兇人は有理に裁かれる

剣乃 和也

第1話 犯罪都市 伊岳市

西暦20XX年 7月

 人類は宇宙人達に出会い、宇宙へと開かれるようになった。

 それに伴い、日本も宇宙人と交流することになり、宇宙先進国の一つ『ニューガン皇国』との間に『交換租界条約』を結んだ。

 これにより、山の谷間にあった何もない村に租界都市『伊岳市』が生まれた。

 そこは『日本であって日本でない土地』であり、様々な人や物……犯罪も集った。


 そんな伊岳市の外れにある廃墟では……今日も犯罪が行われていた。


ひゅぅぅぅ……


 埃っぽい無機質なコンクリ打ちっぱなしの部屋に割れた窓から隙間風が入り込んでいる。


ブラーン……ブラーン……


 何に使われたのかわからない電線が破れた天井から出ており、めくれてぶら下がった天井板も揺れている。

 辺りには資材が散在しており、壁には「GO TO HILL」と単語を間違えた落書きがある。

 その隣には何故か「GO TO EAT」も書かれているのだが、単語を間違えたのか、隣の落書きへの皮肉なのか今一つ判別しがたい。


 そんな廃墟の中に幾人もの怪しい連中が集っていた。


 全員がいわゆる暴力団と思しきメンツで、いかつい顔と服をしたおっさん達が集って、机の上の一つの段ボールを囲んでいる。

 机の両側にはボスと思しき髭の男と禿頭の男が向かい合わせで座っており、机横で何やら検査している男の様子を伺う。

 検査結果が出たのか、試験管を持っていた男が静かに言った。


「……純度問題ないです」

「…………わかった」


 髭の男はその言葉と同時に……懐に手を入れる。


ガシャガシャガシャガシャ!


 男たちの半分が拳銃を手にして臨戦態勢を取る!

 一瞬で不穏な空気が漂うのだが、髭の男が懐から出したのは封筒だった。

 それを見て禿頭の男が顔をゆがめる。


「おいおい……いくら用意してんだ? ニンベンが必要だって言っただろ?」


 禿げた頭をキラリと光らせて言う男だが、向かに居る髭の男は静かに言った。


「ちゃんとニンベンで用意してるさ」


 髭の男はにやりと笑う。

 ニンベンとは早い話が『億』のことだが、どう見ても封筒の中には億の金が入りそうもない。

 だが、髭の男が封筒から取りだしたお金を見て禿頭のボスがにんまりとした。


「ほぅ……キーン紙幣か……」

「イチイチ日本円で用意するよりも手軽で、電子決済よりも信じられるだろ? 1キーンは1万円ぐらいだが、1万キーン紙幣は一億だ……それに? 何しろ宇宙先進国の金だ♪」

「便利な世の中になったなぁ……」


 そう言ってキーン紙幣の数を数える禿頭の男は札を数えて、にんまりとする。


「OKだ。取引成立だな」


 そう言って禿頭と髭の二人が握手しようとしたその時……


「そこまでだ!」


 ガシャガシャガシャガシャ!


 武装した警官たちがぞろぞろと部屋に乱入する!


「麻薬取引の容疑で逮捕する! 大人しくしろ!」


 警官たちはそう言って拳銃を構えた!


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