第19話 第一騎士団副団長 フレディ

「なんか悩み事か? ん? 人生経験豊富な副団長様になんでも相談してみ?」


 第一騎士団副団長フレディ言葉に、ロイドはもう一度軽く息をついた。


「あ、今ため息ついただろ?」

「ため息じゃありません。副団長との会話の準備として、息を整えていただけです」

「そんなに疲れるのか俺との会話は!?」


 がんっと、フレディがショックを受けたようなオーバーリアクションをした後、続けて苦笑を浮かべる。

 今年で三十になるフレディは、自分より一回り以上離れているロイドに何かと面倒を見ていた。


 ロイドからはちょくちょく上司に取るそれではない態度が出たりするが、それも二人のそれなりに長い関係性故のものだったりする。


「それで? 何があったんだ?」


 訊かれるも、ロイドに昨晩の出来事を話すという選択肢は皆無だったので無表情でこう答える。


「別に何もありませんよ」

「嘘つけ。“漆黒の死神”様が上の空なんて、天地がひっくり返る事態だぞ」

「勝手に死神にされてその言われはあんまりです」

「無理ねえだろ。剣も武術も超一流の上に冷酷無情とくりゃ、不気味がってか面白がってか、そう呼ぶ奴は出てくる」

「剣も武術もまだまだなんですがね。冷酷無情……は否定しませんが、ただ命令に忠実に従っているだけですよ、何か問題でも?」

「忠実、ねえ……」


 やれやれとフレディは両掌を上に向けた。


「ま、なんでも無いならそういう事にしておこう。業務には支障が出ないようにな」

「ありがとうございます」

「礼言ってる時点で察しなんだよなあ……まあいいや。つうかお前、ちゃんと飯食べてんのか? なんだか顔色悪いぞ?」

「昨日、ポトフを作ったのですが色々あって食べ損ねてしまいまして」

「ポトフってあの、どでかいウィンナーやらベーコンやらゴロゴロ入ったマッスルポトフかか?」

「前話しましたっけ?」

「簡単に作れて効率よく筋肉の元になる成分を取れるからほぼ毎日食べてますって、自分で言ってたじゃないか」

「記憶力良いですね、副団長」

「マッスルポトフって名前がパワーワードすぎたんだよ。一人暮らしにしては充分すぎる給金貰ってるんだし、もうちっとマシなもの食ったらどうだ? 食材ぶち込んで煮るじゃだけ味気ねえだろ」

「筋肉の味がして美味しいですよ、ちゃんと」

「もっとこう……人間らしい食べ物をな……」

「いざとなれば携帯食があるので。むしろこっちの方が効率的ですね」

「いやだから……人間らしい……はあ」


 今度はフレディが、諦めたようにため息をついた。

 

「やっぱお前には女が必要だな」

「藪から棒になんですか」

「奥さんはいいぞ! 可愛いし、癒しになるし、作る飯はうめえし」

「はあ」

「女の一人や二人できりゃお前の硬いその表情も、ちっとは柔らかくなるだろう」

「なるほど」

「全然興味なさそうで逆に笑えてくるな。お、そうだ、今度うちに夕食でも食べにこいよ。奥さんの手料理をご馳走するぜ」

「検討はさせていただきます」

「もう十回以上聞いた検討だが……まあいい。気が向いたらいつでも来い」

「ありがとうございます」


 社交辞令的にぺこりと頭を下げると、フレディは「じゃ」と手を振って去っていった。


 自分より一回り上で立場の高い副団長が、団内で孤立気味な自分をなぜ気にかけてくれるのか、ロイドにはよくわかっていなかった。


 ロイドはもう一度息をついて、残りの手入れをするため剣に手をかけるのであった。

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