第70話 途中の処理で8割が決まる
今、俺とアイナは曲がり角から顔だけ出して通路を覗くという、正に不審者な行動を取っていた。
何故って、俺達の視線の先には見知らぬ冒険者諸君がノブタと戦っているんだ。どう見ても駆け出し冒険者な若い少年たちは、ノブタ相手に苦戦しているように見える。
「さっさと倒しなさいよ」
「武器が悪いな。たぶん、かなり刃こぼれしている。手入れしてないな」
「そうなの? わたくしたちも武器の手入れなんてしていないじゃない」
「修繕のスキルが新品の状態に直すんだ。壊れない限り、時間をかければ直る」
「へー、そうだったの」
包丁ですら定期的に研がなきゃナマクラになるんだぜ? 武器の手入れとか必須でしょ。やり方知らないからスキルに頼ってるんだけど。
「あー、中途半端に傷付けたら食える箇所が減るだろうに。あー、打撃は内出血で肉に血が回るだろ」
「そんなに言うなら助ければいいじゃない」
「面倒だから嫌だ」
横から獲物を奪うと面倒なんだぜ? 昔、オンラインゲームを始めたての頃にそれやって、全体チャットで晒されたんだ。それ以来、オンゲーには触れていない。初心者に優しくしろよ、と今でも思う。だから過疎ってくんだぞ。
「しかし、あんな傷だらけで倒すんだ。血抜きもしないんだろう。肉がマズいわけだよ」
「わたくしたちが狩ったノブタは美味しいのかしら?」
「昼も近いし、少し焼いてみるか?」
「そうしてちょうだい」
これで美味しかったら高値で吹っ掛けよう。信じないなら試食をさせれば納得するだろ。完璧な作戦だ。
その後、ひよっこたちは見事ノブタを仕留めた。内臓も出さずに頑張って引き摺って行くようだ。お腹の傷口から内臓がこんにちはしていることからも、処理が適当でマズいのだろう。
さてと、見終わったし、昼飯でも準備しましょうかね。腹時計だともう昼だ。人がいない場所で料理しよう。人が寄って来たら面倒だ。
俺たちは人気のないところを探し、そこで解体台でノブタを少し解体する。そして、空いた時間で作っていたコンロモドキとフライパンを取り出した。
「何時作っていたのよ、そんなもの」
「あの建物にいた時の深夜」
「……寝ていなかったの?」
「早寝はいい子のすることだ」
俺は悪い大人なので、深夜のコンビニが大好きなのだ。レジ横のホットスナックが美味いのなんの。深夜の酒と油物はパない。
アイナは自身の知らないところで好き勝手している俺にご立腹のようだ。頬を膨らませて可愛い。突きたい。そんな衝動を抑え込み、俺は薄く切った肉を焼く。軽く塩をふってでき上がりだ。
「ほらよ。レディーファーストだ」
「毒見の間違いでしょう?」
「ははは、そんなわけ」
ないわけではない。微妙な味を思い出したから、率先して食べたいとは思わなかっただけだ。だが、バレてしまったのはしょうがない。いただきます。
「どう?」
「ちょっとよくわからんな」
もう一枚パクッとな。
「どうなのよ?」
「……ちょっとよくわかん……」
「美味しいんでしょ! ズルいわ!」
あぁ、俺の焼き肉がっ……。おい、そんなにパクパク食べんなよ。俺の分がなくなるじゃんかよ。でも、幼女から食べ物を取り上げるとか最低だからしたくない。俺はどうしたらいいんだ。
俺が心の中で葛藤していると、アイナはぺろりと焼き肉を平らげた。しかも皿を俺に差し出してくる。
「もう少し食べてあげてもよろしくてよ?」
「無理に食べろとは言わん」
「おかわり」
「……はぁ」
食欲を前にお嬢様キャラが崩壊したぞ。ノブタ、恐るべし……!
俺は自身の分も含めて肉を焼く。塩だけしかないのが残念過ぎる。焼き肉のたれが欲しい。切実に。シェフに依頼でもしようかな、と考えながら完食した。
「きちんと処理すればノブタがこんなに美味しくなるんだな」
「たくさん狩りましょう」
「賛成だ」
午後からはノブタを狩りまくった。4層は人気のないところがちらほらあるくらいで、全体的に冒険者が散らばっていた。初心者はここで資金と経験値を溜めるのだろう。
「こんなもんだな。帰るぞ」
俺はノブタを解体し終わると同時にそう言った。時間的にもそうだし、解体するのに疲れたからだ。この後は宿を考えないといけないから、少し早めに切り上げたい。
こうしてダンジョンから帰る最中、爽やか君のパーティに出会った。
「お二人も帰宅の途中ですか?」
「ええ。ノブタを狩れることがわかったので、宿屋を変えようかと思いまして」
「……まさか、お二人で宿に泊まるつもりですか?」
何故、驚いたような声を上げるんだ? まさか俺がアイナに手を出すとか考えているのか、爽やか君は? ははは、随分楽しいジョークじゃないか。表に出ろ。成敗してくれる。
「わたくし、まだ未成年ですけれど、まさか一人で宿に泊まれと言うのですか?」
「え? あ、ああ、そうでしたね」
アイナなら泊まれると思うけどな。しかもファンタジー世界だから、金さえ払えば未成年とか気にしなさそうだし。てか爽やか君、反応的にアイナのこと子どもと思っていないのか。
「神崎なら大丈夫だろ。嬢ちゃんの方が強い」
髭熊ぁ! お前はどっちの味方だ! 俺を貶してんのか! それとも、俺がロリコンだとでも言いたいのか! 両方貶してんじゃねぇか! そして爽やか君は納得してんじゃないよ、まったく。
髭熊の説得のおかげで爽やか君の疑惑の視線は消えた。代わりに俺は傷付いた。
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