本編

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 ボクは何者でしょうか。

 きっと何者でもありません。


 ボクは、小説のとうじょうじんぶつです。

 ボクはミヤモトのことが好きです。ミヤモトは超キュートでかわいい。ミヤモトの髪の毛はくろくてながくて、顔をうずめて息を吸うと甘いにおいがします。

 そしてミヤモトはだれよりもかしこい。ボクはぶあつい本がきらいだけど、ミヤモトはミルクをガラスのビンへそそぐみたいに、あっという間にページをめくって読み終えてしまいます。

 え? ボクについて話せって? は、殺すよ?


<以下、三行欠落>


 分かりましたよ、ボクの話をすればいいんでしょ? わがままだなぁ、まったく。

 ……で、何を話せばいいんですか?

 名前? 名前は覚えていません。ここではハンニンとかハンギャクシャとか言われますね。そうやってミケンにシワをよせてにらみつけてくる顔を見るたび、ボクはとても悲しくなります。

 あ、でもボクにやさしくしてくれるベンゴシという人は、ボクのことをヒギシャと呼んでくれます。それがボクの名前だったらいいですね。

 ボクはベンゴシさんをぬいぐるみみたいに抱きしめてあげたくて、だからぬいぐるみと同じくらいの大きさになるようにベンゴシさんの首から先を切り取っておひざの上に乗せてあげたのですが、もうボクのことをヒギシャと呼んでくれません。

 ねちゃったのかな。見てくださいよ、このねがお。かわいいですね。ミヤモトよりはかわいくないけど。

 でもせっかくきれいにととのえていたキンパツが血でかたまっちゃってますね。ボクがあとでシャンプーしてあげましょう。ローズのかおりのシャンプーはいかがですか?

 それにしてものどがかわきました。このメンカイシツはカンソウしていてうんざりです。ボクにはうるおいが足りていません。ボクの人生にはうるおいがヒツヨウです。

 水を。つめたくてとうめいな水を。

 ミヤモトの、あらゆるいのちを見守るひとみと同じくらい、つめたくてとうめいな水を。

 そうひとりごとをつぶやいてボクが立ち上がり、ベンゴシさんの生首がおひざの上から血だまりに転がって、血しぶきがとびました。このものがたりも、もう終わりのようです。それではまたどこかで。ごきげんよ


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