A triger for the Majesty~落ちぶれ転生ゲーマーと嫌われ高飛車令嬢~
@D-S-L
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Opening movie
この世に星が降り注いだその日
空を
大地は
乱れ咲く
号哭と悲鳴が雨あられ
書を持つ天使は終焉を予言し
豊穣の神は復讐を
衆生は皆一様に祈った
想いは力となり
力は形となった
過去を打ち倒す
未来を啓く
その奇跡は叡智の営み
誰しもに宿る真実の喜び
授かりし恩寵の真意も知らず
——————————————————————————————————————
「あ、ああー……よし、頑張ろうぜ相棒…!」
血痕と弾痕に飾られて。
銃声と怒号が奏でられる。
ここは戦場。
屋内戦闘。
少数精鋭同士のぶつかり合い。
後が無いのはどちらも同じ。
人数は2対3。否、たった今1対3となった。
生き残った攻撃側の編成は盾役、遊撃、狙撃手。盾役と狙撃手は
対する防衛側。唯一の生存者。
カメラ映像などのジャミングに長けており、位置が特定されずらい彼の特性は、けれど今この場では無力に思われた。
守らなければならない対象が固定されているために、最後の一人がその部屋に陣取ることは明白。
つまり居場所は筒抜けで、背後からの不意打ちはほぼ不可能。
最悪、爆弾を設置されることさえ阻止できればいいのだが、要する残り時間は1分と少し。相当な余裕があり、時間稼ぎによる勝利は望めそうもない。
正面からスモークと共に盾と射手が突入。予め回り込んでいた遊撃手が、反対側から同時に踏み込む。たったそれだけで“詰み”。
堅実、そして堅牢。
反撃を許さぬ侵攻。
勝利など、万に一つも有り得ないだろう。
この戦いが、今のこの一瞬だけだったのなら。
「あ、相棒ォォォ!?…スゥー、うん!OK計画通り!」
少し調子に乗った風に見せた後、こういった焦りも表に出す。その一手は演出の一環。
彼は試しに、寄せ手の心を想像してみる。
受け手の抵抗に脅威は感じないだろう。
「勝った、意外と弱かった」だろうか?
それとも始めから、いつも通りの作業と同じつもりか?
——バーカ、そんなわけあるか。
心底愉快な内心が、口に弧を描かせるのを抑え込む。
大胆に、予測不能に、しかし確実に。
これから起こるのは必然だ。詰めているのはこちら側。後は型に嵌めたまま終わらせる。
そうほくそ笑むと、彼は行動を開始する。
これまでの彼は優等生だった。
定石に次ぐ定石。
突飛な奇策は一つも無し。
ついさっきまでそれで通した。
故に連携で優れる相手方が、勝ち越すのは当然のこと。
そしてこの土壇場で、優勢に置かれている勢力が、これまでの鉄板の攻め方を変える、それは蛮勇の一歩と同じ。
ずっと通用していた手法を、曲げて負ければ目も当てられない。
だから、彼らはズラさない。
いいや、そこからズラせない。
同じ経路による進行は、止まっていることと変わらない。
場所とタイミングさえ決まっていれば、超音速の弾丸だって、
——それが来るところに居なきゃいい。
「『阿保が見る』、だぜ?」
初手。入ってきた盾役の背中に、最後の防衛者が左斜め後方の部屋の角から、
——防衛側が無謀とも言える、前進守備をしているかもしれない。
頭の隅に可能性が
一つ、勝つ流れが来ているという、勢いに乗った油断。
一つ、有利な者達特有の、「敵は思い通りに動いてくれる」と信じて疑わない慢心。
一つ、教科書通りで小心な戦い方をしてきた敵が、賭けに出るわけがないという侮り。
一つ、情報収集の妨害に有利な装備を選択した、防衛側の前準備。
一つ、攻撃側自身のスモークで作り上げた、最悪な視界状況。
いずれか単独だけならば、視野の濁りを振り切れたかもしれない。
遊撃か盾役が横を向いて気付くか、
ならばと思いつく限りの全てで相手の目を潰し、意図を読まれる危険性を最小限に抑えた。
狙撃手がそのスタイルに則り、煙を撒きつつ盾役とは時間差で、後(うしろ)から来ることもまた都合がいい。
スモークの中なら遊撃手にも撃たれたず、盾役は単独で敵とご対面。
同時に出くわせば3対1。
しかし離れれば
二手目、起爆スイッチをオンに。
遊撃手が爆散。
盾と同時の
勝ちパターンに拘泥し、自ら手の内を晒し続ける。
だからこういう事になる。
