魔槍と呼ばれた男
立花
第1話
その男は生涯を武に捧げた。
四六時中、寝る間でさえも武を想った。
ただひたすらに武と向き合い、己を理に近づけた。
武とは。
理とは。
力とは。
気付けば並ぶものなし。
ただ理合いを求めた道筋に築かれたるは屍山血河。
武とは矛であり、威を示すもの。
男の勇名、否、忌み名は三千世界に轟いた。
目の前に立つ全てを薙ぎ払ったならば然もありなん。
いつしか、男の前に立つ者はいなくなった。
振り返れども、その道程は錆び付いた香りとどす黒い穢れに塗れている。
そこに栄光はなく、誉れもない。
一歩一歩を有らん限りの力で歩いたが、それを余人は理解しない。
男は武と共に生きた。
唯々、頂に至らんと前へと進んだ。
幾千、幾万と武人を打ち砕いた。
武を比べるごとに己の理合いを磨く。
二十も半ばを過ぎたが、頂は朧気にも見えず。
武を競い、己を磨き、血反吐に沈みながらの求道。
ようやく三合ほどかと理解した頃、周りから人が消えた。
四十になろうとしたところだったか。
急に気性が落ち着いた。
段々と最盛期から離れつつある体と共に、覇気にも陰りが出てきた。
佳く手に馴染んだ槍も重く感じていた。
己の求める場所まで後半分。
錆び付く身体。
焦燥感とは裏腹に、頂は遠い。
足りぬ。
何かが足りぬのだ。
空虚な手応えがある。
持ち得ぬ何かがあることはわかっていた。
それが何かは皆目検討もつかず。
男は虚無を抱えて生きていた。
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