第26話 日本人の立場

「じゃあ、盗まれろ。解散だな」

「そうだな」

「無駄骨だったな」


 そう言ってぞろぞろと帰り支度を始める探偵たち。

 それを見て慌てて叫ぶ地主。


「ちょっ! ちょっと待て! 警察がそんな態度で良いのか!」


 慌てる地主だが、探偵たちの顔は冷ややかだ。


「断っても何も困らん」

「日本警察だけで超異能の力を持った英雄が止められるもんなら止めてみろ」


 そう言って帰ろうとする探偵たち。

 慌てて門脇署長に怒鳴る地主。


「おい、貴様! どういうことだ!」

「ははは、彼らはそんなに優しい人達じゃありませんよ。今回の事件は失敗する可能性が高いから探偵にとってはリスクしかないんです。僕もそこまで強制的な権限はありませんし」

「なに!」


 ここが探偵制度の怖い所である。

 

 日本の警察と違い、守らなくても何ら問題は無いし、断ることも出来るのだ。

 だが、そんな様子を見ていた悠里は気付いていた。


(門脇さんも大変だな。ここで下手に探偵たちをとどめると金額吊り上げられるし、地主はお客様気分でいる……そんな都合の良い相手ではないのに……)


 探偵はそうやることで、交渉の主導権を取ろうとする。

 署長にとってはここで戻そうとしても支払いが高くなるだけでリスクが多い。

 だが、そんなことを知らない地主は署長に怒鳴る。


「貴様! それでわしの桃太郎像は守れるのか!」

「無理でしょうね。善処しますが失敗するでしょう」


 あっさりと言う署長に地主は凍り付く。

 それぐらい英雄は対処が難しいのだ。


「宇宙人の持つ強化服バディルは銃弾を通さず、その力は自動車と対等と言われています。それに加えて未知の異能力を持った怪盗相手に守り切ることは不可能です」

「ぐぬぬぬぬ……」

「ですから彼らに謝って貰えませんか? 今の日本人は偉そうな立場が取れないんです。彼らの力を借りなければ何もできない」

「……」


 そう言われて黙り込む地主。

 実際、この世界の日本は……と言うよりは地球の国々全てが宇宙人に頼りっぱなしで、どこをとっても偉そうな態度が取れるわけではない。

 悠里はその様子を見て顔を俯かせる。


(辛い立場だよなぁ……地球人は……)


 宇宙人相手に揉み手をしないと駄目なレベル。

 それは自分達の尊厳を踏みにじられるようなものだ。


(とは言え、あいつはすげぇムカつくしな)


 悠里としてはあんまり同情する気になれないのでつれないのだが、それにも理由がある。


「……探偵の皆さまがた。失礼いたしました。資産の確認をしても宜しいです。どうか私の宝物を守ってください」

「最初からそう言えば良いんだよ……」

「調子こきやがって……」

「何様のつもりだよ……」


 ぶつくさ言いながらも帰り支度を止めて仕事に入る探偵。

 すると地主がパンパンと手を叩いた。


「おおい。鷹峰さんや」

「はーい!」


 廊下から家政婦さんが客間に入って来た。


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