだと思ってたんですよ、なんせ自然的な美しさではないんでね、うん」

「あの、それで頭痛と虫歯の方は関係あるんですか……?  」

「あぁ、それはまぁ一概にあるとは言えないんですよ」

「というと? 」

「ここに小さい穴があるの、見えますか」

 胸ポケットに入っていた万年筆を右下の奥歯に当てて、ココですよ。と言うにふうにトントンと画面を叩いた。

「モニターは左右反対になっているのでこっちは左下です」

 と言うと、人差し指で左の歯を合図した。

「これが原因なんですか? 」

「まぁ、その可能性が高いですね…… 」

「それはどう言う意味なんですか」

 医師のはっきりしない言葉に、とうとう私も苛立って、つい語気を強めてしまった。

「最大の問題点は貴方あなたが矯正をした事なんですよ」

「はっ? 」

 思わず素っ頓狂すっとんきょうな声が出てしまった。

 昔おこなった矯正が、現在いまになって症状が出てくるなんて聞いたことがない。

 近年発見された事実なのだろうか。

 医師に聞いてみるが根本的な勘違いをしていると言う。

「まぁ見てもらった方がはやいからね、うん」

 わきに控えていた助手と思しき人に目配せすると、倒します。と言う無機質な掛け声と共に、椅子いすかたむいていく。 

「うん、ストップ。 はい、あーんして下さいね」

 言われるがままに口を開くと、なにやら小さなレンズとミラーを口の中に入れられた。 

「モニター見えるかな? 」

 ふと、視線を画面にやると、そこには白い山が映っていた。

 どうやら自分の歯が何十倍にも大きく見えているらしい。

「ここの穴なんだけどね、小さい頃矯正してたからうまく広がらないみたいなんだよね、うん。 ここにできるはずの宇宙がゆがんじゃって頭痛をおこしてるとおもわれるんだよ 治療しちゃっても大丈夫かな? 」


 ちょっと待ってほしい。

私の口の中に宇宙? 到底理解できないことだ。

ただの虫歯だと思っていたのに、急にへんてこりんな事を当たり前だと言わんばかりに告げられても頷けるはずがない。

「うん 多分、絶対そう。 治療しちゃえば痛みも治るからね。 __麻酔の準備して」 

 いや、待ってくれ。

 静止の合図で手を上げたつもりだったのにギュッと抑え込まれてしまった。

「倒します」

 助手の声が頭上から聞こえ、タオルが目元にかけられる。

「うん。 暴れないでね、少しちくっとしますよ」

 次の瞬間チクリ、と歯茎が熱くなった。

 

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