第16話 ルーゼリック村にて再会

 俺とアシュリーは馬車に乗り、アシュリーの故郷、ルーゼリック村に向かっていた。

 馬車は山を越え、途中、テントで野宿をして一泊。


 やがてようやくルーゼリック村に到着。


「懐かしい!」


 アシュリーは声を上げた。

 水車小屋や花畑、キャベツ畑、牧場がある、質素な村だ。

 何と、妖精がキラキラと宙を飛んでいる。初めて見た。


 村人を見ると、全員若く、耳がとがっている。

 

「そうか、アシュリーはエルフ族だったな。ま、まさか、ここはエルフの村なのか?」

「そうです! エルフだけが住む村ですよ!」


 アシュリーはニコッと笑って言った。俺は驚いた。おとぎ話の世界みたいだな……。

 

 すると、その時!


「でやあああーっ!」


 いきなり、横から大声がした。


 ビュッ


 誰かの拳──つまりパンチが横から飛んできたのだ。


「う、うおっ!」


 俺はあわてて素早くそれをけた。


 シャッ


 今度はそいつの横蹴りが、目の前をかすめる!


「くっ」


 俺は横蹴りが飛んできた方を見やった。エルフ族の男がいる。彼は一歩前に進み出る。また蹴りか?


 ドガッ


 俺は素早く、右前蹴りを彼の胸に叩き込んでやった。


「うおっ!」


 その男は叫び、3メートルは吹っ飛び、地面に尻持ちをついた。


「イテテ……」


 男はそううめき、顔をしかめながら立ち上がった。


「な、何なんだよ、急に? 誰だ?」


 俺はそう言いつつ、男を見た。髪を後ろにしばったエルフ族の男が、そこに立っていた。──イケメンだ。


「お、お前、誰だ? 何で襲ってきた!」


 俺が腹を立てて聞くと、彼は質問に答えずに逆ギレしてきた。


「うっせえ! 俺様のパンチや蹴りを、けやがって! しかも前蹴りをカウンターで合わせてくるとは……。てめえこそ何者だよ?」


 エルフ族の男は、くやしそうに言った。どうやら武闘家ぶとうからしい。


「ローフェン!」


 アシュリーはため息をついて、その男に注意した。


「彼はお客様のゼントさんよ! 謝ってください!」

「ほー、お客様ねえ?」


 ローフェンという男は、ピューと口笛をふいて笑った。


「こいつ、単なる客にしては、強いぜ? そうとう……やるな!」

「おい、急に襲ってくるなんて、どういうつもりなんだ?」


 俺が聞くと、彼はまた、ピューッと口笛を吹いた。


ひまだったんでな」

「ひ、ひま?」

「それに強いヤツが来たみたいだから、手合わせしようと思っただけだ。お前、武闘家ぶとうかだな? ふん。じゃあ、この村にある、『ミランダ武闘家ぶとうか養成所・ルーゼリック支部』に行ってみろよ」


 ローフェンは言ったが、アシュリーは、「まったくローフェンったら。失礼な……」と、まだプリプリ怒っている。


「ふん、ゼントね……覚えとくぜ」


 そして彼は村の奥に歩いていってしまった。


「ミランダ武闘家ぶとうか養成所……?」


 どこかで聞いたことがあった。


 すると、アシュリーが説明してくれた。


「このグランバーン王国に、とても数多くの支部がある、武闘家ぶとうか養成所です。エルフ族と人間が共同経営しています。その支部の1つが、このルーゼリック村にあるのです。──母もそこにいますので、今から案内します」


 聞いたことがある! 俺が訓練生の時、「ミランダ武闘家ぶとうか養成所」に所属希望していた武闘家ぶとうか訓練生が、何人もいたっけ……。有名な武闘家ぶとうか養成所なんだな。


 俺はアシュリーについていった。

 

 村の奥には、丸太とレンガで出来た、ひときわ大きな屋敷があった。



 

 屋敷の中に入ると、熱気がムアッと感じられた。


「ハアッ!」

「デヤッ」

「トオッ」


 若いエルフ族たちが、6名ほど、格闘技の練習にはげんでいる。

 サンドバックを蹴ったり、武闘ぶとうリングに上がって、対人練習をしていた。


「違う、シシリー。足の動きが遅いよ」


 左の方で声がした。

 

 声がした方を向くと、車椅子に乗っている女性がいた。年齢は──20代前半くらいに見える女性だ。メチャクチャ美人だ。耳が長いので、エルフ族だろう。


 しかし──とてもせており、体調が悪そうだ……。


「シシリー、もっと力を抜いて」


 それでも、若い女性武闘家ぶとうかを指導している。


(ん?)


 俺は……この車椅子の女性に見覚えがあるような気がした。

 ……いや、そんなはずはない。エルフ族の大人の女性に、知り合いなんかいたっけ?


「私の母です」


 アシュリーは言った。え? そうなのか? 確かにアシュリーと似てはいるが……。


(そ、それにしてもきれいな人だなあ)


 こんな若い女性が、アシュリーのお母さん? そんなバカな。


 ……あ、そうか。エルフ族は年をとらないんだっけ。20代に見えても、実は100年生きているエルフなんてのはたくさんいる。


 車椅子の女性は、俺に気付いたようだ。


「あら? 人間族の方? ようこそ、ルーゼリック村へ……ゴホッ」


 女性は──アシュリーの母親らしき女性は、車椅子に座りながら、ゴホゴホとせきをしながら、俺を見た。


 アシュリーはあわてて、女性の背中をさすった。


「ママ、大丈夫? アシュリーだよ。帰ってきたよ」

「ええっ? アシュリー、よく無事で帰ってこれたわね……嬉しいわ、ゴホッ」


 どうやら本当に親子のようだが、車椅子の女性は若く見えるから、姉妹のようだ。


「あ、あの、無理をしないでください」


 俺は言った。


「ええ、あ、ありがとう。……え?」


 アシュリーの母は、俺をまじまじと見た。


「あ、あなたは……あんたは! ──ゼント! ゼント・ラージェント……!」


 ええっ? どうしてこのエルフの女性は、俺の名前を知っているんだ?

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