いっそ見事な自縄自縛。
勿論、設置型プラスチック爆弾——C4は、独特の音と光を発するため、遊撃手は気づいていただろう。
だが、味方は既に準備を整え、進軍は最早止まらない。
今どさくさに紛れなければ、入るチャンスは二度とない。
死地に入る瞬間に、敵に余裕が無ければいい。
こちらに注意が向いて無ければ。
そんな楽観——
これ以前から観察していた防衛者は、攻撃側の情報交換が、それほど密でないと見抜いている。
片側で独り奮闘する彼が、もう一方で勝ちを確信する隊員達に、咄嗟に警告できるという可能性だけが、針の先ほどの小さな活路。
が、今
——あと、一つ。
残弾
煙幕は晴れ、残敵の位置は露出。スナイパーとしては致命的な状況。
メインに長距離狙撃銃。この距離では取り回しに難あり。
——これで、勝ちっと。
身を乗り出しながら予想地点に決め撃つ。
どうせ伏せているだろうと思い、下めに
ビンゴ。肩から血飛沫。
弾倉の残りを敵の躰に、押し込むように引鉄を引き絞り——
暗転。
「…えあ?」
死んだ。
そして、負けた。
リプレイ映像を見てみれば、伏せて乱射したピストルの、その一発が頭を貫いた。
頭の出る位置を見切られていた。
こちらの初弾が頭を捉えられなかった。
これにて
敗者へ転落。
最上位ランクへの昇格戦。
6対6の
酷くつまらない死に方で。
あまりに締まらない結末で。
大袈裟にデスクに突っ伏して見せる。
その視界の端の数字が2000程減少する。
それでもまだ3000人は見ているが、なんだかやる気が滅入ってしまった。
「おしいいいいいいい」「あーあ」「第5ラウンドでのピークが良くなかったね」「ざっこ」「はい運ゲー」「これでエイムアシスト無しってマ?」
流れるコメントの中身の無さ・頭の悪さ・的の外れようが、彼の頭痛に更に拍車をかける。
——ああ、こいつらに担がれてるお山の大将が、俺なんだなあ…
この無責任な大衆と、自分が同類であるのだと、彼は今
「あぁ~、クックックッ、敵さん強えええ。最近野良のレベルが高くなってて、古参
最後のセリフの「じ」と「ゃ」の間あたりで配信を切る。
手にしたコントローラーをコトリと置いた。
気がつけば、随分と長い間配信していた。
最近ずっとこうだ。
まるで逃避してるみたいだと、そう思わずにはいられない。
疲れがどっと押し寄せる。
瞼と肩を押さえつけてくる。
おまけに空腹が付いて来た。
何か口に入れるべきか。
今の冷蔵庫はほぼ空で、最寄り駅のコンビニまでは10分程。もっと近く、病院が建っている方角にも一つあるが、そちらは使わないことに決めている。
この体調では、それだけの道行すら億劫である。
まずは、偏頭痛を落ち着かせたい。
心を落ち着かせる為のお気に入りのトラック。
竜巻に飛ばされ見知らぬ世界に迷い込んだ少女が、家に帰るまでのお話。そのミュージカル映画の劇中歌、のハワイアンバージョン。
穏やかな旋律が、波のように寄せれども、ささくれだった心臓は、一向に棘を収めてくれない。
「畜生…」
別になんてことない。いつものことである。
オンライン対戦をメインコンテンツとしたPC用FPSゲーム『STILL ALIVE』、通称“
それが、こんなにも気力と体力を削り取るのは、あんな事があった直後だからか。
——いや、あんなの俺にとっては何でもねえ。立て直す方法はいくらでもある。
背後に広がる閑散とした空間が、彼の背中に圧し掛かるように——
——違う。人が減って静かになった、ただそれだけの当然の帰結だ。この場所にそれ以上の意味なんてない。
机も椅子もPCも、片づけられただだっ広い部屋。
その寂莫から目を逸らす。
あの後、“数字”も目に見えて減った。
つまりそれだけ、期待されなくなったということ。
バイトも何か始めないといけないだろうか。
彼は——プロゲーマー崩れのストリーマー、
今日は整髪剤等を使っていない。傷んだ黒髪を無造作に押さえつけ、恰好も部屋着そのまま。
眉目秀麗とはいかず、起伏に乏しい顔面。よって清潔感だけでも整えるのが普通だが、今日の彼はそれすら投げ出していた。
翔は「トリガラー」という名前で配信活動を行っている。
配信者歴はもう5年目になる。
面白おかしくソロゲームを攻略したり、バラエティ番組の二番煎じのような企画も行ったりしているが、メインコンテンツはオンラインゲームの対人戦。
