未来を信じる君と。
横瀬中雪
朝
ピピピ…ピピピ…ピピピ…
俺は無機質な部屋に鳴り響くアラームを止める。今日もまた仕事だ。
「……ハァ…。あぁ~あ。なんで5:00なんかに起きなきゃなんねえんだか。」
そんな愚痴を言っても時間は巻き戻ってはくれないし、休みにもならない。そんなものは分かっている。ただの自己満足のためだ。
しかし今日も寒い。冬に近づくにつれどんどん降下してゆく気温に、少しだけ憂鬱になりながら起き上がる。
いつもの様に風呂に入り、布団を干し、朝食を食べ、歯を磨いて。
おもむろにテレビを点けるとニュースがやっていた。
【次のニュースです。3年前に建設が始まっている“中間圏プラットフォーム高速移動器“、通称“近未来宇宙エレベーター“の、中間圏プラットフォームまでの試運転が昨日行われました。成層圏を超えた中間圏への到達、そして完全な状態での試運転の成功は初と言うことで…】
俺は反射的にテレビを消した。別にこの番組が嫌い、アナウンサーが嫌いだからという訳じゃない。ただこうやってこのエレベーターが稼働することが嫌だったからだ。少し苛つく自分を抑える。
俺はアパートの一室を少し早く出た。こんな部屋に居ても苛つくだけなので、自分の頭を冷やすために。
「なんで今日に限ってさ…」
俺はそう呟いた。
元々俺は“若き天才科学者“とも呼ばれていた。高校生の頃からよくテレビに出演していて、18歳で高校を卒業するとすぐ有名企業に入り、そこからその会社で働いている。
その会社ではずっと細々した仕事をやってきていたが、22歳になった俺に舞い込んできた仕事が“宇宙エレベーター“である。4年目の春に来た大仕事。張り切らないはずもなく、日々研究に徹した。
そんな時俺の傍らで作業していたもう一人の研究者。肩甲骨まで伸びる髪に、黒いインナーの上から白衣を着た女。そいつこそが沓掛鈴である。
こいつは良きライバルであり、また唯一の大のつく親友であった。もともとあまり人と話すことが無かった俺も、こいつとは簡単に打ち解けることが出来た。
ただ“ある事“があるまでは。
それ以来俺らの関係は遠くなってしまった。
そんな昔の事を思い出しながら進む。毎年この時期になると想い出す。こんなこと、忘れたいのに。
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