第15話 おうちに帰ろう

 企業内高校とはいえ、春休み、夏休み、冬休みがあります。

 この間は学校がないので、遅番ならゆっくり眠れる、早番なら超遊べます。

 けれど、本当の意味で『休暇』と言うのなら、社会人である彼女らにとっては盆休みと正月休みのほうがリアルでした。

 工場なんで長めの休暇を設定します。1週間程度は連休で、だからおうちに帰ります。帰省です。

 で、この帰省の期間、教務室はほぼJRの出張所状態です。

 基本遠いところの子が多いので、新幹線を決め指定席をとって、乗り換えを考えて、また乗車券と指定席を用意してと、一苦労です。

 自分で考えられるならいいのですが、時刻表、マニアならともかく一般人には面倒だって。

 結構手伝いましたよ。

 毎日毎日大騒ぎです。

 そしてこんな苦労して予約したのに、座れなかったなんて言う子もいる。

 多分混み込みの新幹線、指定席の人が来るまでと勝手に使った大人達に、結局言えずに諦めたのです。

 そういう事したことある人、真面目に反省して下さい。

 子供さんが泣いていますよ。

 そうやって故郷に帰って、そのまま工場に戻らない子もいます。

 嫌なことや大変なことも多い現実に嫌気がさして、逃げて帰ってこないのです。

 うっすら予感はしております。

 多分あの子は戻ってこないな。

 この子も無理だな。

 でもね、帰すしかないんですよ。

 私が所属していた会社に戻らないこと。

 プラスと出るかマイナスと出るか、それは人生の終わりの方までわからないことです。

 本人の事情のみで決断できないことは、たぶん彼女ら自身が知っています。

 社会に出て、役割を与えられて働く以上、責任感だってそれなりにあります。

 プラス実家の事情もある。

 すべてを踏まえて投げ出したいなら、立場上言わないけれど、それはそれでいいと思っていました。

 今幸せであって欲しいと願っています。


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