ゲームを遊ぶことで金を稼ぐ。その道で生き残るのは至難の業である。
神業的なプレイ、分かりやすい解説、楽しげなトーク、何より常勝すること、またはそう見せること。
それらの二つ以上が無ければ人気になれない。
例外としてアイドルのような者が、「楽しくプレイする」だけで評判になる場合もあるが、それは元々積み上げて来たファン数があるための反響であり、ゲーム単体で金を生み出しているとは言えない。
更に言えば、プレイングが上手い人間の方が、より容易に人を集める。頭を使わずに、見ているだけで楽しめるからだ。
翔の自己評価としては、「適性はあるが才能が足りない」、だ。
もともとゲームには慣れ親しんでいたせいか、高校生の時に手を出したFPS——一人称視点シューティングゲーム——のオンライン対戦にはすぐに適応した。
自分のキャラを思い通りに動かす訓練をし、相手の考えを読み、世界中の敵から勝利を掴む。
それは興奮と没頭の連続だった。
翔の半生の中で、最も努力に結果が付いてくる実感があった。
無我夢中で経験を積み、日々の活動をその為に最適化したところで。
気づいてしまう。
——俺の力には、限界がある。
例えば、動体視力と反射神経、指先の細かい動きの制御、特殊なモーションを把握し、複雑なスティック操作で実践する技量。
悪くはない。
だが、トップクラスと称するには
単に「上手い」というだけで、勝ち続けることはもうできない。
それが分かってしまう。
最上位のバケモノ達を見ると、余計にそう思う。
見えた瞬間、精密機械のように頭を打ち抜く
超遠距離から偏差を読んで命中させるスナイパー。
登れない筈の壁を昇り、撃ち合い中に視界から消えるキャラクターコントロールの鬼。
彼らと正面から戦って、勝てる由もなし。
翔は選択を迫られていた。
手応えはある。
それこそ後にも先にもこれっきりかもしれない位に、大きなヤツだ。
世の中には「eスポーツ」という言葉もあり、そこではゲームで勝利し、または魅せることで金を稼ぐことができる。つまりライフワークにすることもできる。
選手寿命は短いが、人気になれば引退後も食っていける。
世界の頂点を取れば、そのネームバリューだけでかなり有利になる。
色んな奴を、見返せる。
これより先、自分の名前を世に知らしめることのできる手段が見つかる保証も無い。
プロゲーマー、特にeスポーツリーグに出るような人間の、選手としての寿命は20代が限界。
それ以降は諸々の能力が衰えていき、大金を動かすスター選手にも、一騎当千の強者にもなれなくなる。
つまり、やるなら出来るだけ早いうちだ。
プロを目指す。
ハイリスクだが、翔にとってはハイリターンでもある。
今の所唯一の光明だからだ。
ベットするかどうか。
勝ち目はあるのか。
結論から言うと、翔は青春をチップにその賭けに乗った。
勝算はあった。
考える事は好きだった。
心の隙を突くような戦略的プレイングも得意だった。
彼は繊細に、奇抜に、時には姑息と罵られるような手段を使い、のし上がった。
格上相手に勝ちを重ねた。
知名度上げの一環として、配信活動に手を出した。
そうして”SAL”という、世界中でプレイされることになるゲームとの出会い。ブレイクしそうなゲームを複数、虎視眈々と狙っていた甲斐もあり、配信初期から関わることが出来た。積極的に拡散し、「次に来るゲーム」と喧伝し続けた結果、今では人と金を集める一大コンテンツとなったSAL、その人気の影の功労者とすら言われている。その肩書を持った彼は、日本のeスポーツ業界において無視できない存在となり、自分がリーダーのプロチームまで持つに至った。
メンバーは自身でスカウトした連中。「こいつらなら勝てる」と確信できた精鋭達。彼らの名前が売れる前に、発掘しものにすることができた。
その5人で、アジアの頂点にまで登り詰めた。
全ては順調だった。
——そうだ、俺は成功させた。
ほとんど思い通りに行った。
だから今回の事も誤差の範囲内。
単にチームが解散しただけ。
他の人間なら諦めているだろう。
24歳で再出発。プロゲーマーとしては絶望的。
だがこういう時の為に、種は撒いておいたのだ。
慕ってくれている“後輩”を思い出す。
一度やったことをもう一度。
失敗から学び今度こそ。
翔はまだ折れてなどいない。
だから——
——俺は、必ず一番に。そうだろ?
