第39話 問題ばかりが積み上がる

「この話題はもういいでしょう。私が解決することでもありませんし」




 はっきり言って俺には無関係なので、対価にはならない。寧ろ、解決案を出したのだから、何か欲しいくらいだ。




「結局、遅くとも後22日でここを脱出することになるのです。調査はそちらにお任せします。山越えのルートなども考えなければならないので、急いでくださいね」




 俺は移動中の快適な生活について考えなければならない。俺が動画サイトで漁りまくったキャンプ知識が火を噴くぜ。




「他に情報はありませんか?」


「……実はな、よそのグループが不自然なのだ」




 黙ったままの爽やか君に代わり、イケおじが話し出した。


 内容としては、幾つかあるグループの内一つの様子が不自然で、そのグループのリーダーにすべてを捧げるような発言ばかりしているそうだ。不自然というより、気味が悪いということで、注意すべし、という話だ。




「会話すら成り立たないんですか?」


「いや、普通に会話はできる。だが、何処かおかしくてな。こちらのグループだった者が、何の前触れも無く向こうに所属したのだが、それで発覚した」




 なんと、あの茶髪君がグループを移籍したらしい。それまでは普通の好青年だった茶髪君がいきなりグループを移った上に、その理由も、リーダーのため、と言うだけだったそうだ。




「怪しい新興宗教みたいですね」


「まさにそんな感じだ」


「考えられる可能性としては、洗脳系のスキルでしょうか」


「そんなものがあるのか!?」


「あるとしたらユニークスキル、榊原さんのキッチンを呼び出すスキルのような、特殊なスキルです」




 集団転移で大体問題になるスキル筆頭だ。後はスキルを奪うスキルとか。これまで騒ぎになっていなかったから、いないと思っていたが、潜伏していたのだろう。多少は頭が回る相手のようだ。面倒な。




「対策はないのか?」


「まずは近づかない事ですかね。そして、複数で動くことでしょうか」




 もし、何の制限もなく強制的に洗脳ができるなら、とっくに全員が洗脳されているだろう。回数制限や、対象の強さで洗脳ができなかったりすると考える方が自然だ。


 複数で動けば、いきなり攫われて洗脳される、という事態は防げる。寧ろ、それくらいしか対策がない。




「元凶を排除できれば最上ですが、そのグループのリーダーが犯人という証拠はありません。その状態で動ける人はいないのでしょう?」


「うぅむ……」


「ならば、様子見に徹して証拠を集めるしかないではありませんか?」


「……そうだな」




 俺としては、今すぐにでも排除すべきだと思うんだけどな。面倒事になりそうだし。ま、俺は俺に被害が出ないように立ち回るだけか。




「助かった。見当すらついていなかったから、対処に困っていた」


「合っているかは分かりませんし、いざとなったら排除できるだけの心構えが必要ですよ」




 排除、と言ったが、要は人を殺す用意をしとけって意味だ。イケおじは何となく大丈夫そうだが、爽やか君はそう簡単にいかないだろう。


 そもそも、爽やか君なら洗脳スキルの見当くらいつきそうだが、先の問題で頭がいっぱいなのだろう。現に、今も悩んでいるし。厳しいかもしれないな。




「この話は全体で共有しているのですか?」


「いや、まだだ。ここでの生活に支障が出るって判断した」




 ある程度まとまってきたここでの生活を、未確定の情報で揺るがすわけにはいかない、と九城は判断したらしい。




「神崎が言った対策をとって、その上でそのグループのリーダーを監視することにする。それで少しはわかればいいが……」




 話した限り、名前どころか顔も分かっていないようだし、動きがあるまで待機だな。俺は耐性のある装備でも作るか。




「何かわかれば、連絡をお願いします」


「ああ、そうする」




 イケおじから言質を取って、情報収集は終わりだ。


 その後は、門番君とともに、イケおじから剣術と体術を習う。




「こうかしら?」


「筋がいいな、嬢ちゃん」




 アイナもついでに参加したところ、瞬く間に剣術と体術を吸収し、基本と応用の型を学び切り、実践を積むだけとなった。


 天才ってすごいわ。努力なんて馬鹿らしくなってくる。心の涙がちょちょ切れそうだ。




「天導さんってすごいですね」


「それほどでもないわ」




 それほどでもあるだろ。素直に褒められる門番君に嫉妬しちゃうぞ。




「あなたからは何もないの?」


「天導さんは素晴らしい才能をお持ちですね」




 何故睨む!? 俺は素直に褒めたじゃないか! 乙女心は難しすぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る