私たちだけのフィナーレを!!

たいよう坊主

グラティア

序章 追懐の響き

 信じ続けた。

 自分を信じられなかったから。

 信じたものがロマンだっただけ。

 物語って奴はそれの詰め合わせだ。

 だから物語を書いた。

 信じれば変わる世界を求めていたから。

 じゃあそのロマンは何かって?

 俺にとってのロマンは――




「            」

「くッ……一歩間違えれば即死だというのにどうしてそんなにもッ‼」


 両腕の形状をブレード化させたワームが近距離戦を避けるように回避中心の攻撃を続ける。形勢逆転ということだ。

 この状況は俺たちが確信していた。それを彼はわかっていない。


「                               」

「死ぬことが、恐いとは思わないのか‼」

「     」

《             》

「何がお前たちをそこまでさせるんだ……」


 答えは一つ。


「     」《     》


     ◇◆◇


「空白……気持ちわりぃ」


 乱暴に投げられる本を睨む。

 信樂楼しがらきろうは胸中に軋む不快感に腹を立て、拳を振り上げた。しかしそれは、当てもなく沈むだけ。


「大体、あの音はなんだよ‼」

 ぶっきらぼうな言葉もトレーラーハウスで反響するのみ。頭にだけ響くのは拍子木の音。

「毎度本を開く度うるせぇんだよ」


 今や献身的な楼をこうまでさせるのは、労働の疲れもあったから。少なくとも、普段からこんな乱暴な人間ではない。ただ……ただ彼は欠如する“それ”を求め焦っているだけだった。


 それほどまで不快なのにも関わらず目が離せない本は、シミを作り、表紙は焼け、よれによれたのもここ最近の話。

 異常なまで整頓されたトレーラーには修理した本棚がある。

 しかし、がらんどう。


 いつの間にか山ほどあった本は消え失せ、残ったのはこの本だけ。

 泥棒に入られた訳でもないし、そんなことをする奴は排他的なこの街で生きていけない。


 だから楼もわかっていた。

 この空白が原因だって。


 胸騒ぎがずっとしている。


 空白はロマンで満ち、自分にとって何よりも代えがたいものだった……そんな気がする。


 記憶はない。


「頼む。誰か教えてくれ。俺は何を忘れてるんだ」

 なんで本に向かって怒鳴っているのか自分でもわかっていなかった。


 ――チリリン


 この場の空気をあざ笑うベル。


 窓から見える景色は日が沈む直前。

 砂と瓦礫を紅く染め、荒廃したこの世界を刹那の間、戯れに彩る。


 その景色に見惚れるも再度鳴るベルはやはり空気が読めない。


「こんな時間に誰だよ」


 積もった感情を吐き捨てるが、外の街から来た者を相手するのは楼の仕事だ。

 トレーラー唯一の入り口を僅かに開くことで薄暗い部屋に紅が射す。


 ――シャン


 来客が不注意で落とした銀色のネックレス。


 藤色の宝石を付けたそれは明らかに高価なもので――


「おい、あんたこんな高価なもん落としたら……」


 俺はそれに触れた――

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