学校の高嶺の花に「私の彼氏になって」と言われてから、本命の子に嫌われたのだが

穏水

第1話

 俺は高二の時からずっと気になっている子がいる。


 だが三年生になり、もう六月にかかった頃、最近その子の様子が何かおかしいのだ。正確には何かを、いや、俺を避けているような……感じがするのだ。正直、理由はなんとなくわかる。多分それは俺のせいだと。俺があのような話に乗っかからなければこのようなことにはなっていなかったはずだ。


 俺は……どうすれば……どう、すれば…………。






 ◇◆◇







「──ねえ、華柳冬稀かやなふゆき?」


 ん……? 俺?


 五限が終わり、休憩時間にかかった教室は喧騒であふれる。


「ん? なんだ? てかなんでフルネーム!?」


「だって全然気づいてくれないんだもん」


 俺の隣の席に座っている子、言い換えればクラスメート、または幼馴染とも呼べる存在の女子、朝霧紫晞あさぎりしほが俺の瞳を覗き込むように声を掛ける。


 その宝石のように透き通った紫の瞳に覗き込まれると、流石の俺でもドキッとしてしまう。


 なんとか精神を落ち着かせ、俺は紫晞の正面を向いた。


「ごめんごめん、わりぃ、考え事してたわ。で、なんだ?」


 紫晞はむーっと頬を膨らませ、何か不満だという態度を見せつけてくる。


 え……俺なんか大事な話を聞いてなかったとか? てか紫晞のその顔はアウトだろ! 俺の精神が持たねぇ、なんだよ、可愛すぎだろ。


「ん、まあいい。で、冬稀大丈夫? 最近考え事が多いみたいだけど……」


 うっ、顔とかに出てるのか? ただ単に紫晞の感が鋭いのか……。


 まあなんにせよ、紫晞には迷惑を掛けたくない。俺の問題を人に押し付けたりするのだけはなんとか阻止せねば。ここは適当にごまかしておくか。


「そうか? ん〜、確かに最近はバミューダトライアングルの仕組みはどうなってるんだろう、とかよく考えるなぁ」


「冬稀」


 氷の様に冷え切った紫晞の声。


 俺はわかる。紫晞と幼稚園からの幼馴染だからこそわかる。紫晞だけは怒らせてはいけない事を。怒ったらその先俺にも見当がつかない。


 ここは素直に謝って本当の事を言おう。うん、そうしよう。俺が死ぬ前にな。


「すいませんでした。いや、何かな〜ちょっと後輩と?ちょっと関係が拗れちゃったり?しちゃったわけですが……」


「そうだろうと思ってたよ。どうせ瀬田紗香せださやかさんのことでしょ?」


 俺の脳裏には紫晞が言う瀬田紗香の顔が貼り付く。


 軽音楽部の、俺の後輩……瀬田紗香……。紫晞が言う通り俺が先程から考えている子だった。


「…………」


「その沈黙は肯定と捉えても良いのよね?」


「ああ、そうだ。はは、紫晞に隠し事はできねぇな」


 本当に紫晞に隠し事をできた試しがない。というかそもそも隠し事をしようなんてあまり思わないのだが。


「何年一緒にいると思ってるの」


 もうかれこれ17年くらいか? そう考えると長いもんだなぁ。かなりお世話になってるしなー。いつか何か買ってあげるか。


 紫晞は続ける。あのいつもは無口な紫晞なのだが、俺の前だけは口数が多い。俺のことをちゃんと考えてくれている証拠だ。


「冬稀、そんなに我慢しなくても良いのよ。ありがとう、私の事なんてそんなに気にしなくても良いんだよ」


 突然の礼。その礼が何に対しての礼なのかはわかる。

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