Sideマナ/1 あ~、つまんな。
「あ~、つまんな」
王都アレスティオンにある屋敷の自室で、あたしは天井を見上げて漏らした。
う~ん、広い天井。意味もないのに派手に装飾されてて、キラキラしてる。
名前? 様式? 何とか調とかいうヤツじゃないの?
知らないわよ、そんなの。
歴史の授業なんてまともに受けたことないし、あたし、歴女じゃないモン。
ま、あっちの世界とは色々違うっぽいけど、ココ。
アレスティア、って国の名前は覚えてるわ。やっぱあたし、頭いーわー。
実は前から知ってたけどさ、ゲームでやったことあるし。
確か〈七つの月のエトランゼ〉とかいう乙女ゲーム。
クラスのブスオタ地味子ちゃんからゲーム機ごと『貸してもらった』ヤツ。
今どき、スマホ以外でやるゲームとか珍しいから『貸してもらった』のよね。
あー、どうしてるかな、あのブスオタ。色々『貸してもらった』なぁ。
何も返してないけど、ま、あんなブスに使われるよりは幸せっしょ、道具も。
それにしても――〈七つの月のエトランゼ〉、か。
最初はくだらな、って思ってたけど、やってみたら案外面白かったなー。
けどさー、やっぱオタはキモいわ。ゲームのオトコにブヒブヒいってんしょ?
背が高くて顔と性格もよくて金持ってるキゾクの坊ちゃんに愛されるとかさ。
どんだけ夢見てんのよって話。リアルじゃ無理だからってさー。
マジウケんですけどー、って、そんな風に思ってた時期があたしにもあったわ。
――この世界に来るまでは、ね。
でもね、この世界じゃ勝ちが約束されてんのよね、あたし。
何てったって、主人公だし。
前のあたしがやってた〈エトランゼ〉の主役のマナって子が今のあたし。
ヤベーじゃん。勝ち確じゃん。
顔も性格もイイ、金持ちのキゾクのイケメンがあたしだけを見てくれるとかさ。
ゲーム通りの流れで進めれば、それだけで薔薇色人生じゃん。
オウタイシくんの婚約者内定とか、王宮カースト最上位だしさ。
敷かれたレールに乗ってるだけの人生、最ッ高!
頭ン中お花畑のキゾクの坊ちゃんに、精々猫かぶって媚び売ってやるわよ。
昔っから、あたしの猫かぶりを見抜いたオトコなんて、一人もいなかったしね。
ちょっと話合わせて笑ってやれば、みんな手の上で転がってくれるしさー。
アハハ、ボロいわー。チョロいわー。やっぱオトコくだらねーわー。
けど、あたしと婚約するオウタイシ君、金はいっぱい持ってるのよねー。アハ。
って、そう、婚約よ、婚約。
これまでさんざんあたしをいじめてくれた、アンジャスティナとかいうクソ女。
今はオウタイシくんの婚約者だけど、それもとうとう明日で終わりよ。
オウタイシくん、あたしに言ってくれたモンね。
クソ女との婚約をやめて、あたしをお嫁さんにしてくれるって。
はい、勝ち~。
顔がよくても性格がブスなら嫌われて当然、ってね。
明日でオウタイシくんルートは完結。クソ女は死んで、あたしは王妃様。
あー、でも退屈ー。早く明日にならないかな。
オウタイシくんったら、あたしのこと心配しすぎてこんな屋敷に閉じこめてさ。
いくら何でもこれって人権侵害じゃね?
そっか、オウタイシくんも古い人間だモンね。人権とかわからないかー。
あたしが王妃様になったら、その辺もレクチャーしなくちゃってワケねー。
アハハ、あたしって、オットを立てるツマのカガミだわ。
……はぁ、やることなくて退屈。
やっぱ昔の世界ってダメだわー。
雑誌ないし、ゲームないし、テレビないし、ネイルいじれないし。
「あ~、つまんな」
天井を眺めながら、あたしはまた呟くのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あのクソ女、逃げやがった。
「衛兵、アンジャスティナを追え!」
「し、しかし殿下、本当に伏兵がいた場合はどのようにすれば……」
「く……、やってくれたな、アンジャスティナ!」
やってくれたな、じゃなくてさ?
おまえがやっちゃったんじゃん、キゾクの坊ちゃんがよぉ。
あいつの言ってたことなんて、どう考えてもブラフでしょうが。
それを真に受けて、何でみすみす逃がしちゃってるのよ、こいつら!
マジ呆れるんだけど?
何、バカしかいないワケ、この国ってさぁ……。
「マナ、すまない……」
オウタイシくんがあたしに謝ってくるが、内心、それどころじゃなかった。
クソ女が逃げたってコトは、どーなるのよ、これ。
あたしの華々しい未来はどうなるの?
金持ちのイケメン君達との甘い生活は?
買いたいものいっぱいあるんですけど?
行きたいところたくさんあるんですけど?
ねぇ、どうなったの? それ全部、どうなるのよ!?
ふざけんなよ、冗談じゃないわよ!
あのクソ女が生きてる限り、それ全部お預けってコト? うわ、笑えねー。
「殿下、アンジャスティナ様の助命は叶いませんか?」
「マナ、君は今でもあの女を死なせまいと……。だが、それはもはや無理だ」
オウタイシくんが苦しげな顔つきでそう答える。
あ、そ。まぁ、それならOK。別にあたし、助けようなんて思ってないし。
あたしは手を重ねて祈りのポーズを作り、オウタイシくんを下から見る。
「悲しいことですが、もう、納得する以外にないのですね……」
意訳:あたしが許すから、あのクソ女を絶対殺しなさいよ?
「殿下、どうか、殿下は殿下のなすべきところをなしてください」
意訳:おめぇがやることはあのクソ女捕まえて殺すことだからな!
「私はただ、殿下を信じ続けるだけです。お待ちしております」
意訳:さっさとやることやって、あたしに報告して安心させろ!
「マナ……」
オウタイシくんは一度あたしを見つめ、そののち、大きくうなずいた。
アホかよ。スカしてんじゃないわよ。
カッコつけてるヒマあったら、さっさとあのクソ女捕まえに行きなさいよ。
ったく、何がステラ・マリスだよ。くっだらな。
そんな組織、本当にあるワケが――、
「ん? ステラ、マリス……?」
あれ、どっかで聞いたことがあるような……。
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