奇談
@agisai-ph
第1話 穴の中
1
__なんだか最近頭痛がする。
デスクワーク中にズキズキと止まらない。
では
それじゃあストレスでもたまっているのかと休暇をとって旅行へ行ってみたが、ふとした瞬間に
これは
もしかしたら新たな病気かもしれないと、
どこの誰が書いたのか、いまいち信用できはしないが、私は
2
「それで虫歯はあるのでしょうか? 」
「うーん、そうですね…… これは そうだなぁ__ 」
受付を済ませ
「治療の必要はあるんでしょうか? 」
「あると言えばありますが、無いと言えばないですね、うん__ 」
「はぁ……」
煮え切らない態度に、どうにも
虫歯はあるのか無いのか。放っておいても治るものなのか。頭痛という症状がでている分、深刻なもののように思えてしまうが、全く歯とは関係ないものなのだろうか。
「あの、撮ってもらった写真は見せてもらえないんでしょうか?」
はじめに個室へ案内されて、いかつい機械の前に立たされて撮ったレントゲン写真だ。
普通の歯医者なら患者の目の前に設置してあるモニターに写真が映し出され説明がはじまるものだが、この医師はカルテと
こんな事なら旅行から帰って、いつもの歯医者で診察を受けるべきだったと後悔した。
旅先で変な行動力が湧くと、いつもロクな目に合わない。なのに何度も繰り返してしまう。
これもまた一種の病気なのだろうか。
「__さん、こちらがその写真です」
パッとモニターが明るくなって、映し出された歯は、きちんとまっすぐに並んでいる。
「うん、とても綺麗な歯並びですね。 矯正はされていたんですか? 」
「えぇ、まぁ…… 幼い頃に」
「ほぅ、やっぱりそうだと思ってたんですよ、なんせ自然的な美しさではないんでね、うん」
「あの、それで頭痛と虫歯の方は関係あるんですか……? 」
「あぁ、それはまぁ一概にあるとは言えないんですよ」
「というと? 」
「ここに小さい穴があるの、見えますか」
胸ポケットに入っていた万年筆を右下の奥歯に当てて、ココですよ。と言うにふうにトントンと画面を叩いた。
「モニターは左右反対になっているのでこっちは左下です」
と言うと、人差し指で左の歯を合図した。
「これが原因なんですか? 」
「まぁ、その可能性が高いですね…… 」
「それはどう言う意味なんですか」
医師のはっきりしない言葉に、とうとう私も苛立って、つい語気を強めてしまった。
「最大の問題点は
「はっ? 」
思わず素っ
昔おこなった矯正が、
近年発見された事実なのだろうか。
医師に聞いてみるが根本的な勘違いをしていると言う。
「まぁ見てもらった方がはやいからね、うん」
わきに控えていた助手と思しき人に目配せすると、倒します。と言う無機質な掛け声と共に、
「うん、ストップ。 はい、あーんして下さいね」
言われるがままに口を開くと、なにやら小さなレンズとミラーを口の中に入れられた。
「モニター見えるかな? 」
ふと、視線を画面にやると、そこには白い山が映っていた。
どうやら自分の歯が何十倍にも大きく見えているらしい。
「ここの穴なんだけどね、小さい頃矯正してたからうまく広がらないみたいなんだよね、うん。 ここにできるはずの宇宙が
ちょっと待ってほしい。
私の口の中に宇宙? 到底理解できないことだ。
ただの虫歯だと思っていたのに、急にへんてこりんな事を当たり前だと言わんばかりに告げられても頷けるはずがない。
「うん 多分、絶対そう。 治療しちゃえば痛みも治るからね。 __麻酔の準備して」
いや、待ってくれ。
静止の合図で手を上げたつもりだったのにギュッと抑え込まれてしまった。
「倒します」
助手の声が頭上から聞こえ、タオルが目元にかけられる。
「うん。 暴れないでね、少しちくっとしますよ」
次の瞬間チクリ、と歯茎が熱くなった。
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