胸中の決意は、しかし言の葉に乗せられない。
言い切ることさえしたならば、再起は可能だと胸を張れたのに。
声が出ない。
呼吸が出来ない。
「ハァー…ッ、ハァー…ッ」
耳に血を通わせ曲に集中する。
皮膚の下で暴れる
大丈夫だと言い聞かせ、周囲を見ない為に前を向く。
——俺は出来るこれまでだって困難に打ち勝って来たこれからもそうだ今に見てやがれまだ味方は居る影響力はある馬鹿にしやがって上に立ってやる偉そうにしやがってそのツラに
ドアチャイム。
ヘッドセットを外し、ゲーミングチェアから立ち上がり、気怠さを主張する脚を、インターホンが見えるまで進める。
途中、視野に入るのは、広い部屋に高価な機材。
家具調度だって高性能で豪華。
家賃もかなりの額を支払っている。
複数人用の部屋として、借りたのだからそれは当然——
とにかくそれらを見て、自分が如何に成功者なのかを、彼は再確認しようとしている。
到着した時画面に映ったのは、帽子を被った男の姿。
「はい?」
「宅急便でーす」
「ふぅい、今開けます」
届いた荷物の詳細を確かめるべく、マンションエントランスを開け放ち、
——何頼んだんだっけ?
そのまま玄関へと向かいつつ、思い出そうと努めてみる。
翔の記憶に、先日受けた案件——それも大手ゲームハードメーカーからの依頼——が浮上する。
「最先端のVRアミューズメント」と称し、大々的に発表される予定のプロジェクト。「よりリアルな体験の為」と言われ、身長・体重・胸囲・腹囲・座高・足のサイズ等々、あらゆる数値を測定された。
仮想空間のアバターを、本物の身体のように思い通りに動かす。それを実現できるとのことだった。
節操無しと言われようと手広くやってきた、そのコネクションはこうやって活きる。
例えば、さっき彼が使っていたキャラクター。
フルフェイスの特殊部隊用ヘルメットを被っているため、素顔が分からない。
がっしりとした体格と、初老の男性であることしか知られていない。
だが、翔はその隠された顔を知っている。
開発者と懇意にしている為、そういった裏設定を開示してくれることもあるのだ。
特別な権利と書いて、「特権」。
そう、彼は「特別」なのだ。
話が逸れたがとにかく、彼は時にそういった特殊な仕事を受ける。
この業界の最先端に触れられる。
今回は、新技術体験第一号だ。
それに関連して、近々何かを送ると言っていなかったか。
それが何であったか、彼が思い至るその前に、玄関の呼び鈴が鳴らされる。
考えを中止し、扉を開ける。
直接見てみれば、分かることだ。
暗い室内から外へと一歩。
軽い立ち眩み。
手を翳して目を慣れさせる。
翔が顔を上げたその先には——
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Tips:フィジカルモンスター…シューティング系のゲームにおいて、正面から、もしくは不利な状況下での撃ち合いの勝率が高い者を、「フィジカルが強い」と言う。要は小細工とかでなく単純に強い人間を、そのままパワー型キャラクターに喩えたものである。
セミオート・フルオート…水鉄砲を思い浮かべてみよう。あれみたいに、引鉄を引く度に水(弾)が発射されるのがセミオートor単発。
それに対して、庭に水を遣る時や、水泳のプールで使うホースを思い浮かべてみよう。あのように、引鉄を引き続けると、水(弾)が出続けるのがフルオートor連射。
頭に一発でも当たれば勝ちのゲームでは、数うちゃ当たる理論が物を言い、セミオートよりもフルオートの方が強い傾向にある。
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