ユーシア 日常物語
小林六話
1時間目 カナメとタカ
記念すべき第一話はカナメとタカです。本編ではそれぞれ○○編のエンディングで学校描写があるので、そちらも読んで頂けると嬉しいです。
次から本編です。
ー------------------------------------
高校一年生の時、まさかの双子同然で育ち、ユーシア内で双子と呼ばれる相棒のフブキとクラスが離れ、タカは落ち込んだ。唯一の救いは同じクラスにカナメがいたことだった。それ以来、カナメとタカは移動教室も一緒、体育もペアを組むようになった。弟のような愛らしい言動でカナメと一緒にいる可愛い系男子タカとそれを気にする様子もなく、好きにさせている姉のようなかっこよさを持つカナメのコンビは、クラスメイトから人気があった。特にヒロのようなアニメや漫画好きの生徒には刺さる組み合わせのようだった。
そんな二人は二年生になってもクラスは同じだった。加えて席替えが行われた結果、隣同士という奇跡を起こした。
ある日のこと、前から数えて四列目のその席に座るカナメの顔は青ざめていた。
「まずい」
カナメは小声で呟く。その日、日付を越えてもやり切れず、どうしてもやり切りたいと思って無茶した任務報告書が完成したのは深夜三時、気を失うように寝たカナメは眠気と格闘しながら古典の授業を聞いていた。教卓の前に立つ先生の指示に従ってノートを開いた時、カナメの頭が覚醒した。
そう、予習を忘れたのだ。
「まずい」
カナメはもう一度呟く。いつもは欠かさず行ってきた予習、しかも先生に指されると知っている日は尚更真剣にやっていた予習を忘れてしまったのだ。しかも、今日はカナメが指される日でもあるのだ。反対側の列から指されていき、前回はカナメの列に入る前で止まっている。確実に指されるのに予習を忘れたのだから、眠気に襲われている暇などない。幸い、まだ前回の復習なので、カナメは辞書を駆使して自分が指されるであろう箇所とその前後を調べてしまうことにした。
「カナメ、カナメ」
古典の先生がこちらに背を向けた途端、隣に座っているタカがノートをカナメの机に置いた。それは予習が完璧にされていた古典のノートだった。
「これ、使って」
小声でそう言うタカに、カナメは申し訳なさそうにそれを受け取った。
「悪い、ありがとう」
タカは黒板の方を気にしながらも親指を立てた。
無事何とか乗り切ったカナメは、授業後タカにノートを返した。
「タカ、ごめん。もっと早く返したかったんだけど」
「今日の先生、全然黒板書かなかったよね!?タイミングなかったもん、気にしないで」
ニコニコ笑うタカに、カナメは安心したように微笑んだ。
「助かった。でも、よくわかったな」
「あんなに焦ってたらわかるって。でも、めずらしいね」
「ちょっと別のことが長引いて、すっかり忘れていたんだ」
「あのねぇ、絶対それは緊急じゃないやつでしょ?カナメってば本当にこれに関わると身体を酷使するよね」
タカは自身の目を指さしながら、呆れたように、少し怒るように言った。
「いや、中途半端に終わらせたくなかった」
「昨日は何時間籠ったの?」
クラスで話しているため曖昧な、気づかれないような会話をしているが、この質問で聞かれている籠っていた場所は取調室である。未確認生物の取り調べはだいたいカナメが行っているため、常連が多く、また時には取っ組み合いの喧嘩もするのだから身体は休まらない。
「・・・・三時間」
カナメは俯きつつも、上目でタカの様子を窺いながら答えた。しっかり者の彼女は負けず嫌いの仕事人間なので、売られた喧嘩を訓練として買っては毎回相手をしている。
「あのねぇ、いつも同じことしか言わないんだから馬鹿正直に何回も同じ喧嘩を買っちゃダメじゃん」
「・・・・言い返す言葉もありません」
めずらしく立場が逆転した様子にクラスメイト達は会話の内容はわからないものの、珍獣を見たかのような目でその光景を見つめていた。その新鮮さは遠目ではあるがタカの兄のような頼りがいのある雰囲気とカナメの可愛らしい一面を見せていた。
一見、しっかり者の姉タイプのカナメと可愛らしい弟のような存在のタカの組み合わせだが、任務、日常生活において頼りになるカナメは自分の身体や心のこととなるとしっかりしない。それをタカが補っているからこそ、高校生活となるとこの二人はよく一緒にいる。そのことを無自覚に理解しているからこそ、カナメとタカはうまくいっているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます