第7話 ファンタジーの洗礼

「つまり、俺にこの剣は引き抜けないと? エクスカリバーかよ!」




 俺のツッコミにエクスカリバー(仮)は黙ったままだ。当然か。剣なのだから。




「ま、いっか。最悪、鞘に入ったままでも鈍器として使えるから問題ないか。運よく鞘が壊れれば、剣として使えるし」




 剣が震えた気がしたが、まぁ、気のせいだろう。喋んないし。いっそのこと錬金術の材料として使うのもアリか。レア物っぽいし、良いものが作れそうだ。


 妄想が膨らみ、無意識のうちに笑みがこぼれる。剣が激しく震えている気もするが、気のせいだろう。剣がしゃべるわけがない。


 俺はエクスカリバー(仮)をマジックバッグに放り込み、次の武器を出していく。そして、次々と武器や気になったものを鑑定していく。


 それらが終わるころには、集めた魔石はすっかり少なくなってしまっていた。




「まさか、強そうな武器のほとんどがエクスカリバー(仮)と同類とか、嘘でしょ」




 そう、殆どが、真の使い手によって本来の姿に戻る、とか、使いこなせるもののみが封印を解くことができる、ばかりだった。例外は、古びた剣一本だ。ただし、刃こぼれが酷いし途中でぽっきりと折れていた。そもそも、鑑定で読めなかったのだ。弾かれるような感覚があって、もう一度試したが結果は同じだった。




「防具は良さげなものあったし、俺が使うか」




 今着ているこの服はそれこそ“旅人の服”な性能で、特にこれといったものはない。全身鎧のような重いものは無理だが、魔法の布を使って織られた服は軽くて動きやすそうだった。




「でも、ミスリルもあったし、オリハルコンも少量あったから、結果オーライかな。加工はレベル不足でできないっぽいが、今後の楽しみが増えたと思おう」




 これは予想外だった。ゲームで言ったら、最序盤で最強武器の素材が手に入るようなものだ。下手をすると、バランスブレイカーになりかねない。修正パッチものだ。


 他には魔道具のランタンとか、水差しとか、ローブとか色々あった。錬金術で作れるものなので、参考にさせてもらおう。




「ふー、疲れた。」




 水を飲んで、休憩をとる。ずっと情報にさらされていたからか、すごく疲れた。


 グッと伸びをして、ドアの方に目を向ける。何かの気配が近づいてきたと思ったら、くるりと方向転換して去っていく。さっきからこれが続いている。




「人がたくさん出て来たのか。戻ってきて正解だな」




 資材を探してここまで来て、ドアに鍵穴があるか確認しているのだろう。


 ふと、茶髪君の事が頭をよぎる。俺の言葉通りに資材を集めていれば、必ず声を掛けられる。上手く事を運べば、茶髪君の立場を有利なものにできるはずだ。問題は、この状況で一人だけ資材を独占していると、目の敵にされかねない事だが、そうならない事を祈ろう。




「待てよ? それだと俺がヤバくないか……まぁ、いいか」




 資材を一番持っているであろう俺だが、何も考えていなかった。俺としたことが……と思ったが、引きこもってしまえば問題なさそうだ。


 何? 資材を独り占めする方が悪い? 皆で分けろ? おいおい、頭お花畑かよ。俺が誰よりも早く動いたからこそ、これだけ資材が手に入ったんだぜ? 自身の努力を捨てる馬鹿が何処にいるんだよ。それにな、分けるなら味方に高く売りつけるんだよ。タダで分けるなんてアホか詐欺師のすることだ。




「防具でもつけてみるか。明日は外に行きたいし」




 外って部屋の外じゃない。この建物の外だ。この世界がファンタジーなら魔物がいるだろう。魔石も魔物から採れるらしいからな。一狩り行こうぜってこういう時に使うんだな。




「おぉ……。ぴったりになった。しかも、超動きやすい」




 俺の身長が平均よりほんの、微かに、ちょびっとだけ小さいから大丈夫かと思ったけど、着てみるとあら不思議。サイズがぴったりと合う。流石、魔法の防具。




「フレーバーテキストは読めたが、どんな魔法がかかってるかは見えなかったもんなぁ。魔石かレベルか。試さないといけないなぁ」




 こまごまとした作業は嫌いではないが、こういう細かな所まで知識が入ってこなかったのも問題だと思う。ゲームなら改善要求のメールを送り付けるところだ。


 動きやすさを確かめた俺は、全身を見てみる。と言っても、鏡が無いので首の動く範囲だが、全体的な雰囲気は駆け出しの冒険者から、一端の狩人の様相になった。全体的に黒い衣装なので、暗殺者っぽくも見える。もしくは二刀流ならアニメで見た主人公だな。俺はおっさんだけど。




「次はどうするか……。外に出るのは無しだな。人がうようよいるし。錬金術と魔法陣を頑張るか。レベ上げだ」




 俺はレベル上げが大好きな人間なのだ。圧倒的レベル差で敵を蹂躙するのがたまらなく楽しい。それにゲームは努力すれば強くなるから楽しい。現実とは大違いだ。


 レベル上げをすることに決めた俺は、もう一つの部屋に向かった。

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