第164話 人間やめるか(2回目)

 前回までのあらすじ。ムカデワニを倒した。以上。




「ざっくりし過ぎだろ」


「やっぱり? もっと飾りっ気を出すべきかね」




 数多の苦難を乗り越えた俺は因縁の魔物であるムカデワニを倒すために全てが始まった陸の孤島に向かった。そこにはかつて俺が止めを刺したはずの外道が黄泉の国から甦り悪逆非道の限りを尽くしていた。義憤に駆られた俺は外道を打倒し、この世に縛られていた魂を開放したのだ。死者の国は崩れ落ち、解放された魂たちを迎えに来たが如く太陽が昇り……。




「やめだやめ。なげーよ。日が暮れるわ。しかも、ありもしねー嘘を混ぜるな」


「注文の多いやつだなぁ」




 俺の活躍を少し脚色しただけじゃん。あのクソ下衆野郎が大嫌いだから殲滅しました、だとウケが悪いと思うよ。ドラマチックな方が客のウケがいいに決まっている。全米が泣くぞ。問題はそもそも俺の活躍を知らしめるつもりがないということだがな。




「誰もオメーに興味なんざねーよ」


「時に事実は人を傷つけるんだぞ」


「こんな甘っちょろい事実くらい受け止めろよ」




 このクソ魔王が。正論を言うなよ。魔王らしくねぇぞ。ま、いいけど。




「で、オメーの改造案とやらは決まったのか?」


「決まった。悩ましい案もあるが、今回は見送りだな」


「次回はねーだろ。あれ以上の素材なんて存在しないからな」


「なら永久凍結だ」




 俺自身の強化プランが決まると錬金レシピが思い浮かぶ。前回の反省点も活かしつつ、基本はステータス向上がメインだ。それにプラスして素材の持つ特性やスキルを取り入れたいと思っている。




「そんじゃ錬金を始めましょうかね」




 必要な素材の色を上位錬成で俺と同じ色にしていく。ムカデワニの素材は一つ一つが一級品で、その色を変えていくのは骨が折れた。触手も同じく大変だった。それ以外にもコウモリ君などのダンジョン攻略で得た素材を吟味していった。




「よし、こんなもんか」


「またぶっ倒れるのか」


「介抱よろしく」


「面倒くせーが仕方ねー。安心して死にかけろ」




 なんて心強くない言葉なんだ。またあの痛みに蝕まれるのか。嫌だなぁ。都合よく気絶できる魔道具とか作れなかったし。全耐性のスキルが頑張りすぎだよ。何で気絶しにくくなるんだ。




「素材よし、カートリッジよし、アフターケアよし、心の準備よくない。ふぅー……」


「早くしろよ」


「うっせぇわ。緊張してんだよ」




 あー、あの痛みが来ることを知っているから躊躇っちゃうなぁ。よーし、イケる、イケるぞ。俺はできる子だ。大丈夫、大丈夫。ふぅー……。


 俺は気合を入れて作業台の上に乗って寝転がる。決してふざけているわけではなく、気絶した時に作業台から落ちたり、頭をぶつけないように安全策として寝転がっているだけだ。




「よし。じゃ、ちょっと人間やめてくるわ」


「もうやめてるだろーが」




 レヴィアタンのツッコミを聞き流しながら俺は錬成を開始した。前回と同じように全身が激痛に蝕まれて悲痛な叫び声が出る。更には強くなったことの弊害か、気絶するまでの時間が長い。もはや永遠とも思える時間が経過して、俺はようやく気絶した。




「……ぅ……」




 意識がゆっくりと鮮明になっていく。それに続くように身体の感覚が戻り、思考が明瞭になっていった。




「目が覚めたか」


「……寝覚めがお前の顔とか最悪だわ」


「ギャハハハ! そんだけ憎まれ口が叩けるなら心配いらねーな」




 レヴィアタンの笑い声で頭が痛む。新手の嫌がらせか。しかし、ベッドまで運んでくれたっぽいし文句は言わないでおいてやろう。それにしても今回の錬成も成功かな、たぶん。少なくとも死んでないし、目に映る景色は至って普通な天井なので嫉妬に飲まれたとも考えられない。




「何日寝てた?」


「4日だ」


「新記録だぁ」




 ついに漫画的表現を越えてしまった。これは……何だろう? アニメ化かな? わぁい。


 前回の時よりもひどく身体が重かったため、目覚めてからベッドの上でごろごろとしていた。4日も寝たおかげで目もばっちり冴えていたので眠れず、時間を虚無に使うもの憚られたので魔道具について考えようと思う。ステータス確認はその後だ。




「やっぱり遠隔誘導兵器は必須だよなぁ」


「魔法で……オメーは使えなかったか。スクロールで十分だろ」


「ノンノン、違うんだよ。空中を自在に移動しつつあらゆる方向から魔法を放つ魔道具って強くね?」


「相手に効けば、な」




 それは盲点だったわ。ムカデワニみたいなのに多方向から魔法を撃っても意味ないじゃん。あれは一撃必殺みたいなビーム兵器だからこその技だったから可能だった芸当なんだな。いや、でも浪漫は捨てられねぇよ。




「そこを何とか」


「ならねーよ」


「そんなご無体な……」




 レヴィアタンが冷たい。何て冷酷な人間だ。あ、魔王だったわ。こうなったら意地でも作ってやる。考え方を変えろ。相手にダメージさえ入れば有効な攻撃手段なんだ。威力を上げれば済む話じゃないか。




「スクロールの弱点は威力を変えられないことだぞ? ゴブリン相手に大魔法を使うやつはいねー。逆にムカデワニに弱小魔法を使っても意味がねー。欠点は欠点のままじゃねーか」




 うわーん、レヴィアタンが理詰めでいじめてくるよ~。こうなったら意地だ。徹底抗戦だ。




「つまり相手に合わせて各種取り揃えればいいんだろ?」


「効率悪すぎねーか?」


「それはそう」




 俺ってもしかしてレスバ弱い? マジかよ。

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